ページcontents:
がんゲノムアトラス The Cancer Genome Atlas projectは、大腸癌および直腸癌のゲノムデータより治療の標的となりうるゲノム異常を見つけ出すことを目的とした.*1
- 大腸癌と直腸癌は解剖学的位置または起源にかかわらずgenome変化パターンが同一の単一疾患単位であると結論した.
- 結腸直腸腫瘍の高悪性度と,正常なDNA修復機序が破壊されているため遺伝的突然変異率が異常に高い(高頻度突然変異)という現象の間には負の相関があることが知られている. TGCAの研究では、標本の16%が超変異型であることが判明した。
これらの症例の4分の3は, より良い予後の指標となることが多いマイクロサテライト不安定性(MSI)を示した.--->Lynch Syndrome- 224の結腸直腸癌検体を調査し, 有意な24の遺伝子変異を観察した。以前より指摘された変異(例えば、APC、ARID1A、FAM123B / WTX、TP53、SMAD4、PIK3CAおよびKRAS)に加えて, ARID1A、SOX9およびFAM123B/ WTX 変異を発見した。
- 結腸直腸癌の治療ターゲットとして遺伝子ERBB2(erbB2=her2)およびIGF2の突然変異または過剰発現を同定した。これらの遺伝子は、細胞増殖の調節に関与し、結腸直腸腫瘍において頻繁に過剰発現されることが観察された
- シグナル伝達経路の分析がおこなわれた。シグナル伝達経路は、細胞発生中に遺伝子活性を制御し、細胞が器官または組織を形成する際に細胞間の相互作用を調節する
- TCGA Research Networkは、WNT経路と呼ばれる特定のシグナル伝達カスケードにおける新しい変異を同定した。---> Wnt(ういんと, と読むらしい)protein/ pathwayのページをみる
- WNT経路以外に, 治療ターゲットとして有望な可能性のある改変された経路としてRTK(receptor thyrosin kinase)/ RASおよびAKT-PI3Kを結腸直腸腫瘍の実質的なセットで同定した。
- これらの発見により、薬物開発者は, 調査の範囲を狭めることができて, より集中的な治療アプローチを生み出すことが期待できると考えられる。
The Cancer Genom Atlasではcolorectal cancerを3つのグループに分けた。
1) hypermutated tumours. ~13%,
promoter領域のhypermethylationのため通常, MLH1 silencingがおこりDNAミスマッチ修復不能となった, microsatellite instabilityを伴っている.
DNAミスマッチ修復と認識ができないためhypermutatedとなったdMMR(defective mismatch repair), またはinsertion/deletionをきたしたdMMR pathwayをもつ.
sporadic hypermutated cancerの80-90%は, BRAFV600E変異を有する。
CIMP(CpG island methylator phenotype)-high, SCNA (somatic copy number alterlation)-low.
2) ultramutated tumors. ~3%
DNA polymerase Epsilon or Delta1(POLE or POLD1) exonuclease domain(proofreading) mutations(EDM)により酵素が働かずDNA複製のときにまちがったnucleotidesが使われてしまいultramutaed typeとなる。
3)CIN (chromosome instability) tumors ~84%.
高頻度にsomatic copy number alterlation(SCNA)がおこる. 変異の頻度は低い(8/Mb), microsatellite stability(MMS).
WNT pathwayの制御不全(もっとも多いのは, APC geneの異常)がある.
コンソーシアムCRCSCにより, 各グループの大規模データ統合解析を行い遺伝子発現解析から大腸癌の87%について、CMS1から4までのsubgroupに分類した.
subgroupのRFSやOSが解析され, 再発後の予後も検討された.大腸癌トランスレーショナルリサーチ推進におけるベンチマークの研究ではあるが, genotype-phenotypeの関連などが乏しい結果がでており, 大腸癌のheterogenityがより鮮明になった。コンセンサスについてはより精度の向上が必要である.
前向きの検証ではないため、すぐに臨床応用することは難しい.
1) CSM1; マイクロサテライト不安定化[MSI-high]と免疫反応 14%
高頻度の遺伝子変異. MSI-high, SCNAsは低値. 強い免疫活性を示し女性で右半結腸に多かった. BRAF遺伝子変異が多く病理像は高悪性度.
2) CSM2; canonical 古典的subypte 37%
上皮性. WNTとMYCシグナル伝達の著明な活性化あり.
3) CMS3; metabolic 代謝性 13%
上皮性. CMS2, CMS4と比較するとMSIがみられKRAS遺伝子変異率が高かった. CpG islandメチル化表現型は低く, 明らかな代謝異常が認められた.
4) CMS4; mesenchymal 間葉性 23%
TGF-βの顕著な活性化, 間質浸潤, 血管新生を示し炎症システムの活性化にかかわるシグナルの上方制御が見られた. stageIII, IVの進行癌が多かった.
