Maf転写因子と疾患、発癌--骨髄腫の発癌因子
Multiple myeloma - up date,
Multiple myeloma--Clinical diagnsosis and Pathology
- 多発性骨髄腫:molecular pathogenesis, up dates
- 骨髄腫発症の分子細胞遺伝学
- CCN D1, D2, D3遺伝子と骨髄腫
- 高二倍体化では, 奇数番号の染色体 (3, 5, 7, 9, 11, 15, 19, 21番 )のtrisomyが特徴的
- 多発性骨髄腫の異常な転写因子発現
- 多発骨髄腫のエピジェネティック異常: t(4;14)転座と多発骨髄腫SETドメイン蛋白質(MMSET)
- Multiple myelomaの発症・進展
多発性骨髄腫:molecular pathogenesis, up dates†
多発性骨髄腫
Postgerminal center B-cell 由来で形質細胞へ,コミットメントされたplasmablastを腫瘍起源の細胞とし複数の遺伝子異常が蓄積, 多段階性に発症進展する, 分化終末B細胞性腫瘍。
多発性骨髄腫は単一の疾患とみなされているが, 実際は,細胞分子学的に異なった複数の明確な形質細胞悪性腫瘍の集合である.*1
骨髄腫発症の分子細胞遺伝学†
■ Biological genetic classification (生物学的遺伝分類)
骨髄腫細胞では, 増殖サイクルにある細胞は腫瘍細胞全体の1-3%であり*2,細胞分裂像が得られにくいため, G-band法で異常を検出できる頻度は高くない。
多発骨髄腫の染色体異常検出頻度は30-40%にすぎない *3。そのためdel(13)やIgH転座など特異的な染色体異常検出にはFISHが用いられる。*4 *5
多発性骨髄腫は2つの大きな遺伝サブグループに分類できる*6
1. Hyperdiploid myeloma:
染色体数48本以上で, 4N未満, chromosome 3, 5, 7, 9, 11, 15, 19, 21の多発トリソミ-をもち免疫グロブリン遺伝子の転座をともなわないもの.
- chromosome 3, 5, 7, 9, 11, 15, 19, 21のトリソミーやchromosome 13, 14, 16, 22のモノソミーが高頻度に出現する。
これらは染色体数48未満のnon-hyperdiploid型とそれ以上で4N(88)未満のhyperdiploid型に大別されnon-hyperdiploid型は予後が不良である*7
2. Non-hyperdiploid myeloma:
染色体数48本未満, t(4;14), t(14;16), t(14;20), t(6;14)および t(11;14)で特徴的な染色体転座をもつ。( 青字の転座は予後不良群 )
免疫グロブリン重鎖遺伝子(IgH)転座(14q+)の中でも早期の病態形成に関与する1次性14q+を有する。主にIgHのクラススイッチの際のエラーで転座が発生し強力な Eα enhancerにより高頻度に脱制御され恒常的に高発現する遺伝子にCyclin Ds, FGFR3/MMSET, 大Maf(cMaf, MAFA, MAFB)がある。
免疫グロブリン遺伝子の関連する染色体転座は, MGUSの40-50%, 多発骨髄腫の50-70%, 形質細胞性白血病の80-85%, human myeloma cell line(ヒト多発骨髄腫細胞株)の90%に認められる.
軽鎖遺伝子が関与する頻度は低い. λ鎖遺伝子はMGUSの10%未満, MMやヒト骨髄腫細胞株の20%. κ鎖遺伝子はさらに頻度が低い. *8
- 14q32上の免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子領域の均衡型転座が重要。non-hyperdiploid型に高頻度に合併する。
- 転座パートナーは主に7つの遺伝子で, これらは3群にわけることができる.
- CCND群
11q13のBCL1(PRAD/Cyclin D1=CCN D1)遺伝子
12p13上のCCND2遺伝子
6p21上のCCND3遺伝子
- MAF群
8q24.3上のMAFA遺伝子
16q23上のc-MAF遺伝子などがある
21q12上のMAFB遺伝子
- FGFR3/ MMSET群
4p16.3上のFGFR3/ MMSET遺伝子
- 6p25上のMUM1/IRF4遺伝子
t(11;14)(q13;q32)
- MGUSの15-30%, MMの15-20%に認められる.
