Myelodysplastic syndromes
作成中; 2022-01-05
小児造血障害の鑑別診断†
小児造血障害は, 小児不応性血球減少症(Refractory cytopenia of Childhood/ RCC)の概念提唱により, 従来の再生不良性貧血, 遺伝性造血不全症候群に加えて比較的頻度の高い一群を形成することが明らかになってきた. *1
小児/AYA世代 造血障害†
- 先天性赤芽球癆(Diamond-Blackfan anemia)
- 後天性赤芽球癆 (parvovirusB19感染症などを含む)
- 一過性赤芽球低形成 (transient erythroblastpenia of childhood/ TEC)
- 自己免疫性血小板減少症(immunological thrombocytopenic purpura: ITP)
- Wiskott-Aldrich症候群(X連鎖原発性免疫不全症のひとつ): JMMLとの鑑別が必要
- MYH9異常症, Bernard-Soulier症候群: 巨大血小板の出現
- 先天性無巨核球性血小板減少症
- 自己免疫性好中球減少: 抗好中球抗体
- 先天性重症好中球減少症(severe congenital neutropenia: SCN) 顆粒球成熟障害あり.
- 再生不良性貧血(AA)
- RCC(refractory cytopenia of childhood)
- 小児RCMD
小児MDSの考え方; RCC概念の提唱(2008)*2後, 小児造血不全中央診断事業(2009~)により, 小児RCCはAAとは骨髄組織像/形態的に比較的明瞭な違いがみられ, さらに, 低形成で軽度の異形成を呈するRCCと,すでに成人で定義されているRCMD(refractory cytopenia with multilineage dysplasia)と考えられる2群の存在が明らかとなった.*3(*European Working Group of MDS in Childhood[EWOG]の中央診断では各々が低形成RCC, 過形成RCCと分類され中央診断の2群に対応している)
日本のRCC臨床,病理に関する文献
- Iwafuchi H, Ito M. Differences in the bone marrow histology between childhood myelodysplastic syndrome with multilineage dysplasia and refractory cytopenia of childhood without multilineage dysplasia. Histopathology. 2019 Jan;74(2):239-247. PMID: 30062702
- Iwafuchi H. The histopathology of bone marrow failure in children. J Clin Exp Hematop. 2018;58(2):68-86. PMID: 29998978 Review.
- Itoh M. Bone marrow failure in childhood: central pathology review of a nationwide registry. Rinsho Ketsueki 2017;58(6):661-668. PMID: 28679999
- Hama A, Ito M, Kojima S. Differential diagnosis between aplastic anemia and hypoplastic myelodysplastic syndromes: from the viewpoint of pediatrics. Rinsho Ketsueki. 2012 Oct;53(10):1485-91.PMID: 23037720
小児骨髄異形成症候群Myelodysplastic Syndrome in Children†
(小児難治性細胞減少症 Refractory Cytopenia of Childhood, 家族性骨髄性新生物 Familial Myeloid Neoplasms,を含む)
MDSは小児ではまれ-14歳未満血液腫瘍症例の5%未満*4-であり,疾患のサブタイプは成人とは異なっている。*5
成人ベースのMDS分類は小児のMDSにアプローチするには最適ではない。そこで, 2003年にEuropean Working Group of MDS in Childhood(EWOG-MDS)が小児のMDSの修正分類を作成した.
小児の芽球増多を伴わない(BM<5%, PB<2%)MDSはrefractory cytopeniaと命名された.*5この分類は2008年のWHO分類に「暫定的に」組み込まれ,改訂された第4版の分類でも踏襲されている。*6*4
- 小児のMDSの多くは多系統異形成である。成人low-gradeMDSにみられる貧血のみの病態は少なく, 通常 neutropenia, thrombocytopeniaを伴っている
- 環状鉄芽球を伴う不応性貧血(MDS-RS) は小児では存在しない(稀であり),小児患者で環状鉄芽球が観察された場合は, 遺伝性ミトコンドリア異常症である, Pearson症候群を考えなければならない(除外する必要がある。) *7
- MDS with isolated del(5q)は小児では発生しない。5q欠失が存在する場合,他の核型異常も通常存在する。*8
- MDSとAMLの分離に20%の血球閾値を用いることは,小児診療では広く受け入れられていない。20%~30%の範囲の血球比率の小児患者は(特定のAML-RGA亜型を除いて),AMLよりもMDSに似た経過をとることが多く, 全般的に臨床的に安定で,臨床症状は加速する血球増殖よりも細胞減少に関連することが多いためである.*5
- 小児における低悪性度MDSの特徴として骨髄は低形成である場合が多く, 再生不良性貧血や先天性骨髄不全症候群との鑑別は容易ではない. [RCCは本邦では従来再生不良性貧血の範疇に入れられていたと考えられる. RCCと再生不良性貧血は鑑別を要する疾患である. RCCの診断基準を適用すれば,通常は正確に区別できるが,低細胞のRCC症例を再生不良性貧血と区別するためには,症例によっては長期の観察が必要となる場合がある。]
小児MDSの鑑別診断†
小児において汎血球減少と骨髄低形成がみられた場合には, 感染症や自己免疫疾患, 代謝異常など非造血性疾患をはじめ先天性骨髄不全症候群が背景に存在しないかどうかの鑑別診断を慎重におこなう必要がある.
