アルドステロン: 副腎から分泌されるホルモン
レニン: 腎臓糸球体傍糸球体細胞より分泌されるホルモン
アンギオテンシノーゲン, アンギオテンシンI, アンギオテンシン II
- 肝臓や脂肪細胞からアンギオテンシノーゲンが生成される.
腎臓は糸球体で血液から, 1日, 18リットルほどの尿(原尿とよぶ)を作るが, その多くは尿細管という管を通るときに水とナトリウムが再吸収されて, 最終的には1日約1.8リットル(ほぼ一升びん一本ほど)の尿として排泄される.
レニンはアンギオテンシノーゲンを分解しアンギオテンシンIへ変換する.
腎臓血液量の減少によりレニン分泌が促進される.
アルドステロンは腎臓の尿細管に作用して水とナトリウムの再吸収をうながす. カリウム(K)の再吸収は抑制する.
アンギオテンシンIIは副腎からのアルドステロン分泌を促進する. また血管を収縮させ、交感神経系を刺激して心拍出量を増加させる. 血圧の上昇, 維持に働く.
種々の原因による血圧低下状態や腎の循環血液量減少によりこのシステム(系)が働く.
レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の調節は無視して、勝手に(=自律的に)アルドステロンが副腎から分泌、血中に増加する状態.
レニン非依存性, 抑制不能な(原発性)アルドステロン過剰分泌. 高血圧の5-13%. 1954年 Connらが最初に報告したアルドステロン産生腺腫以来, さまざまな原発性アルドステロン症のサブタイプが記載されている.*1*2*3*4
● 両側性の特発性高アルドステロン症(あるいは特発性過形成) 60-70% Bilateral idiopathic hyperaldosteronism (or idiopathic hyperplasia [IHA])
● 片側性アルドステロン産生副腎皮質腺腫 30-40% Unilateral APAs (30 to 40 percent)
● 片側性副腎過形成または原発性副腎過形成(一方の副腎球状層に優位な顕微鏡的あるいは肉眼的過形成). 臨床症状や予後はアルドステロン産生腺腫患者さんと同じ.*5
● 家族性高アルドステロン血症 typeI-IV.
- type I (グルココルチコイド反応性[治療可能]高アルドステロン血症 glucocorticoid-remediable aldosteronism [GRA])
- type II (家族性副腎腺腫familial occurrence of APAあるいは両側性特発性過形成bilateral IHAまたはその両者)
- type III (Kir3.4カリウムチャンネルをコードするKCNJ5遺伝子の胚細胞性変異)
- type IV (L型電位依存性カルシウムチャンネル L-type voltage-gated calcium channelをコードするCACNA1H 遺伝子の胚細胞変異)
● 純アルドステロン産生副腎皮質癌 非常にまれ.
● 異所性アルドステロン産生腫瘍-卵巣, 腎臓腫瘍
アメリカ内分泌学会, 日本高血圧学会, 日本内分泌学会のPA診断ガイドラインがあるが、診断方法,その優先順位や判定のカットオフ値など, 診療ステップにコンセンサスがなく, 完全なものはまだない. 副腎静脈血採血など観血的な検査が含まれ, 今後非侵襲的なPAの診断法の開発が望まれる.
カプトプリル負荷試験
ACE(アンギオテンシン変換酵素)阻害薬のカプトプリルを投与し, アンギオテンシンIIとアルドステロン分泌を低下させ, ネガティブフィードバックを抑制してレニン分泌を促す, レニン刺激試験のひとつ.
原発性アルドステロン症では自律的アルドステロン過剰分泌によりレニン分泌に強いネガティブフィードバックがかかっておりアルドステロン高値, レニン低値が維持されてしまう.
カプトプリル50mg内服後, 60分or90分のPAC/PRA比を測定する.[上図の縦軸は相対的変化をあらわす]
陽性判定基準は, 負荷後ARR(APC:pg/ml/PRA:ng/ml/hr)> 200または PAC/ARC(active rennin concentration:pg/ml)>40, PAC>120pg/ml.
正常では血清レニン活性(PRA)が前値の約2倍に反応し, 血清アルドステロン濃度(PAC)は抑制される.
PAではアルドステロンの自律的分泌によりすでにアンギオテンシンIIが抑制されているため, 刺激後のPACの低下反応, 刺激後のPRAの増加反応が認められず, 負荷後60分のPAC/PRA比が上昇する.
腎血管性高血圧では, R-A系が亢進しているため, PRAが過大反応を示す.
原発性アルドステロン症は, 病的副腎組織からのアルドステロン過剰産生・分泌による二次性高血圧症. 本邦高血圧患者の5-10%を占めるといわれている.
アルドステロン産生副腎皮質腺腫(aldoserone-producing adrenocortical adenoma: APAA)の約2/3で原発性アルドステロン症をきたすとされる. 発症は30-50歳代に多く, 女性に多い.