- 転座によりサイクリンD(cyclinD, CCND)遺伝子の一つである, CCND1が恒常的に発現し, 細胞周期進行を促進すると考えられる.
- 14q32/ IGH転座にはこれまで, SHMとCSRがその機序と考えられてきたが, 最近のIGH切断点解析により, t(11;14)は未熟B細胞が骨髄内でおこすDJ再構成でも発生することが示された.*9
- 骨髄内でt(11;14)を獲得すると Mantle cell lymphoma, 胚中心で獲得するとMMを発症すると考えられてきたが, V(D)JR再構成によりMCLだけでなくMMも発症するとすれば, 病型の決定にはt(11;14)以外の要因が必要と推察される.
CCN D1, D2, D3遺伝子と骨髄腫†
多発骨髄腫の, ほぼ全症例に認められる統一的な異常イベント。
- 正常B細胞, 形質細胞ではcyclinD2やcyclinD3を発現しているがcyclinD1はほとんど発現していない。
- t(11;14)はMantle lymphomaで解析がすすめられてきた。Mantle lymphomaの場合, CCN D1のDNA切断点はCCN D1, セントロメア側にクラスタを形成する。多発骨髄腫ではこうしたクラスタは認められずMantle lymphomaとは転座メカニズムが異なっている可能性がある。
骨髄腫でみられる14q転座は10種類以上が存在し, 強発現する遺伝子の種類により以下の1)~4)に大別される.
1). cyclin D グループ
- cyclin D グループには t(11;14), t(6;14), t(12;14)が含まれ, 頻度は各々MM症例の, 15-20%, 2~3%, <1%である.
- 14qに局在するIgH enhancerによりそれぞれ cyclin D1, cyclin D2, cyclin D3が異所性に活性化される.
- t(11;14)はMantle lymphomaで解析がすすめられてきた。Mantle lymphomaの場合, CCN D1のDNA切断点はCCN D1, セントロメア側にクラスタを形成する。多発骨髄腫ではこうしたクラスタは認められずMantle lymphomaとは転座メカニズムが異なっている可能性がある。
- MM細胞では約20%にt(11;14)(q13;q32)が認められCCND1の高発現がある。
- t(11;14)-positive 多発骨髄腫では, 転座により免疫グロブリン重鎖(IgH)の強力なエンハンサーであるEαによりCCN D1遺伝子が転写され正常形質細胞には発現しないCCN D1タンパクの恒常的な高発現がみられる。
- 14q32/IGH転座の機序として, これまでsomatic hypermutationやclass switchが考えられてきた.
しかし最近, IGH切断点解析により t(11;14)はDJ再構成でもおこることが示された. *10
- DJ再構成は骨髄で未熟B細胞が起こす遺伝子再構成で, これまでは骨髄でt(11;14)を獲得すればmantle cell lymphoma(MCL), 胚中心でt(11;14)を獲得すればMMを発症すると考えられてきたが, V(D)J再構成でもMCLだけでなくMMも発症するなら, 病型の確定にはこの転座以外の要因が必要と推察される.
- この転座をもつMMの特徴として, リンパ形質細胞様形態をとる, IgM型, 非分泌型, CD20+, CD56+ MMの頻度が高い*11ことがいわれているが, 否定的な報告がある.*12
- この転座をもつMMの予後に関しては結論はでていない. *13
- CCN D3は6p21に位置し, IgH遺伝子と転座した場合[t(6;14)(p21;q32)], もしくはt(11;14)を有する症例で高発現するようであるが、その機序は不明である。
- CCN D2は12q13に局在する遺伝子。IgHとの転座はきわめてまれ(<1%)で、その高発現は骨髄腫におけるMaf(16q23), Maf-B(20q11)などのCCN D2を標的とする転写因子が転座したことによる過剰発現が原因であるとされる。 また最近新たな転写因子ZKSCAN3とCCN D2高発現との関連も骨髄腫細胞で報告されている。
- 下記, 2)MMSET, 3)Mafの異常ではCCN D2遺伝子が標的遺伝子となり, CyclinD2の強発現(増加)が認められる. (右図)
2). MMSET/FGFR3 グループ
- t(4;14)は骨髄腫症例の15-20%を占め, 切断点は多くの例でヒストンメチル化酵素 MMSETのプロモータ領域~exon4に位置.