小児MDSの診断では,MDSが一次性であるか,そのような先行疾患による二次性であるかを記載することが重要であり,これは治療法の決定や転帰に影響を与える可能性がある。
先天性骨髄不全症候群の多くはその原因遺伝子が発見され確定診断が可能となっているが, 網羅的遺伝子スクリーニングは現実的ではなく, 病歴の注意深い聴取や疾患特徴的な身体所見の把握が大変重要である.
身体的特徴を示さない症例が存在することから, 潜在的なFanconi貧血や先天性角化不全症(DKC)を除外するためには, 染色体脆弱性試験や, 血球テロメア長測定が有用である
Fanconi貧血やShwachman-Diamond症候群ではしばしば染色体異常を伴う二次性MDSに移行することがあり両疾患が重複していることもある
主な遺伝性骨髄不全症候群†
Fanconi貧血
- 常染色体潜(劣)性遺伝.
- 染色体不安定性を背景に, 汎血球減少, 皮膚色素沈着, 骨格系奇形, 低身長, 性腺機能不全などの異常とMDS, 白血病, 固形がんの発生を特徴とする.
- 大部分の症例では, 汎血球減少は14歳までに発症する.
- 患者さんの血液細胞では健常者細胞に比較して, マイトマイシンCなどのDNA架橋製剤暴露により著しい染色体断裂がおこることからFanconi貧血の病態はDNA二重鎖架橋に対する修復機構の障害と考えられている.
- FAは, 遺伝的に異なる多数のサブグループから構成され, 2019年時点では21群(A,B,C,D1,D2,E,F,G,I,J,L,M,N,O,P,Q,R,S,T,U,V)にそれぞれ対応する遺伝子が同定されている. 遺伝形式は主に常染色体潜(/劣)性であるが, B群はX連鎖潜(/劣)性, R群はde novoの片アレル変異により発症するドミナントネガティブ型である.
- 表現型はさまざまであり, 中には特徴的な身体所見/異常を呈さない症例もあるため, 小児骨髄不全症の患者さんにおいては全例染色体脆弱性試験をおこないFanconi貧血を除外する必要があると考えられる.
Dyskeratosis Congenita (DC) 先天性角化不全症
- 伴性潜(劣)性遺伝であるが, 一部は常染色体顕(優)性遺伝である.*9
- DC患者さんの細胞のテロメア長は著しく短縮しておりテロメアの維持機能障害が疾患原因と考えられている.
- 爪の萎縮, 口腔内白斑, 皮膚の網状色素沈着を特徴とするが, 特徴的身体所見がそろわない患者さんもおり, 臨床所見からだけでは診断が困難なことがある.
- 特発性の再生不良性貧血と考えられていた症例の一部にTERTやTERCなどテロメア維持に関与しDCの原因遺伝子とされている遺伝子の異常が明らかになっている.*10 *11
- スクリーニング検査として末梢血をもちいたFlow-FISHやSouthern blotによるテロメア長測定が有用である
- 5%がMDSや白血病に移行することがしられている. *9
Schwachman-Diamond症候群 (SDS) *12*13
- 骨髄不全, 膵外分泌機能不全, 骨幹端異形成症を3徴とする常染色体潜(劣)性遺伝疾患.
- 3徴以外に, 成長障害, 精神発達遅滞, 肝機能障害などを呈することもある.
- 膵外分泌機能不全により脂肪便が出現する. 血清イソアミラーゼやトリプシノーゲンは低値を示し診断に有用
- 30~40%がMDSや白血病に移行することがしられている.
- SDS患者さんの90%にSBDS遺伝子の両アレル変異が認められる.