APPA腫瘍細胞において, 近年, カリウムチャンネルの1つである, inwardly rectifying potassium chanel Kir3.4(KCNJ5), またNa+/K+ -ATPase(ATP1A1), Ca2+ -ATPase(ATP2B3), さらに電位依存性カルシウムチャンネルであるCACNA1Dの体細胞変異が報告され, APPA発症との関連が推測されている.
画像では, 境界明瞭, 内部均一な副腎腫瘍として同定される. CTやMRIでは, 腫瘤内部の脂肪成分存在が診断の一助となる.
近年では, 画像では診断できない, 副腎静脈血サンプリングadrenal vein sampling(AVS)などの結果で指摘され, 組織マクロや組織学的に同定される1cm以下のmicro adenomaが増加している.
APPAのマクロ像:--->アルドステロン産生副腎腺腫 &ref(): File not found: "APPA-macro.pdf" at page "Primary aldosteronism";
IWT case 62 yo male.
File not found: PA-adrenal-ok_s.jpg File not found: PA-adrenal-loupe_s.jpg 副腎腫瘍肉眼所見 loupe像
17-α-hydroxylase/ c17-20lyaseの2つの異なる化学反応をひとつのチトクロームタンパク質酵素が触媒している. このタンパクは糖質コルチコイド, 副腎アンドロゲン合成には関与しているが, アルドステロン合成には全く関与していない.
免疫組織化学が確立されており, 副腎だけでなく, 卵巣や精巣でのステロイド合成が同定可能である.
正常副腎皮質では, 束状層(ZF)を中心に認められ球状層ではmRNAレベルにおいてもほとんど発現はない.
c17が発現するとprogesteron, pregnenoloneといったアルドステロン前駆体ステロイドは(図横方向)性ステロイドへの反応がすすみアルドステロンになる量がきわめて少なくなってしまう.
比較的限られた副腎皮質細胞でアルドステロンが過剰に合成される場合はc17タンパクが発現していないことが条件であり, 微小腺腫など小さなアルドステロン産生腫瘍を同定するために重要な所見である.
3βHSD (3β水酸化ステロイド脱水素酵素-3β hydroxysteroid dehydrogenase)
sccのつぎの段階の, すべての生物学的活性のあるステロイドホルモン合成を触媒する非常に重要な酵素.
scc, CYP11B1/2とは異なりミクロソームに存在するタンパク質酵素でありFFPEで保持されている.
免疫染色による解析で, 特発性アルドステロン症(IHA)においてアルドステロン過剰を伴う球状層過形成と, アルドステロン産生腫瘍(aldosteronoma)の付随皮質に認められるparadoxical hyperplasia of the zona glomerulosaとよばれる病態の鑑別が可能. 後者はアルドステロン産生過剰を伴わない過形成である.
コルチゾール合成とアルドステロン合成の最終段階にかかわる酵素. CYP11B1/B2の遺伝子は染色体8q22にきわめて近接して(40Kbしか離れていない)位置し,
CYP11B2はアルドステロン合成最終段階にのみ関与する酵素であるとされ, 現在感度特異度が向上しているモノクローナル抗体が開発されてアルドステロン産生細胞の同定に応用されているが, B1, B2は構造的に大変類似しており, 確実に両者を区別するうえで問題が残っている. さらに産生量が多いコルチゾールなど糖質コルチコイドと異なりアルドステロンは産生量が少なく, 合成動態の解析の困難さが推察される.
正常副腎皮質:CYP11B2は球状層に限局して発現するが, 通常は一部の球状層細胞に発現しているに過ぎない. C17は球状層細胞では発現しておらず, 理論的に合致する. しかしCYP11B1は一部ながらc17が発現していない球状層でも認められるため解釈に注意が必要である.
Idiopahtic hyperaldosteronism(IHA): 原則的に両側球状層の過形成を伴い, 3βHSDでみると球状層にびまん性に発現している. CYP11B2, I型の3βHSDの発現を検討すると発現量はさまざまであるが, ほぼすべての球状層細胞に認められアルドステロン産生が亢進していることを表している.
この球状層細胞ではc17は発現していないが, CYP11B1が染まる症例もあり解釈に注意が必要である.
比較的大型のAldosteronomaでは複数のステロイド合成酵素がIHCで認められることがあり正常, 過形成とは異なる腫瘍の多様性が示唆される. ; c17, 3βHSD, CYP11B1, CYP11B2の4種類が同じ腫瘍細胞に発現している例や, 3βHSDは発現しているが, c17/CYP11B1とCYP11B2の発現が別々の腫瘍細胞で認められる症例などがある.
微小アルドステロン産生腺腫では二次性に皮質組織構築改変が生じていることが多く, 複数の皮質結節が形成されている. 球状層が過形成でも, 3βHSDが発現していないためIHAではないと診断することは困難ではないが, 複数あるどの病変がアルドステロンを過剰に合成分泌していたかを同定するのは容易でない.
φ5mm以下のアルドステロン過剰産生病変では, c17の発現はほとんど認められず3βHSDが著明に発現していることが知られていた. c17(-), 3βHSD(++)に加えて, CYP11B1が陽性であることがアルドステロン過剰合成の場を同定する最も信頼度の高い所見.