全長型ないし, alternative splicingにより短縮型のMMSETを発現する.
- 強発現したMMSETはH3K36(histon3の36番目のリジン残基)とH3K27のメチル化をそれぞれ促進, 抑制し cyclin D2 遺伝子を含む様々な遺伝子の発現を誘導する.
- 4p16は染色体末端に近く, 転座の染色体構造変化が微細(cryptic translocation)であり, 核型分析による検出は困難. FISH分析が必要.*14
- MGUSの3-10%, MMの15-20%に検出される. MGUS<MMと頻度に差があることはMGUSの時期が短いことを示唆している.*15
- IGH再構成によりIGHエンハンサーEμが4番染色体に移動, MMSET(multiple myeloma set domain)遺伝子の発現に関わる*16.
遺伝子産物のMMSETはヒストンメチル化酵素でエピジェネティックスに関与している.
- 別のエンハンサー3'Eαは, 14番染色体に残り, 移動してきたFGFR3(fibroblast growth factor receptor3)遺伝子の発現に関わる. FGFR3はレセプター型チロシンリン酸化酵素.
- この転座の25%は不均衡転座で, 派生14番染色体を欠失してFGFR3の発現を欠いている. しかしMMSETは全症例で発現しており, MM発症にはMMSETがより強く関与していると考えられる.*17*18
- IgAクラスのMMが多く, 軽鎖ではλ鎖が多い. CCND2発現が亢進しているがその機序はまだ明らかではない. また13番染色体の欠失を90%以上に認める.
- 予後不良である.
3). MAF グループ
- t(14;16), t(14;20), t(8;14)が含まれ, それぞれMAF family 転写因子の c-Maf, MafB, MafAを強発現して形質細胞を腫瘍化していると考えられている.
- 標的遺伝子としてはcyclin D2*17や接着因子のCCR1, β7integlinなどが知られている.
- 16q23は染色体末端に近くcryptic translocationになるため検出にはFISHが必要である.
- MGUSではまれで, MMでは2-10%に認められる. MGUSとMMの間に頻度差がみられMGUSの期間が短い可能性がある.
- 免疫グロブリンクラス別で多いのはIgAとする報告とIgGとする報告がある.CD56を発現しない例が多く13番染色体欠失を70%以上に認め, 予後不良である.*13 *19 *15
- c-MAF陽性骨髄腫は陰性骨髄腫に比較して, 白血球増加, 血小板減少, 増殖速度が速い(G-band核型陽性例が多い)傾向がある*19 *20ほか, CD56陰性例が多い.
- c-MAF陽性例では細胞接着因子のCD56(NCAM)が陰性のため, 骨髄腫細胞白血化が容易であることに加えて細胞増殖が速いために生命予後が不良であると推察されている*19.
4). その他
以上 形質細胞腫瘍化の初期にはcyclin Dの発現亢進が共通している.
- マイクロアレイによる網羅的解析では, ほぼ全例の骨髄腫でCCN D1-D3遺伝子のいずれかの高発現を確認し腫瘍化の早期に起こる最初の遺伝子異常であると結論されている。*21
3つのCCN D遺伝子の発現は染色体転座以外の機序による可能性がある。
- cyclin Dは CDK4/6と複合体を形成しRBタンパクをリン酸化, G1期からS期への進行を促進させる. 本来正常では増殖能をもたない形質細胞がgrowth advantageをもちMGUSに形質転換, 進展させる役割をはたしている。
- t(11;14)の染色体転座をもたずRNAレベルやタンパクレベルでCCN D1の発現みられる症例では, その機序としてポリソミー11による遺伝子の量的な効果が報告されている。--> 高二倍体の項
- t(4;14)とt(14;16)は予後不良と考えられている。
高二倍体化では, 奇数番号の染色体 (3, 5, 7, 9, 11, 15, 19, 21番 )のtrisomyが特徴的†
- 腫瘍化のメカニズムはまだ十分には解明されていないが, 11番染色体ではtrisomyによるcopy数増加でcyclin D1発現が上昇する.
