リンパ節腫大のないリンパ腫のうちのひとつ。同類にはeffusion lymphomaがある。
66year-old male.
初回発作で左片麻痺を発症, 右共同偏視あり. 感覚は正常. 徐々に症状悪化. ぼんやりしておかしな行動がある。近医を受診治療をうけた。左片麻痺があるが症状が動揺した。おかしな言動や錯覚, 幻視などがあるように見える。当院へ転院。意識清明. 軽度構語障害. 左片麻痺は分単位で動揺した(上肢0, 下肢4-5). Babinski-. MRI:右脳に微小な急性梗塞. CSF:9cmH2;O, 蛋白85.3, 糖76, 細胞12/3(neutrophil1, lymphocyte12). 症状は動揺性でせん妄を呈しながらも徐々に回復. リハビリを行って軽度のparkinsonism, 神経因性膀胱を残し退院。1週間後構語障害, 右手麻痺で再入院となる。
再入院時神経学的所見: 軽-中等度痴呆(思考緩慢), 仮面様顔貌±, 言語単調, 寡動+, 右上肢麻痺±, 反射正常, 右皮質性感覚障害, 測定障害±, 姿勢反射障害±, 小刻み歩行気味で失禁傾向あり。
頭部MRI: 左被殻, 橋ほか急性多発性穿通枝系梗塞あり. 右中大脳動脈および両後大脳動脈狭窄。
抗凝固療法をおこなう。その後MRIでは穿通枝梗塞増加. ビンスワンガー症状は動揺しながら若干悪化。ステロイド投与開始, 発語量増加, 独歩可能となる. しかし夜間せん妄出現. parkinsonism,痴呆症状が悪化した。骨髄穿刺:低形成髄。hemophagocytosisあり。異型細胞の増殖は認められなかった。追加MRI: 右放線冠などに急性梗塞が多発。抗凝固療法, ステロイドを持続, 発症より6ヶ月になり意識状態低下。CT, MRIで梗塞が急速に増加した。7ヶ月め深昏睡, 瞳孔散大, 永眠される。CTでは無数の梗塞により中心ヘルニアを呈していた。臨床上, 非定型的脳梗塞で最終的には血管内悪性リンパ腫症を疑い病理解剖をおこなった。
剖検肉眼病理所見
File not found: brain00_s.jpg File not found: brain02_s.jpg 多発脳梗塞, 点在する出血壊死, 壊死に陥った組織が欠落している。
剖検病理組織所見
File not found: brainA04_s.jpg File not found: brainA01_s.jpg File not found: brainA02_s.jpg File not found: brainA03_s.jpg
脳;くも膜下腔の小動脈内, 脳白質の細血管内に腫瘍細胞が充満している。
File not found: alveolus00_s.jpg File not found: alveolus01_s.jpg File not found: alveolus02_s.jpg
肺A;肺胞壁が厚くなり毛細血管内に腫瘍細胞が多数出現している(A).
