Splicing abnormalities

血液腫瘍病理学

Splicing abnormalities スプライシング異常

MDS:pre-mRNAスプライシングに関わる一群の遺伝子の異常

 

最近, 全エクソームシークエンス解析により, MDSほか関連する骨髄性腫瘍においてRNAスプライシングに関与する遺伝子が高頻度に変異を来していることが見出された。

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1. SF3B1
Papaenmmanuilら*1により, 低リスクMDS症例8例において6例に認められ、その後の多症例解析でMDSの20%に検出された(72/354例). その他の骨髄性腫瘍には, AML(5%), CML(0%), MPNs(12/420:3%)と低頻度であることがわかった。

2. U2AF35, SRSF2, ZRSR2, SF3A1, PRPF40B, およびSF3B1
Yoshida*2らにより種々のサブタイプを含む29例のMDS症例解析から16例にこれらRNAスプライシング装置に関わる複数の遺伝子に変異が検出された。MDS(130/228;57%), CMML(48/88;55%), 二次性AML(16/62;25.8%)。
de novo AML(6.6%), MPNs(9.4%)では相対的に低頻度であった。

3. 変異SRSF2をもつMDSはwild type SRSF2の群に比べoverall survivalが短く、急性白血病への進行をおこす率が高い*3 

RNAスプライシング Splicing

真核生物の遺伝子タンパク質コード領域は, 通常タンパク質を指令しない介在配列(intervening sequence), すなわちイントロン(intron)により分断されている。
コード領域は, 発現される配列= expressed sequence; エクソンexonと呼ばれる。真核生物遺伝子ではタンパク質を指令するのは遺伝子全体のほんの一部にすぎないことが多い。

イントロンの構造: スプライシングのおこる位置は塩基配列が指示する。

基本的なpre-mRNA スプライシング(イントロン除去)にはイントロンの3つの部位、5'スプライス部位、3'スプライス部位、およびイントロン中にあって切り取られる投げ縄構造の結び目, 分岐点=ブランチポイントが関わっている。

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スプライソームスプライシング反応過程

pre-mRNAのスプライシング装置は非常に複雑で5分子のRNA50個以上のタンパク質から構成され, 反応のたびに多数のATPを加水分解している。

 
splicecycle.jpg

スプライスサイクル Splicecycle(snRNAの動きに注目した解説)*5

1.まず転写されたmRNA前駆体上の5'スプライス部位にU1 snRNP が結合し、U2 snRNP は分岐点に結合する。

2.これらに含まれるU1 snRNAおよびU2 snRNAはpre-mRNAに一部相補的な配列を持ちこれがスプライス部位の認識に関わる。

3.さらにU4U5U6 snRNPが会合し、U1 snRNPはU6 snRNPにその場を譲り乖離する。またU4 snRNPもこの前後に離れるとされる。

4.この状態では、U6 snRNPは分岐点のU2 snRNPと5'スプライス部位に結合しており、U5 snRNPは上流のエクソンに結合している。ここで5'スプライス部位の切断と分岐点への結合が起こる(スプライシング反応第一段階)。このとき、イントロンは投げ縄状の構造になる。別名ラリアット構造とも呼ばれる。

5.U5 snRNPは下流のエクソンにも結合するようになり、両エクソンはU5 snRNPによって繋ぎ止められた状態になる。

6.次に、3’スプライス部位の切断とエクソン同士の結合が起こり、イントロンが放出される(スプライシング反応第二段階)。

7.放出された投げ縄状イントロンは分岐が外され(デブランチング)、分解される。一方、これらのsnRNPは再びスプライシング反応に使用するために再生される。

上記はGT-AG型イントロンの場合であるが、AT-AC型イントロンでは、U1、U2、U4、U6の代わりにU11、U12、U4atac、U6atacというsnRNPが使われる。

spliceosomecycle.jpg

MDSで遺伝子変異のみられるスプライシング因子

MDSで変異のみられるスプライシング因子のほとんどがsplicing A complexに所属している。これらの遺伝子変異は互いに排他的に起こっており,3'スプライシング部位の認識が共通の機能である

U2AF(U2 auxiliary factor)35/65,SRSF2, ZRSR2, SF3B1, SF3A1

pre-mRNAはsplicingに必須のよく保存された配列をintron, exon内に内臓している。
5'splicing site(SS), 3' splicing site(SS); intronを決定する。
branching site (BS), polypyrimidine tract (PPT), exon splicing enhancer (ESE)

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MDSにおけるスプライシング因子遺伝子変異の頻度についての複数の研究をまとめた表。

スプライシングを調節するタンパク質因子

PDF:ヒトスプライシング調節タンパク質の構造---> &ref(): File not found: "ヒトスプライシング調節タンパク質.pdf" at page "MDSの遺伝子異常-pre-mRNA splicing abnormalities";

SRタンパク質

セリン・アルギニン(SR)の繰り返し配列が特徴的な一群のRNA結合タンパク質でこれまでにヒトでは12種類が報告されている.

