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Notchシグナル伝達系は
動物のさまざまな臓器の発生過程, 成体でのホメオスタシス, 幹細胞機能などに関与するとともに, その異常はがんなど多種の疾患のもとになる.
Notchの歴史*1
1913年, Thomas Hunt Morgan の研究室で切り込みの入った翅をもつ雌のショウジョウバエが見つかった. 翅の先端がわずかに欠けた変異体はNotchと名付けられ, 研究が始められた.
Morganの研究室では偶発的にショウジョウバエに現れる突然変異体を探して, 遺伝学の研究に用いていた. 白い眼のwhiteや体色の黄色いyellowを用いた研究によりMorganは1933年にノーベル医学・生理学賞を受賞している.
Notchの研究はDonald Poulsonにより本格的に始められた. 彼はNotch変異のホモ接合体では外胚葉から表皮が形成されず, かわりに神経組織に置き換わっていることを1930年代に発見した.
この「neurogenic」と呼ばれる表現型の解析により正常Notch遺伝子は外胚葉の将来表皮になる予定の細胞が神経系への運命をたどることを抑制する機能をもつことが示された.
Notchは単一遺伝子が外胚葉の運命決定という重大事象にかかわっていることを初めて示した事例であり, 遺伝子が発生現象にかかわるという説に懐疑的であった発生学者に大きなインパクトを与え, 発生遺伝学の礎のひとつになった。
側方抑制
ショウジョウバエの腹側神経予定域では, ニューロンに分化する細胞はDeltaリガンドを強く発現し, 隣接細胞が発現するNotch受容体を活性化することで, 周囲の細胞がニューロンに分化するのを抑制している.
このように一つの細胞がある性質を発現した場合、Notchシグナリングを介し、近隣細胞においてその発現は抑えられることとなる。 Notchシグナルにより細胞集団は互いに影響し合い大きな構造を形成する。この側方抑制の仕組みはNotchシグナリングの鍵となっている.
細胞系譜決定; 剛毛の形成では, 1つの細胞系譜からシャフト細胞, ソケット細胞, グリア, ニューロンが分化するが, Notchシグナルが欠損するとニューロンのみが分化する.
境界形成; 翅の縁でNotchシグナルが働き, 背側と腹側の境界をつくる. この過程において Notchシグナルが欠損すると, その部分にへこみ(Notch)が生じる.
脊椎動物発生でのNotchシグナルの働き方はショウジョウバエのように詳細には定義されていないが, アフリカツメガエルやゼブラフィッシュの一次ニューロン産生においてNotchシグナルが側方抑制をおこなうことや体節形成でも, Notchシグナルが重要な働きをしていることが示されている.
哺乳類大脳皮質におけるニューロン分化や血球細胞分化ではNotchシグナルを受容した細胞は幹細胞状態を維持する.
Notch遺伝子クローニングと配列決定は1985年に発表された.
NOTCH1--NCBI ID4851 Location: 9q34.3 Exon count:34
GRCh38.p12 (GCF_000001405.38) Chr9 NC_000009.12 (136494433..136545786, complement)
大きな, 約200kDの細胞外領域と約120kDの細胞内領域をheterodimericに持つ受容体のようなI型膜貫通タンパク質をコードすることが明らかにされた.
Notchタンパク質
Notchの正体がわかる数年前に, 胚発生においてNotchと同様のneurogenicな表現型を示す遺伝子が6つ--Delta, mastermind, neuralized, Enhancr of split, almondex, big brain--発見された.
Notchシグナルに関わるホモログ--哺乳類
Notch受容体
4つNotch:---NOTCH1, NOTCH2, NOTCH3, NOTCH4
リガンド
3つのDl:---Delta-like1(DLL1), DLL3, DLL4. (2は欠番)
2つのSer:---哺乳類ではJAGGED1(JAG1), JAG2
1つのSu(H)RBPJ. (クローニング・同定はSu(H)の先におこなわれた. 別名: RBP-Jk, CBF1, KBF2, CSLなど)
3つのmam:---Mastermind-like1(MAML1), MAML2, MAML3
Notch signaling
Notch受容体は,1回膜貫通型タンパク質で機能的な細胞外ドメイン(NECD),膜貫通ドメイン(TM),及び細胞内ドメイン(NICD)からなる。
シグナルの受け手細胞内では, mRNAから翻訳されたNotch受容体タンパク質は小胞体(ER)およびゴルジ体において, Furin様プロテアーゼにより切断(S1切断)され, Fringeにより糖修飾をうけて成熟し細胞表面に提示される. カルシウムイオン (Ca2+) によって安定化され, 膜に挿入されたTM-NICDと非共有結合で接着しヘテロ二量体 heterodimerを生じる.