多発性骨髄腫の異常な転写因子発現†
多発性骨髄腫は前癌病態から多段階発癌過程を経て発症する間に多くの染色体異常や遺伝子発現の変化を蓄積すると考えられており, その中に数々の転写因子異常が含まれている。*22
多発性骨髄腫で注目されている転写因子には
1.IRF4/MUM1, c-Maf, MafB, c-Myc, MMSETなど免疫グロブリン遺伝子との転座により過剰発現を来すもの、
2.NF-kB, HIF1/2, XBP-1など骨髄環境に適応するために過剰発現をしているものなどがある。
多発骨髄腫のエピジェネティック異常: t(4;14)転座と多発骨髄腫SETドメイン蛋白質(MMSET)†
多発骨髄腫のエピジェネティックス異常*23について1-3が近年注目されている。
1. t(4;14)転座による多発骨髄腫SETドメインタンパク質(MMSET)高発現とヒストンリジンメチル化
2. DNAおよびnon-cording RNAのメチル化異常
3. ヒストン脱アセチル化酵素阻害による抗腫瘍効果
■MMSET(Official full name: Wolf-Hirschhorn syndrome candidate 1 [provided by HGNC], Also known as WHS; NSD2; TRX5; MMSET; REIIBP)
- 4p16.3に局在。この遺伝子は PWWP domain, HMG box, SET domain, および PHD-type zinc fingerの4ドメインをもつタンパク質をコードしている。早期発生においてびまん性(ユビキタス)に存在する。
Wolf-Hirschhorn syndrome (WHS)は第4染色体遠位短腕の欠損(hemizygous deletion)により発生する。本遺伝子はWHSの重要な165kb部分に位置しており多発性骨髄腫でのt(4;14)(p16.3;q32.3)によっても障害をうける。
遺伝子のalternative splicingにより複数の転写ヴァリアントを来し異なるisoformを生成する。
Some transcript variants are nonsense-mediated mRNA (NMD) decay candidates, hence not represented as reference sequences. [provided by RefSeq, Jul 2008]
- MMSETには複数の転写産物があり, MMSET typeI, typeII, typeIIIなどのsplicing variantを有するMMSETと、そのアイソフォームであるprotein response element II binding protein(RE-IIBP)とがある。
それぞれがt(4;14)骨髄腫に特異的高発現をする。
- t(4;14)(p16;q32)は骨髄腫の15-20%にみられMMSETと'FGFR3遺伝子の過剰発現を来すが、この転座をもつ例の約30%はMMSETのみを過剰発現する。*24
■MMSETによるヒストンリジンメチル化と転写制御
- H3K36me2: 転写活性化*25
- H3K36me3: 転写抑制*26
- H4K20me3: 転写抑制*27
- H3K27me2: 転写抑制*28
- H4K20me2, me3: DNA修復*24
Kuoら*25の報告ではMMSETのヒストンリジンメチル化活性によりH3K36のジメチル化のみが誘導されH3K36me2は進行中の転写領域をマークするように分布しその結果と一致して癌関連遺伝子転写活性化がおこることが示された。
以上MMSETのヒストンメチル化発がん活性はH3K36me2に起因していると説明されている。
Multiple myelomaの発症・進展†
多発骨髄腫の二次的遺伝子異常†
- MYCの再構成
- NRAS, KRAS, あるいはBRAFの活性化変異
- NFkappaBの活性化
- Copy number abnormality(CNA)
- 17p13 deletion
- 1q21 gain
- 13q deletion
- 1p deletion ---1p12のFAM46C, 1p32のCDKN2Cで変異が検出されている.
MYCの再構成・増幅
- IgH-Myc転座は, MM初診時の10%前後に認められるのに対し, MGUSでは3%にとどまり, 一般に病態進展に関与した異常と考えられている.*29
- MyelomaIX解析*30では, Mycの転座相手は多岐にわたり, IgH(16%), IgL(16%), IgK(6%)の他, FAM46C(9%),FOXO3(6%), BMP6(3%). Mycの転座18.4%であり, IgH-MYC''の頻度は, 約3%となる.
- 転座によらない, Myc増幅が14%みられ, 全体としてMycの転座・増幅はMMの32%に検出された.
- MYCタンパク発現は, 転座症例では増加していたが, 増幅群では発現亢進はみられなかった.