File not found: pulmoA01_s.jpg File not found: pulmoA02_s.jpg File not found: pulmoa03_s.jpg
肺B;小気管支動脈, 肺動脈内を腫瘍細胞が閉塞する. 動脈内膜に浸潤性増殖している(B)。
心臓;比較的大きな冠動脈内で増殖。作成した標本では心筋内細血管内には認めなかった。
File not found: hepaticA01_s.jpg File not found: liverischemia_s.jpg
肝臓;グリソン鞘内、細肝動脈に腫瘍細胞あり。肝細胞は虚血のため変性しているようです。
File not found: spleen01_s.jpg File not found: spleen02_s.jpg
脾臓;白脾髄リンパ組織には腫瘍細胞は認めず、筆動脈内に増殖。
File not found: glomerulus03_s.jpg File not found: glomerulus01_s.jpg File not found: renalA01_s.jpg
腎臓;糸球体係蹄内に腫瘍細胞が増殖するほか細腎動脈にもみとめられる。
File not found: pancreas_s.jpg File not found: thyroidA01_s.jpg File not found: colonA01_s.jpg
膵, 甲状腺;細動脈内の腫瘍細胞. 大腸;粘膜下細動脈内に腫瘍細胞を見る。
File not found: adrenalloupe_s.jpg File not found: adrenalgland01_s.jpg 副腎;類洞内に腫瘍細胞がびまん性増殖し, 副腎が腫大している。
File not found: BM02_s.jpg File not found: BM03_s.jpg 骨髄;細動脈内のみに腫瘍細胞が認められた。類洞や髄内での増殖は見られなかった。
(骨髄穿刺吸引では発見できなかった原因のようです。骨髄生検で細動脈がとれないと診断に結びつかなかったでしょう。)
File not found: CD20brain_s.jpg 血管内増殖細胞はCD20陽性。
剖検病理診断
1. intravascular lymphomatosis involved capillary, small artery and sinus of the brain, lung, heart, liver, spleen, kidneys, pancreas, adrenal gland, colon and bone marrow
2. multiple organ failure
本例では多くの臓器において腫瘍細胞が細い筋性動脈を閉塞する所見が多く認められた。
79 year-old male. 1週間前より食思不振あり. 39℃の発熱が加わり受診. PaO2; 46.2 Torr, PaCO2;31.8 Torr, SaO2; 86.1%と低酸素血症あり。CTでは明らかな器質的異常は認められなかった。WBC7300/μl, 単球様細胞の軽度増加を認めた。GOT151, GPT59, LDH1426, CRP11.4. sIL-2R 11600 U/ml. 貧血+, 黄疸なし. 表在リンパ節は触知せず. 肝脾腫なし.
骨髄穿刺: NCC73000/mm3;, phagocyte6.0%, unknown cell 1.4%. clotでの異型細胞はLCA+, CK-, EMA一部陽性. CD3-, CD20-, kappa-, lambda-. TCRcβ1・IgH(JH)遺伝子再構成は認められずgerm line.
骨髄の組織所見
肺組織所見
血管内異常リンパ球増殖症例であるが、細胞はCD20, CD79a陰性, CD3陰性である。遺伝子再構成も認められなかった。(細胞量の関係もあるか?). EBER-ISHは周囲小型リンパ球に陽性所見を認めたが腫瘍細胞はEBER(-)であった。
intravascular lymphomatosisはWHOの定義で intravascular large B- celllymphomatosisとされ、intravascular T-cell or NK cell lymphomaは異なる疾患群とされてる。本例ではB, T cellの証明ができなかった。異なるtypeのintravascular lymphomatosisの一例と考えられる.
血管腔内に選択的に悪性リンパ腫細胞が増殖することを特徴とする節外性large B-cell lymphomaのまれなタイプ。WHOの定義ではBリンパ球の腫瘍であること, 血管内に腫瘍細胞が限局していることを診断の要件としている。歴史的には血管内皮の腫瘍性増殖とされneoplastic angioendotheliomatosisという用語が使用されてきたが, 1985年Moriらが免疫組織学的手法により増殖細胞がリンパ球あることを明らかにした*1
臨床事項
症状の基本は多発性小梗塞でありどの臓器が侵襲をうけるかで臨床像は多彩。脳に初発する症例が少なくない。この場合は多発梗塞に対応し, 責任病変が説明困難な神経症状を呈する。 皮膚に初発する場合は発赤をともなう多発小丘疹という形をとる。 肺に浸潤があると、レ線検査では異常所見の乏しい呼吸困難が生じる。
血球貪食症候群(hemophagocytosis)を合併する症例が本邦や東南アジアで報告されAsian variantとよばれている。発熱, 肝脾腫, 血小板減少, 貧血などの全身症状、検査値異常が認められるが神経症状や皮疹を呈することはあまりない*4。
鑑別診断
生検組織により血管内腔を塞ぐように大型異型リンパ球が増殖していることを確認することが診断の要件である。血管内増殖の病変分布が本病型では, 脳, 肺, 肝, 腎, 副腎, 皮膚, 骨髄など特有である。しかし大細胞型B細胞リンパ腫にはこのような臓器を選択的に侵襲するが, 血管内腔には増殖しないものがあることに留意が必要である。