このプロセッシングを受けた受容体は,次に細胞膜へ移行し,リガンドを結合できるようになる。哺乳類では,シグナルを送る側の細胞に存在するDelta様 (DLL1,DLL3,DLL4) 及びJagged (JAG1,JAG2) ファミリーのメンバーが,Notchシグナル受容体に対するリガンドとして働く。
リガンドが結合すると直ちに,NECDはTACE (ADAM金属プロテアーゼTNF-α変換酵素) によってTM-NICDドメインから切り離される (S2切断)。
このNECDはリガンドに結合した状態を維持し,この複合体はシグナル送信側の細胞内でエンドサイト―シスとリサイクリング/分解を受ける。
シグナル受信側の細胞内では,γ-セクレターゼ (アルツハイマー病にも関与する) がTMからNICDを遊離する (S3切断) が,これによってNICDは核内へ移行し,そこでDNA結合因子 CSL [CBF1/Su(H)/Lag-1/RBPjともよばれる] ファミリー転写因子複合体と直接的に結合する.
CSLはNotchシグナル不活性(NICDが存在しない)状態では,転写コリプレッサーのSMRTやヒストン脱アセチル化酵素のHDACなどの転写抑制因子とともに働いて,下流遺伝子発現を抑制している.
核内でCSLにNICDが結合するとMAML(転写コアクチベータ)やHAT(ヒストンアセチル化酵素)などと複合体を形成, 下流遺伝子発現を活性化する.
- 下流遺伝子のうち, bHLHタイプの転写抑制因子Hes1とHes5はニューロン分化を促進する遺伝子群発現を抑制する.
- Hes遺伝子群はNotchシグナル下流で骨髄における造血細胞分化を抑制している.
- Mib, Neurはユビキチン修飾によりDeltaリガンドの活性制御をおこなう.
細胞内分子Numbは非対称細胞分裂時に不均一に分配され, Numbを含む娘細胞ではNotch分子はエンドサイトーシスとユビキチン化によりシグナルが抑制される.
Notchシグナル経路は,ヒトの疾患との関連があるために薬理学的な介入に向けた興味を加速させてきた。重要なことは,NICDの核内への蓄積に結び付くようなNotch受容体の活性化型変異は,成人T細胞急性リンパ芽腫性白血病及びリンパ腫に共通していることである。さらに,機能欠失型のNotch受容体及びリガンドの変異は,アラジール (Allagille) 症候群や,常染色体優性型の大脳動脈症であるCADASILなどの数々の疾患への関与が示唆されている。
他のシグナル伝達系にはみられないNotchシグナルの特徴
1. シグナルが多くの場合, 隣り合った細胞間のみでおこる.
Notchシグナル受容体のリガンド, DeltaとSerrate(哺乳類ではJagged)は, 受容体とおなじくI型膜貫通タンパク質であり, シグナルの活性化には2つの細胞が隣接し, 細胞表面上でリガンドと受容体が直接結合することが必須である.
リガンドとの結合によりNotch受容体は構造変化をおこし, タンパク質切断酵素のADAM protease, およびγ-secretaseによって細胞内領域(NICD)が切り離される.
2.シグナル伝達にはセカンドメッセンジャーを必要とせず, またシグナル増幅はおこなわれない.*8
膜より切り離されたNICDは核内に移行し, DNA上でSuppressor of HairlessやMastermindなどの転写因子, co-activatorと相互作用することで下流遺伝子の転写をNotch自身が直接促進する.
3.Notch受容体やリガンドの翻訳後修飾や細胞内小胞輸送がシグナル強度を調節するうえに非常に重要な役割を果たしている*9
Notchシグナルにはリン酸化カスケードといった増幅機能が備わっていないのでリガンドや受容体の発現量や安定性, 細胞表面上でのNotch受容体の切断量によりシグナル強度が大きく左右される.
Notchシグナルは弱すぎても強すぎても個体の発生異常をきたすことが知られている. またNotch遺伝子は組織によってがん遺伝子(白血病)としてもがん抑制遺伝子(皮膚がん)としても機能しているため, シグナル強度の微調整がどのように行われているのかを知ることはNotchシグナルを制御していく上で不可欠となる.*10
NOTCHリガンド(DSLタンパク質)
正常血球の発現: RT-PCRによるmRNAレベルおよびFACSでのタンパク質レベル解析*12*13*14
Notch1---HSPCs, リンパ球系前駆細胞, 未熟T細胞に発現
Notch2---HSPCs, 各系統の前駆細胞, 成熟B細胞*12, 肥満細胞, 樹状細胞に発現
Notch4---血球系での発現はかなり低いと考えられている.*14 血管内皮細胞に発現し, リガンドは主にストローマ細胞(血管内皮を含む)や抗原提示細胞に発現している.*15
NOTCH1-TCRβfusion; t(7;9)(q34;q34.4)
NOTCH1遺伝子変異(activating mutation;AM)によるNOTCH1恒常的活性化.*18