- MYC転座症例, 増幅症例とも, MYC正常症例よりもOSは不良であった.
- MycはMyc近傍の変異好発部位(Kataegis)が転座好発部位となり, さらに転座先近傍のエンハンサーを利用して発現亢進すると考えられている.(super enchancer)
- Myc転座は, hyperdiploid群で60%にみとめられるの対して, t(4:14)では有意に頻度が低い.
その他
骨髄腫細胞は染色体転座の有無にかかわらず, MUM1(IRF4)発現によるc-MYCを含む転写制御ネットワークに依存して生存, 増殖しており, MUM1(IRF4)は免疫調節薬の治療標的分子として注目されている
monosomy13はG-band法で10-20%に検出され, FISHによるp53の欠失[ del(17p13)]とともに予後不良因子といわれていたが, International myeloma working group(IMWG)によれば現状では他のマーカーと比較して予後との相関が低いとされている。
従来, 予後不良とされた染色体異常症例においても, BOR(ボルテゾミブ, ベルケイド)やLEN(レナリドマイド: Revlimid)投与により予後良好例と同等の有効性が認められている*31。
右図:骨髄腫の多段階発がん*32 *33
MGUSから骨髄腫への進展
定義は CD19-/ CD45-/low;腫瘍性plasma cellが骨髄有核細胞の10%以上を占めるようになった場合.
- MGUSから骨髄腫への進展にはさらにgrowth advantageの獲得が必要で, その主因はRasの突然変異.
- K-ras変異はMGUSでは全く認められないが, 骨髄腫では約30%に観察され進展の特異的マーカとされている.
- N-ras変異はMGUSでも認められるが, 骨髄腫に進行すると約20%に増加する.
- c-Mycの強発現も骨髄腫に進展すると約15%の症例に出現する.
- 骨髄腫におけるc-Myc強発現のメカニズムには転写因子BRD4のc-Myc遺伝子super-enhancerへの作用があると考えられている.*34
- CpGアイランドの低メチル化はMGUS→MM進展にみられる3つめの現象. genome不安定性の原因となり, さらなる染色体異常をきたすことになる.
骨髄腫の lineal clonal evolution model.(右, Morgan GJ, et alの図)
14q転座/ 染色体高二倍体化をドライバー変異として, 形質細胞が骨髄腫幹細胞へ転化する.
↓
さらにstepwiseな付加的遺伝子異常が加わり
↓
MUGUS -> くすぶり型骨髄腫 ⇒ 症候性骨髄腫 ⇒ plasma cell leukaemiaを含む髄外腫瘍への直線的進展を起こす.
進展に伴い病態は複雑化する. 治療抵抗性が増すと考えられている.
近年のNGSや高感度アレイの分析による骨髄腫クローン進化の知見†
FISHでIgH-FGFR3ないしTP53 del(17p)が検出されるか PET-CTで2.5㎝以上の病変があれば高リスク症例として治療方針をたてる.*35
すでにMGUSの段階で多様なサブクローンが存在し複雑な階層構造をとることが明らかになった.
病態進展の本態は変異の蓄積よりも, クローン構造の変化すなわちクローン進化が主体と考えられるようになった.*36
MUGUS -> くすぶり型骨髄腫 ⇒ 症候性骨髄腫 ⇒ plasma cell leukaemiaを含む髄外腫瘍への進展とクローン進化はどのようにかかわっているのか?
- post germinal center B-cellに14q転座あるいは染色体高二倍体化がドライバー変異となり骨髄腫幹細胞が形成されることが多発骨髄腫発症の最初のステップ.
- 骨髄腫幹細胞はMGUSの段階で不均等分裂により3~6個のクローンを産生する. *37
- これらの初期段階 MGUSクローン(ancestral clones)のうちいずれかに,Ras point mutationやc-Myc強発現による増殖優位性(growth advantage)獲得がおこるとtumor burdenが増大し, MGUSから多発骨髄腫へ進展する.
- アミノ酸変異を伴う1塩基変異(non-synonymous single nucleotide variant)の平均数は MGUS 13個, SMM 28個(20-69), 症候性骨髄腫では31個(15-46), PCLには59個(50-68)であり進展に伴い遺伝子異常が蓄積していた. [Walker et alによるNGS解析*38]--特にMGUSからSMMへの進展にさいしてRas familyの点突然変異出現が観察される.