どのタンパク質もN末端に1ないし2個のRNA結合ドメイン(RNA binding domain; RBD= RNA recognition motif; RRMと同義), C末端側にはアルギニン・セリンに富むRSドメインをもつ.*6*7
RBDはRNAの結合に, SRdomainはタンパク質間相互作用に関与していると考えられている.

一部のSRタンパク質は恒常的スプライシングに必須な因子であると同時に選択的スプライシングの調節にも関与している.

SRタンパク質のもう一つの重要な機能はESEに結合し, スプライシング活性化に関わることである.

SRタンパク質はESEに結合すると, 上流の3'スプライス部位に結合したU2AFと下流の5'スプライス部位に結合したU1snRNPの構成タンパク質と相互作用し, エクソンを挟んだスプライス部位同士の連携を誘導しエクソン認識を促進している.

SRタンパク質は重複した機能が多いものの, 異なったmRNA前駆体のスプライシングを調節しており, さまざまなスプライシングを調節するために多くの種類が存在していると推察されている.

 

heterogenous nuclear ribonucleoprotein (hnRNP)

転写後にRNAプロセッシングを受ける前の核内に存在する不均一な長さの一本鎖RNA(hnRNA; heterogenous nuclear RNA)に結合する一群のRNA結合タンパク質の総称. hnRNP A1~Uまでおよそ20種類が知られている.*8

hnRNP中にはさまざまな種類のRNA結合ドメインが見いだされており, hnRNP A/B, C1にはRBD, hnRNP KにはKHドメイン(K homology domain), hnRNP A/B, K, UにはRGGボックス(RGG box)が存在している.

hnRNPタンパク質は, 転写やRNA プロセッシング, RNAの輸送や翻訳調節, およびRNAの安定性といったさまざまな過程に関与している.*8

hnRNP A/Bタンパク質はスプライシングでの役割が最もよく解析されている. エクソン内に存在するESSに結合して, そこを起点にhnRNP A/Bタンパク質がエクソン上に広がり, ESEに結合するSRタンパク質などのスプライシング促進因子の結合を阻止することでスプライシングを抑制する。結果としてしばしばエクソン除外を誘導する*9


*1  Papaemmanuil E, et al., Somatic SF3B1 mutation in myelodysplasia with ring sideroblasts. N Engl J Med. 2011 Oct 13;365(15):1384-95.
*2  Yoshida K, et al., Frequent pathway mutations of splicing machinery in myelodysplasia. Nature. 2011 Sep 11;478(7367):64-9. doi: 10.1038/nature10496. PMID: 21909114
*3  Thol F et al., Frequency and prognostic impact of mutations in SRSF2, U2AF1 and ZRSR2 in patients with myelodysplastic syndrome Blood 2013; 119(15): 3578-3584
*4  杉山弘, 井上丹訳 ウィーバー 分子生物学第4版, Kagaku-Dojin Publishing Co, pp438-439 2008
*5  Sharp PA. Split genes and RNA splicing. Cell 1994;77:811
*6  Howard JM, Sanford JR.The RNAissance family: SR proteins as multifaceted regulators of gene expression. Wiley Interdiscip Rev RNA. 2015 Jan-Feb;6(1):93-110.
*7  Manley JL, Krainer AR. A rational nomenclature for serine/arginine-rich protein splicing factors (SR proteins). Genes Dev. 2010 Jun 1;24(11):1073-4.
*8  Geuens T, et al. The hnRNP family: insights into their role in health and disease. Hum Genet. 2016; 135: 851-867.
*9  Zhu J, et al.Exon identity established through differential antagonism between exonic splicing silencer-bound hnRNP A1 and enhancer-bound SR proteins. Mol Cell. 2001 Dec;8(6):1351-61.

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