- SBDSタンパクはリボゾーム生成やRNA代謝に重要な役割をしているため, 遺伝子変異により正常タンパクが生成されなくなり,リボゾームの成熟が障害されることが病因のひとつと考えられている.
Diamond-Blackfan貧血 (DBA)*6*14*15
- 赤芽球癆 red cell aplasia,身体奇形,悪性腫瘍の発症素因を特徴とするまれな遺伝性骨髄不全疾患.
- リボソームタンパク質の遺伝子変異や遺伝子欠失]]がDBAにおいて次々と発見され, DBAはリボソーム生合成あるいは機能の障害とみなされるようになり,リボソーム症と総称されている.
- DBA患者の約25%に少なくとも1つの身体異常が認められる.最も多いのは、眼間開離や口唇口蓋裂などの頭蓋顔面異常で、次いで低出生体重児、親指の異常、腎臓や心臓の異常が多い.これらの異常はFanconi貧血やDCの患者よりも軽度である.
- 診断時年齢の中央値は3ヶ月で,98%以上の患者が1歳未満で診断される.
- DBAの患者は,一般的に大球性貧血と網状赤血球減少症を呈し,しばしばHbFと赤血球アデノシンデアミナーゼ(eADA)活性の上昇と,BMにおける赤血球前駆体の減少または欠如を伴う.
- 骨髄不全発症のリスクは低く,高齢になるとしばしば発症する. その累積発生率は70歳までに50%を上回ると報告された.
- 固形腫瘍の累積発症率も70歳までに50%を上回り, osteosarcoma, colon cancer, lung cancer,and cervical cancerなどが主な腫瘍である.35,63これらの腫瘍は,FA や DC 患者に最も一般的な腫瘍である頭頸部 SCC とは対照的に DBA に特有であり,この疾患の腫瘍形成の基礎が異なっていることを示唆している.
- MDSの累積発症率は50歳までに5%, AML累積発症率は46歳までに5%と報告されており, Fanconi貧血よりも頻度が低い
- 生存中間値は67歳で, 主な死因は,治療関連死, 感染症, 鉄過剰症や造血幹細胞移植の合併症である.
Refractory cytopenia of the Childhood†
小児難治性細胞減少症(RCC)は小児期の主なMDS(50%を占める)であり, MDS-MLDと似ているが,RCCでは骨髄の低形成がより一般的である(80%の症例)。再生不良性貧血との鑑別は容易ではないことがある.
再生不良性貧血と低形成MDSの鑑別診断ガイドライン (FAB Cooperative Leukaemia Working Group 2009)*16
RCCの診断においては
- 2あるいは3系統の形態異常を骨髄塗抹標本で認める or ---> WHO 4thでは 異形成は"only one aspect of the morphological diagnosis of RCC"とされている*4.
- 1系統のみの形態異常であれば 10%以上の細胞に異常がみとめられることが必要
RCCサブタイプの骨髄組織所見*17
Refractory cytopenia of childhood(RCC)は MDS with multi-lineage dysplasia (MDS-MLD)とRCC without MLDにサブ分類される.(文献:2017年*17に記載:ここのところ要確認.)
- Japanese Childhood AA-MDS Study Groupに登録されたRCC60症例. MDS-MLD 20(33%), RCC without MLD 40(67%)
- 両グループは骨髄組織所見において, cellularity, 造血細胞分布パターン, left-shifted granulopoiesisの頻度, micro Mgkの数, p53陽性細胞の数に明かな差が認められた.
(つまり, この骨髄組織所見の差異によってRCCを病理組織学的に分類しているわけですね.)
- 小児MDS-MLDでは, 過形成髄, びまん性造血細胞分布が通常認められ, left-shifted granulopoiesis(顆粒球系細胞のうちprecursorsが90%をこえる状態と定義), micro Mgk, p53陽性細胞の頻度がRCC without MLDに比較して高頻度に認められた.
- BM cytologyでは, blasts% および 3系統造血細胞異形成所見が MDS-MLD > RCC w/o MLDであった. (<0.001) cellularityでは, 低形成髄は RCC w/o MLDに, 過形成髄はMDS-MLDが有意に高頻度であった. *17
- 異常核型は, MDS-MLD 3/20 (15%), RCC w/o MLD では認められなかった (p=0.012). FISH法では, monosomy7がRCC w/o MLDでは3/28(11%), MDS-MLDでは1/11(9%)に検出され, trisomy8が1/24(4%), 2/11(18%)それぞれRCC w/o MLD, MDS-MLDに認められた. (有意差なし)