- カーネル密度曲線によるクローン構造可視化によりすでにMGUSの段階より明かなクローン多様性が存在し, どの段階においても3-6個のクローンが検出された.
- MGUSで存在する複数のクローンのうち, 増殖の盛んなクローンが拡大し多発性骨髄腫に進行するが,
他方消滅するクローンもあり(clonal tide), totalのクローン数には大きな変化はみられない.
多発性骨髄腫のクローン進化には2種類のパターンが存在する. クローン進化のパターンは独立した予後因子であり治療法選択のパラメータになる
- MGUSで存在する複数のクローンのうち, 増殖の盛んなクローンが拡大し多発性骨髄腫に進行するが,
他方消滅するクローンもあり(clonal tide), totalのクローン数には大きな変化はみられない.
- SMMから症候性多発性骨髄腫への進展は遺伝子変化の増加ではなく, クローン構造の変化によるものと考えられている.
- 初発時骨髄CD138陽性細胞の網羅的点突然変異解析から, 80%は変異蓄積が直線的でなく, クローンが枝分かれしながら進展する枝分かれ進化(ダーウィンが種の起源で提唱した)をとった.
- 20%の症例においては直線的変異蓄積を示し(R^2>0.98) 中立進化をすることが示された. [ 中立進化: 遺伝子レベルの突然変異が自然選択や淘汰に影響を与えないとする説. 突然変異によってもたらされる形質と環境との適合が進化に大きな影響をあたえるというダーウィンの適者生存の概念とは異なる.]
- ダーウィン型進化をする多発性骨髄腫: 骨髄微小環境や免疫細胞との相互作用に適応したクローンが選択され増殖する. ドライバー変異が高二倍体の場合.
- このタイプは骨髄間質細胞や免疫細胞との相互作用が強く, それらに作用する thalidomideやlenalidomideなどimmunomodulatory drugs(IMiDs)が奏功する例が多い.
- 中立進化型多発性骨髄腫: ドライバー変異を原動力としてクローンが直線的に増加していく. t(4;14)やt(14;16)などの高リスク異常を含む14q転座の場合はこのタイプの進化をとることが多い.
- 予後不良の染色体転座をもち, 進展も早く, IMiDsに加えて, プロテアソーム阻害薬や造血幹細胞萎縮など強力治療を必要とする.
- クローン進化のパターンは, 総合すると病期・予後不良転座・1q増幅・p53変異とは独立の予後規定因子であった.
治療抵抗性の原因となる特定の遺伝子変異や染色体構造異常 --17p欠失および1q増幅のクローン進展との関係と薬剤耐性のメカニズム
17p deletion;
- 初発多発性骨髄腫(NDMM)の10%に検出される. 病勢進行とともに増加し再発・難治性多発性骨髄腫(RRMM), とくに髄外病変を伴う例やPCLでは50-70%dで認められる. *39
- 欠失範囲は症例により異なり, 短腕全体の欠失から1Mb以下の部分欠失までさまざま.
- 共通して約20の遺伝子の発現が低下すると報告されている. その中でがん抑制遺伝子TP53が最も重要である.
- 17p欠失によりp53発現量が1/2に低下するとhaploinsufficiencyにより機能が1/2以下に減弱, 抗がん剤や放射線によるDNA損傷への応答不全となりアポトーシス誘導が抑制され治療抵抗性となる.
- DNA修復能低下による二次性遺伝子変異誘発がおこる. とくに対側alleleのTP53(@17p13.1)点突然変異が問題となる.
- 多発性骨髄腫ではde novo TP53変異は比較的少なく, 17p欠失に合併することが多い.*40
- TP53変異は17p欠失の40-50%に合併するとされる. totalの頻度はNDMMで5-8%, RRMMで約25%. *41
- 初発多発性骨髄腫 1273例の17p欠失clonalityをcancer clonal fraction(CCF)として示した報告*42では, 17p欠失は108例(3.4%)に認められたがCCFはほぼ全例80%未満であり17p欠失はsubclonalにおこっていると確認されている.