5) unclassified; 分類不能群 13%
臨床病理像と予後
論文の結果まとめ.*2
CMS1
CMS2-4
CMS groupと特異的に関連する遺伝子変異
これは、colorectal cancerでは, 一般的に想定されるdriver事象を有する腫瘍であっても, それらの生物学的ふるまいは著しく異なるという考えを支持する. genotypeとphenotypeの関連はcolorectal cancerにおいてはごくわずかであることが明確となった。
遺伝子, タンパク質発現, 細胞混在とCMS subtypes
発現タンパク質レベルとCSM subtype
microRNA(miR)分析とCMS group
大腸癌の約80%にepithelial growth factor receptor(EGFR/ HER1, erbB1)が高発現しており, 高異型度組織型や臨床悪性度と関連している. *3*4
- EGFRは, 細胞外から上皮成長因子(EGF), amphiregulin, epiregulinなどのリガンドが結合し, EGFRもしくは, 他のHERファミリー分子との二量体を形成, 細胞内チロシンキナーゼドメインの自己リン酸化を介して活性化され, 下流へのシグナル伝達が起こる.
- 下流シグナル経路としては, RAS/ RAF(MAPK)経路, PI3K/AKT/mTOR経路, JAK/ STAT経路などが存在する.*5
- EGFR経路は正常組織において, 細胞分化, 増殖, 維持に働く一方, 大腸癌組織においては, 機能亢進により癌細胞増殖, 浸潤, 転移, 生存, 血管新生などに関与している.*6
ADCC(抗体依存性細胞障害)
細胞膜上FcγRの結合によって起こる抗腫瘍効果のひとつで、抗体ががん細胞表面に結合することで、Fc受容体を介してNK細胞に対してがん細胞を標的とさせ、NK細胞よりperforinとgranzymeを分泌させ, がん細胞にアポトーシスを惹起、がん細胞の溶解をきたす。
抗EGFR抗体薬の投与と抗EGFR抗体免疫染色
● 抗EGFR抗体薬を投与するために抗EGFR抗体免疫染色は必要ではない
● 体外診断薬として承認されたキットがあるが, 検討によりEGFR発現陰性大腸癌症例でもcetuximab奏功例が存在すること*14, EGFR発現強度と抗EGFR抗体治療薬の効果に相関がないことが明らかになった.*15 *16
■ RAS,RAF変異があれば抗EGFR抗体薬の効果は期待できない.
RAS遺伝子変異によりアミノ酸置換が生じ, 変異型RASはGTPへの結合はできるが, GTPの加水分解ができなくなり恒常的に活性化状態となり, 下流に過剰シグナルを送りつづける.
BRAF遺伝子変異によるアミノ酸置換(ほぼV600E)は上流RASタンパク質からの刺激の有無にかかわらずMEK-ERK経路の下流タンパク質に恒常的活性化をきたす。
RAS遺伝子変異は大腸癌発生初期に生じると考えられている.
RAS, BRAF変異がある場合, EGFRのシグナルを抑制しても腫瘍抑制効果が期待できない(*)ため, 抗EGFR抗体治療を行う前にRAS, BRAF変異の有無を確認しておく必要がある.
&ref(): File not found: "mark-dg.gif" at page "Colon cancer"; RAS(K-Ras, N-Ras)変異の種類と抗EGFR薬
COSMICによるcolorectal cancerのRAS遺伝子変異の頻度はK-Ras遺伝子 33.4%, N-Ras遺伝子変異 3.6%, H-Ras変異0.3%.(ver77)
K-Ras exon2以外の exon3(codon59, codon61), exon4(codon117, codon146), およびN-Ras exon2(codon12, codon13), N-Ras exon3(codon59, codon61), exon4(codon117, codon146)変異例に対するパニツムマブの効果追加解析を行ったが, 野生型以外のRAS変異陽性症例では効果は期待できなかった。K-Ras exon2とそれ以外の変異を比べても同等に上乗せ効果はなかった. (2013年移後の第III相試験: PRIME, 20050181, 20020408, PICCOLO, 20100007試験)
欧米でも本邦でもK-Rasexon2変異の頻度は大腸直腸癌の35-40%で差はみられない
K-Ras遺伝子exon3, exon4変異, N-Ras遺伝子 exon2, exon3, exon4変異の頻度は欧米の臨床試験で10-15%(K-Ras exon2変異の約20%). N-Ras exon4(codon117, codon146)変異は全大腸癌の0.3%未満と極めてまれ.
大腸癌治療ガイドライン
本邦では, 各進行期, 病状における治療方針について, 上記ガイドラインが設定されており, ネット上で閲覧が可能です(ネットでは最新版のひとつ前の版までしか閲覧できない).
