Follicle and Follicular lymphoma
nucleosome and chromatin ヌクレオソームとクロマチン、染色体
Histon modification ヒストン修飾†
勉強中
Histon acetylation ヒストンアセチル化†
ヒストンのアセチル化修飾が転写を(正に)制御することは1964年に報告された.*1
さらに1990年代後半になりヒストンアセチル基転移酵素(histon acethyl transferase: HAT)とその脱アセチル化酵素(histone deacetylase: HDAC)が分離同定され, ヒストンアセチル化の転写活性化寄与の分子基盤解明が本格化した。
- アセチル化修飾はリジン残基のもつ陽性NH3+電荷を中和し, 強く陽性に荷電しているヒストンと陰性に荷電しているDNAとの相互作用を減弱することで転写を正に制御すると考えられている.
- 荷電の制御だけがヒストンアセチル化の機序ではなく, トランスの機構としてアセチル化修飾自身がタンパク質に対する結合部位となりエフェクター分子がクロマチンに会合し転写を活性化する.
- クロマチンに会合し転写を活性化するタンパク質エフェクター分子にはブロモドメインと呼ばれるドメインが存在することが多く, ブロモドメインはアセチル化されたリジンに特異的に結合する
- ブロモドメインは治療の標的として注目されている.*2*3
ヒストンにアセチル基が付加されるとヒストン-DNA間の静電的結合が弱くなる. これによりクロマチン構造が弛緩し転写因子などがDNAへ容易に結合するようになると遺伝子の発現が正に制御される.一方,アセチル化が除去されるとクロマチン構造が凝縮し,遺伝子の発現が抑制される.(右図)
このヒストンのアセチル化は,アセチル基をヒストンに付加するヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferase:HAT)および,ヒストンからアセチル基を取り除くヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)によって制御されている
ヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferase:HAT)†
HATは分類すると2つの大きなファミリ-(GANTおよびMYST), それにp300/CBPや基本転写因子TAFⅡ250などと核内受容体コアクチベータ-などに分類されている*4
- HATは主に核内に存在し, ヌクレオソームを構成するヒストンをアセチル化するA型と主に細胞質中に存在し新規に合成されたヒストンを基質としてアセチル化するB型に分類される.
- B型に属するHATでは最初に単離されたHat1が知られており進化的によく保存されている.
- A型HATには最初に同定されたp55, Gen5との配列比較から数多くの転写因子が実際にHAT活性をもつことがしられている.
- A型HATは酵素活性部位の相同性からGANT(Gen5-related N-acetyltransferase), MYST(MOZ, Ybf2/Sas3, Sas2, Tip60)と呼ばれる2つのファミリ-に分類される. 時計遺伝子として知られるCLOKがMYSTファミリーに属するHATであることが明らかにされている.
- A, B型HATはよく研究されており, どちらも大きな複合体を形成し機能している.
- A, B型HATファミリーに属さないHATとして, p300/CBP(CREB-binding protein)やTAF1などの基本転写因子, 核内受容体コアクチベーターなどが知られている.
HATの基質特異性*4
- ヒストンのメチル化やリン酸化と異なり, 各々のHATはヒストンのなかの特異的なリジン残基のみを標的基質としているのではなく, むしろ基質特異性は低く, 同じ酵素が複数のリジン残基をアセチル化することができる.(アセチル化修飾は加算的に正電荷を打ち消す役割をもつことと関連すると思われる)
- ただしヒストンH4K16のアセチル化についてはさまざまな生物で重要な役割が知られている.
- 多くのHATはヒストン以外の蛋白を基質にできることが知られている. p53転写因子はp300/CBPによりアセチル化され, その機能が制御されている.
- HATがどのゲノム領域のヒストンをアセチル化するかという領域特異性は, さまざまな機能ドメインの働きにより決定されている.
- HATを含む複合体にはヒストンアセチル化を認識するブロモドメインやPHDフィンガー, Tudorドメインなどをもつサブユニットが含まれることから, これらのドメインを介して特定のゲノム領域へリクルートされ, その部位のヒストンをアセチル化していると考えられている.*5
ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)†
HDAC*4
- HDACは酵素活性的に4つのクラスにグループ分けされ、酵母からヒトまで保存されている
- HDACにはHDAC1~11まで11種類あり,
- クラスI---HDAC 1, 2, 3, 8. 脱アセチル化酵素ドメインが出芽酵母のRpd3に相同性を示す.
