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1994年, AIDS患者さんのKaposi sarcomaからChangらにより, カポジ肉腫と正常な皮膚組織のmRNAを抽出しPCR法により差し引きする新しい手法-Representational difference analysis;RDAをもちいて未知のヘルペスウイルス様断片が発見された.*1
Changらの検出したDNA断片は, EBVとHerpesvirus saimiri(HVS)に相同性があるのみで, これらのvirusと同じように癌ウイルスと予想された.
種々の疾患からDNA断片の検出が試みられ, カポジ肉腫では, エイズ合併症例の他, エイズの関連のない地中海やアフリカの症例からもほぼ100%にウイルス断片が検出された.
この他, Primary effusion lymphomaにこのウイルスが高コピー数で感染していることが発見され, リンパ腫より感染細胞株が樹立されウイルス粒子が同定された. 1996年には140kbpの全遺伝子配列が明らかになった.
現在分類ではenvelopeをもつ二本鎖DNAウイルス, ヘルペスウイルス科, γヘルペスウイルス亜科(リンパ増殖グループ)に属している.(右図)
Kaposi sarcoma associated herpes virus (KSHV)の関与する疾患.*2*3*4
1. KSHVが常に検出され原因ウイルスと考えられる疾患
2. 一部の疾患においてKSHVが検出される. KSHV陽性例では疾患原因に関連すると考えられる
3.KSHVが検出された報告があるが, 現在では関連が否定的である疾患
KSHV の日本人健常者における抗体保有率は1-5% 程度であり,他のヒトヘルペスウイルスと異なり感染率は低い.*5*6
HHV8/ KSHVのゲノム 文献*7
〇 --> KSHV-epitome01.pdf を見る. [新しいタブで開くと便利です.]
HHV8ゲノムは約140Kb, 1ユニット800bpのterminal repeat; TRにより両端がはさまれ, あわせて約170kbとなっている.
約90のORF(open reading frame)をもつ. ORFのうち66はherpes virus saimiri(HVS)と高い位置的相同性を示し, ウイルスゲノム上の位置もORF2, 70を除き同一である.
HHV8のORFは左側より番号がつけられ, HVSのホモログの名前が付与されている. (ex. 左より CBP, ssDBP, gBなど)
HVSのORF1とORF3に対応する遺伝子をHHV8は持っていないため, HHV8のORFは4から始まる. また相同な最期のORFは75である.
HVSにはない, HHV8に固有なORFは頭にKを付けた名前が付けられている. (K1 - K15) K1はORF4よりも左側に位置している.
HHV8は癌ウイルスであるにもかかわらず, EBVのEBNAs, LMP1およびHVSのトランスフォーミング蛋白に相同性を示す遺伝子は認められていない.
他のヘルペスウイルスと異なり, HHV8 は多くの宿主遺伝子のホモログをもつ.ホモログの多くは EBVのLMP1により誘導されることからLMP1の代わりにこれら宿主因子を取り込んでいるのかもしれない.
ウイルス増殖と遺伝子発現
文献*2
核内に侵入したHHV8は他のヘルペスウイルスと同様, lytic(溶解性感染, or 増殖感染), latent(潜伏感染)の2つの状態を呈する.
HHV8では潜伏感染が優位である. 感染細胞はほとんど溶解感染を示すことなく, 潜伏感染に移行する.
カポジ肉腫やPELの発生部位でも溶解感染はまれで, ほとんどの細胞はHHV8潜伏感染の状態にある. しかし, PEL細胞の一定の割合が常に溶解感染の状態にあり, そこからごく少量の溶解感染タンパク質が発現することで周囲微小環境を整備し感染した細胞が増殖しやすい環境をつくっていることが近年の研究で推察されている.
潜伏感染遺伝子
HHV8の潜伏感染遺伝子は以下の遺伝子などに限られている.
これらの遺伝子はHHV8のK12からORF73がコードされる領域, およびK10.5(LANA2)から転写される産物. ORF71から73は同じプロモーター(LANA promoter)から転写される. KaposinはK12領域にコードされLANA promoterに加えて独自のプロモータから転写される.
LANA-1は潜伏感染タンパクの中でも最も重要で発現量の多いタンパク質. カポジ肉腫, PELを含むHHV8感染細胞では必ず検出される.*8
v-cyclin, v-FLIP, LANA2はLANA1と異なりカポジ肉腫で常に高発現が証明されているタンパクではないことに注意が必要.
溶解感染遺伝子
HHV8がコードする約90の遺伝子のうち上記潜伏感染遺伝子以外はずべて溶解感染遺伝子である.
溶解感染遺伝子は種類も多く機能もさまざま. いずれもカポジ肉腫やPELにおいてはまれな発現しかみられない.
ORF50 (RTA; regulatory or transcription activation); immediate early proteinとしてlatentからlyticへのswitchingの役割をもつタンパク.
vIL-6, vBcl-2, vIRF-1, vMIP-I, vMIP-II, vGPCRなどはヒト遺伝子のホモログで, 翻訳産物が宿主本来の分子機能を阻害することにより免疫回避や発がん機構に関与する.(宿主分子の機能を乗っ取ることから 分子海賊行為molecular piracyとよばれる.)