Wikipathologica-KDP
NF-κB シグナリング:活動性B細胞レセプターシグナル
B-cell receptor signaling†
B-cell受容体シグナルカスケード
BCRに由来するシグナル伝達カスケードは分化段階にあるB細胞から成熟細胞にいたるまで各段階においてB細胞の運命決定をコントロールする。
- BCRはIgH鎖とIgL鎖からなり、これにIgα(CD79a), Igβ(CD79b)のシグナル伝達コンポーネントが付随してBCR複合体を形成する。
- 正常B細胞では, B細胞受容体シグナルの抗原刺激にはCARD11が使われ, B細胞受容体の抗原特異性は細胞表面免疫グロブリンにより決定される.
しかし,シグナル伝達は2つの関連タンパク質, CD79A(Ig-α), CD79B(Ig-β)により行われる。*1
- 抗原の結合とBCRの架橋(受容体クロスリンク ligation)によりタンパク質チロシンキナーゼのSykとLyn(Src family protein tyrosine kinase)がまず活性化される。
- 次いでLynはIgαとIgβの細胞質内領域にあるITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)をリン酸化する。
- これによりSykのITAMリン酸化部位への動員と活性化が誘導され、さらにBtk(TEC-family PTK)が活性化される。
Activated B-cell type-Diffuse large B-cell lymphomaでは細胞膜上にBCRのクラスターが確認され, 約20%前後の症例ではCD79AあるいはCD79BのITAMに変異が生じている。BCRを介したシグナルの異常がその発症にかかわっていることが示される。*2
ITAM (immune tyrosine-based activating motif):
YxxI/Lx(6-8)YxxI/Lのアミノ酸配列からなる.T細胞レセプターのシグナル伝達分子CD3γ, δ, ε, ζ鎖, B細胞レセプターの伝達分子Igα, β鎖, 活性化NK細胞レセプターのDAP12の細胞内領域に認められる.
会合するレセプターがリガンドを認識することにより, ITAMのチロシンのリン酸化に始まりZAP70やSykといったチロシンキナーゼのリン酸化が誘導され活性化シグナルが伝達される。
Davis REらのDLBCLのchronic active B cell receptor signaling研究*3
- 225例のDLBCL生検組織で, 161例のactivated B-cell type DLBCLのうち29例(18%)にCD79B ITAMの最初のチロシン(Y)が点突然変異によりさまざまなアミノ酸に置換されていた。一例では3bpの残基が欠損していた。
- 64例のGCB type DLBCLでは, ITAM最初のチロシン変異は1例のみ, その他ITAM, L199Qが1例認められた。
- 最終的にABC type vs GCB typeのCD79B ITAM変異は, 21.1% vs 3.1%で, 有意にABC type DLBCLに高頻度であった。
- 20例のBurkitt lymphoma, 16例の胃MALT lymphomaにCD79B ITAM変異は認められなかった。
- ABC type DLBCLのcell line, OCI-Ly10ではCD79A ITAMのsplice donar siteに変異がある。18個のアミノ酸が欠損し2番目のチロシンを含むITAMはほとんど欠失している。*4
- ABC DLBCLの生検組織では, 1例に同じsplice siteの欠損がみられ, 他の1例はITAM全部が欠損する変異を示した。
- CD79Aの変異はABC type DLBCLではまれ。2.9% (2/68 biopsies)

CD79B and MYD88 mutation in DLBCL (Koreaの報告例)*5
- CD79B exon5とexon6(ITAMに相当)の変異は187例のDLBCLにおいて, 15のmissence mutation, 1例のnonsence mutationが認められた。totalでは8.5%であり、すべてがITAM domainの変異であった。
- ITAM domainの最初のチロシン(Y)のmissence mutationは16例中14例であり, Davisらの報告の結果が保たれている。
- ABC typeとGCB typeのDLBCLにおいてCD79B変異に差は認められず( 10.8% vs 5.1%), 変異頻度はDavisらの報告より低頻度であった。(Davisらは16%のCD79B変異出現率)
- CD79B変異DLBCLの症例はwild type群に比べて優位に高齢であった(65.6±12 vs 57.6±13 yo)がその他の臨床事項, 性別, IPI risk, 治療への反応には差がみられなかった。
ABC型(activated B-cell type)びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(ABC型DLBCL)
- 胚中心(GC)のB細胞は細胞表面の免疫グロブリン,すなわちB細胞受容体やサイトカインからの刺激によって,NF-κB, JAK/STAT経路などを活性化させる*6
- GCではBcl-6, PAX5, BACH2などの転写因子が形質細胞への分化に重要なBlimp-1の発現を制御しているがNF-κBが活性化するとIRF4(MUM1)やBlimp-1自体の発現が誘導され,形質細胞への分化が進む.
- ABC型DLBCLでは,欠失だけでなく,フレームシフトやナンセンス変異により6q21/BLIMP1の発現が抑えられていることが多く,形質細胞への分化は抑えられている*6
- また,アレイCGHの検討から18qや19qの増幅,+3といったゲノム異常が特徴的とされる.*7
- ABC型DLBCLのBcl-2高発現はFLやGC型DLBCLで認められるような転座ではなく,増幅による発現増強が原因と考えられる.
- ABC型DLBCLにおけるNF-κBの活性化にはB細胞受容体からの慢性的なシグナル伝達が影響している.共受容体であるCD79a・CD79bのITAM領域から PI3K BTK CARD11,更にBcl-10/MALTI/TRAF6を介するNF-κBのcanonical pathwayの活性化は,CD79のITAM領域や,PI3K CARD11の機i能獲得型突然変異などによってもたらされていると考えられ,野生型CARD11をもつABC型DLBCLに対しては,BTK阻害剤であるibrutinibなどのチロシンリン酸化酵素阻害薬が治療薬として有望視されている.*6
メモリーBで起きる異常*8
- GCを生き延びた濾胞B細胞は濾胞T細胞からIL-21などの刺激を受け,そのまま形質細胞に分化するかメモリーB細胞となって静止期に入る.
- メモリーB細胞への分化の際, EBVの受容体であるCD21を高発現するため.そこでEBVによる修飾を受ける可能性がある.メモリーB細胞は血中に移行し,骨髄や再度リンパ組織に戻ってくる.
- ヒトメモリーB細胞でもGCの濾胞T細胞による抗原刺激を受けてきたものとGC外分化をきたしたものが存在する.後者はSHMをほとんど起こしていないが,粘膜下に分布するものにはIgAにCSRを起こしていて,再度の抗原刺激で形質細胞へ分化して結合力の低い抗体を産生する*9.
- 脾臓の白脾髄にはメモリーB細胞のとどまる辺縁帯が存在するがそこにも両者が混在すると考えられる*9.
- メモリーB細胞維持の条件(マウスで得られた結果)
①B細胞受容体のシグナル,②BAFF受容体によるシグナル,③Notch2シグナル,そして④ケモカインやインテグリンの発現,などの異常が重要と考えられている.
- ①,②からNF-κB活性化が引き続きメモリーB細胞に重要な働きを示していることが理解できるが特に①の機能を担うのがBTKを介したBcl-10/MALT1/TRAF6である.
- メモリーB細胞まで無事分化できた腫瘍細胞は,慢性的な抗原刺激によるシグナル異常が腫瘍化に影響し,形質細胞への分化が可能でMタンパクを産生しうる辺縁帯リンパ腫(marginal zonelymphoma:MZL)やLPLという形をとることが多い.
ホスホリパーゼCγ2(PLCγ2)とホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)により生成されるセカンドメッセンジャーとアダプター分子群による下流シグナルネットワークへの情報伝達。