- クラスⅡ---酵素触媒部が1つ(クラスⅡa)HDAC4, 5, 7, 9. 触媒部が2つ(クラスⅡb)HDAC6,10に細分. 酵素でメインが出芽酵母のHda1に相同性を示す.
- クラスⅣ---HDAC11
- クラスⅢにはSir2ファミリーのSirT1~7が分類されている.
- クラスⅠHDACはほとんどの細胞に発現.ヒストン脱アセチル化を介した転写調節の中心的役割を果たす.
それ以外のHDACはヒストン蛋白だけでなく, 種々のタンパク脱アセチル化作用を介してDNA修復, 細胞周期調節, 微小管構成やエイジングなどでの働きが明らかになっている。
- クラスⅢ HDACが相同性を示すSir2はもともと出芽酵母の接合型遺伝子座とテロメアのサイレンシングに関わる因子として単離された. その特徴はNAD+依存性にHDAC活性をもつこと*6でありNAD+が細胞内の代謝レベルにより変動することから細胞増殖に関するさまざまなシグナルに応答して活性が制御されている.
- SirTファミリーはサーチュイン遺伝子とよばれ細胞の老化やカロリー制限, 寿命との関連が示唆されている*7.
- クラスⅣに属するHDAC11は進化的に大変よく保存され, がん細胞で高発現しており治療標的候補として注目されている. 機能についてはよくわかっていない.
- ヒストンリジン(K)残基のアセチル化は転写活性化と強い相関がある。
エピゲノム治療薬の臨床応用†
近年, 腫瘍のエピゲノム異常をターゲットとした治療薬として, DNAメチル化酵素阻害剤, ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が血液系腫瘍に対して効果を示しており, がん治療の新たな選択肢のひとつになっている。
HDAC阻害薬の臨床応用/治験*8
文献 A*9, B, C, D, E, F, G, H, I*10, J*11*12
ボリノスタット;2011年9月14日、ボリノスタット(商品名ゾリンザカプセル100mg)が大鵬薬品工業より発売された. 7月1日に製造承認を取得し、9月12日に薬価収載. 適応は「皮膚T細胞性リンパ腫」, 用法・用量は「1日1回400mg、食後投与」.またボリノスタットは、2010年6月に厚生労働省より希少疾病用医薬品の指定を受けている。
ロミデプシン;2017年7月3日、抗悪性腫瘍薬ロミデプシン(商品名イストダックス点滴静注用10mg)の製造販売が承認された.「再発または難治性の末梢性T細胞リンパ腫」が適応。14mg/m2(体表面積)を1、8、15日目に4時間かけて点滴静注しその後、休薬する(16~28日目)。この28日間を1サイクルとして投与を繰り返す。
パノビノスタット;2015年8月31日、抗悪性腫瘍薬パノビノスタット乳酸塩[商品名ファリーダック, Farydak(ノバルティスファーマ)カプセル10mg、同カプセル15mg]が発売された。適応は「再発または難治性の多発性骨髄腫」。ボルテゾミブとデキサメタゾンと併用し、1日1回20mgを週3回、2週間(1、3、5、8、10、12日目)経口投与した後、9日間休薬(13~21日目)の3週間を1サイクルとして繰り返す。
エンチノスタット;2015年1月協和発酵キリンは、米Syndax社が抗悪性腫瘍薬として開発中のクラスIヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬エンチノスタット(一般名)について、日本と韓国における独占的な開発および販売に関するライセンス契約を締結したと発表。米国ではHR陽性(限局進行性もしくは転移性)乳がんにおけるエキセメスタンとの併用療法でBreakthrough Therapy(画期的新薬)に指定され、Syndax社が第3相臨床試験を進めている。協和発酵キリンは、2015年中にこの適応で国内治験を開始する予定
モセチノスタット:濾胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病の治療薬として治験を実施中の化合物. FL, DLBCL対象のphaseII試験の結果が2017年Br J Haematolに報告されている.*12