- CCFは予後と逆相関している. : CCF>0.55の症例ではCCF≦0.55例に比べて有意に予後不良であった.(PFS14.3ヵ月, OS36.0ヵ月 vs PFS23.9ヵ月 OS 84.1ヵ月)
- TP53変異はCCF>0.55症例に明らかに多く認められた. (CCF≦0.55の症例では2.3%(1/44例) vs CCF>0.55の例では42.2%(27/64例))
- CCF>0.55例でもTP53野生型症例では, PFS/OSはCCF≦0.55の例とかわらなかったが, TP53変異例ではきわめて予後不良であった.
- TP53変異を定量的に解析する代わりに, 血小板数低下とLDHが臨床的パラメータとして高相関を示し利用可能である*43.
- p53機能欠損細胞ではグルコース取り込みが高進するため, PETシグナル強度が増加し, 縦隔に対する腫瘍のシグナル強度比が2.5以上の場合はp53に変異がある可能性が高い.
- p53変異をもつ症例では, 髄外病変が72.7%に認められた.
初診時に17p欠失をみとめた場合, TP53変異合併を防ぐため, 造血幹細胞移植をふくめた強力な導入療法をおこない17p欠失症例への有効性が示されているpomalidomideを含む治療でフォローすることが望ましい.
1q増幅 比較的最近になり予後への影響が明確になった構造異常. *44*45*46
- 高リスク異常の中でも頻度が最も高く, NDMMの約40%, RRMMでは50-70%に増加する.*47
- copy数増加は1q21に限局している. 3copy以上の増幅を1q gainとし, 4copy以上の場合を1q amplificationと定義する.*48
- copy数と予後は逆相関するため, 1q21に位置する遺伝子発現亢進が原因と考えられるが詳細はまだ不明--BCL9, MCL1, IL6RA, CKS1B(CDC28 protein kinase regulatory subunit 1B), ANP32E(acidic nuclear phosphoprotein 32 family member E), ARNT(aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator) など.*48
- 1q増幅は高リスク14q転座による細胞増殖亢進に伴う複製エラーやゲノム不安定性を背景として出現する可能性がある.
- 553例のMM症例で, FISHで1q増幅をしらべた201例のサブ解析*49:1q増幅あり46.8%(94/201), 1q増幅陽性症例のPFS中央値 は陰性例にくらべ有意に短かった. (+ 41.9ヵ月 vs - 61.5ヵ月)
- 治療としては, VRd療法やdaratummab-based regimensでは再発の多いことが報告され, 新規CD38抗体 istuximabとpomalidomide-dexamethasoneの組み合わせが期待されている.
多発性骨髄腫のintratumoral heterogenity†
- MMでは病変部位によるサイズ, 増大速度, 治療反応性の違いがしられている. ---遺伝子異常とこの時空的多様性の関連を調査PET-CTで検出された病変(FL; 症例あたり1-4カ所)を腸骨病変と比較. [初発MM 42, 再発11例]*50
- 部位による, 染色体構造異常の違いは40%の症例に認められた.
- driver変異には部位による多様性がみられない; 14q転座は22例全例, 染色体高二倍体化は31/33例ですべての部位に検出された.
- 17p欠失は2/6(33%)例に, Myc転座は4/16(25%)に部位特異性がみられた.
- 遺伝子変異については, 75%の症例に部位による違いが認められた.
- MAP kinase 経路に関与する分子で部位による違いが大きい; N-Ras変異(8/29), K-Ras(9/18), B-Raf(3/8)
- FLはsubcloneが局所に定着し, 定着場所との相互作用により進展したものと考えられる.
- FLにのみ高リスク異常が見られた場合, 腸骨, FLともに高リスク異常を呈した症例と同様 OSが短い.
- FLのサイズと部位による変異多様性は相関している. 骨髄検体のみでリスクを評価すると悪性度を低く見積もる危険性がある.
- PET-CTで2.5cm以上の病変は高リスクと考えられる.
骨髄腫幹細胞が残存するとクローン進化が再現されるため*51,高リスク症例については治療の継続, とくにプロテアソーム阻害薬を含むレジメンが必須である. 1q増幅も初診時に検査し初診時陰性でも再発時には再検査することが望ましい.