詳細についてはガイドラインを見るのが最良です。--->大腸癌研究会治療ガイドライン
ガイドラインの使用法*19
本ガイドラインは,文献検索で得られたエビデンスを尊重するとともに,日本の医療保険制度や診療現場の実状にも配慮した大腸癌研究会のコンセンサスに基づいて作成されており,診療現場において大腸癌治療を実践する際のツールとして利用することができる。具体的には,個々の症例の治療方針を立てるための参考となることのほかに,患者に対するインフォームド・コンセントの場でも活用できる。ただし,本ガイドラインは,大腸癌に対する治療方針を立てる際の目安を示すものであり,記載されている以外の治療方針や治療法を規制するものではない。本ガイドラインは,本ガイドラインとは異なる治療方針や治療法を選択する場合にも,その根拠を説明する資料として利用することもできる。
本ガイドラインの記述内容については大腸癌研究会が責任を負うものとするが,個々の治療結果についての責任は直接の治療担当者に帰属すべきもので,大腸癌研究会およびガイドライン委員会は責任を負わない。
Stage 0~Stage Ⅲ大腸癌の治療方針
Stage IV大腸癌の治療方針
再発大腸癌の治療方針
血行性転移の治療方針
化学療法
放射線療法
緩和医療・ケア
大腸癌手術後のサーベイランス
内視鏡的一括切除
excisional biopsy(全摘除生検)に相当し病理組織学的検討により治療根治性と外科切除追加の必要性を判定する.
polypectomy
endoscopic mucosal resection(EMR)
endoscopic submucosal dissection(ESD)
適応には腫瘍サイズ, 予測深達度, 腫瘍形態の情報が必須.
適応基準は, cTis(M)あるいは, cT1(SM)軽度浸潤;stage0~Iの一部までであり, 腫瘤の大きさ, 肉眼型は問わない.
正確な病理診断のため, polypectomyおよびスネアEMRで一括切除をするための腫瘍サイズは2cmまでが限界.
大腸ESDは技術的難易度が高く, 穿孔の合併症危険度が高いので径2~5cmまでを保険適応とされている.
内視鏡的摘除後, 遺残病変の確認と遺残がある場合はその追加治療をおこなう。(追加切除, hot biopsy, 焼灼, etc)
内視鏡治療後のfollow up;
- 1. pTis(M)癌で水平(粘膜)断端評価困難な場合は, 6ヶ月~1年後に内視鏡で局所再発有無を検索する.
- 2. pT1(SM); コンセンサスなし. pT1(SM)癌内視鏡治療後の再発は3年以内であることが多い.
- 3. 異時性多発病変の検索を定期におこなう。検査至適間隔については確立していない.
外科手術治療;cStage0~cStageⅢ大腸癌
リンパ節郭清度は術前臨床所見および術中所見によるリンパ節転移有無と腫瘍壁進達度から決定する.
- pTis(M)癌にはリンパ節転移はないためリンパ節郭清は不要である(D0)
- 術前進達度の精度の問題から, cTis(M)癌においては, D1郭清をおこなってもよい.
- pT1(SM)癌には約10%のリンパ節転移がある. 中間リンパ節転移も少なくないため, cT1(SM)癌では, D2郭清が必要である.
- cT2(MP)癌の郭清範囲決定のエビデンスは乏しい. 少なくともD2郭清は必要。
- pT2(MP)癌には主リンパ節転移が約1%あること, および術前進達度精度の問題からD3郭清を行ってもよい.
- 直腸切除の原則は, total mesorectal excision(TME)または, tumor-specific mesorectal excision(TSME)である. この他,側方郭清基準, 直腸局所切除, 自律神経温存などの留意点あり.
- D1-3郭清においては腸管傍リンパ節(大腸癌取り扱い規約)が郭清されるよう切除腸管長を決定する。
- 結腸癌における腸管傍リンパ節範囲は, 腫瘍と支配動脈の位置関係により定義される. 腫瘍辺縁から10cm以上離れた腸管傍リンパ節の転移はまれである.*20
- 直腸癌では口側は, 最下S状結腸動脈流入点, 肛門側は腫瘍辺縁からの距離で腸管傍リンパ節範囲を決める.
- cStage0~cStageⅢの症例では, RS癌およびRa癌で3cm以上, Rb癌で2cm以上の直腸壁内および間膜内肛門側進展はまれ*21 *22 *23 *24なため, 腸管および間膜切除の長さはこの範囲を含む遠位肛門側切離端により決める。
殺細胞性抗癌薬として一次治療に用いられる薬剤
FOLFOX; fluorouracil(5-FU)/ leucovorin(LV)+ oxaliplatin(OX)
CapeOX; capecitabine + OX
SOX; S-1 + OX. S-1(TS-1大鵬薬品; tegafur-gimeracil-oteracil potassium. 開発時の名称がS-1)
FOLFIRI; 5-FU/ LV + irinotecan(IRI)
FOLFOXIRI; 5-FU/ LV + OX + IRI
RAS変異症例の一次治療
RAS野生型の一次治療
二次治療の分子治療薬
これまでの標準治療で不応, 不耐になった症例では, マルチキナーゼ阻害薬のregorafenib, 新規経口ヌクレオシド径抗がん薬のTAS-102(トリフルリジンとチピラシル塩酸塩という2成分を合わせた抗がん剤)が選択される.