プロテアソーム proteasomeは, 酵母から哺乳類に至るすべての真核生物において高度に保存された, ユビキチン化タンパク質を分解する巨大な複合体型のタンパク質分解酵素protease.*1*2
プロテアソームは細胞内に大量に存在し, 全タンパク質の1%近くを占める. 核にも細胞質にも多数散在し, 小胞体のタンパク質も破壊する.
小胞体に運ばれ, 折りたたみや組み立てが正しく行われなかったタンパク質は, 小胞体の監視機構により細胞質へ逆輸送retrotranslocationされ, 分解される。
プロテアソームはプロテアーゼ活性をもつ複合体の20Sコア粒子の両端あるいは片側に19S複合体(PA400ともよぶ)が会合した26Sプロテアソームである.
20Sプロテアソームは長さは15nm,直径11.5nm. 14種類, 28個のサブユニットから成る. 7個のサブユニットがリング状七量体をつくり4段積み重なり中空の樽状複合体を作っている.
19S複合体は6個のATPase活性をもつサブユニットがつくるATPリングに10種類以上のnon-ATPaseサブユニットが会合した複合体.
19S複合体は, さらに基底部(base), 蓋部(lid)に区分される. *3
複雑なプロテアソーム複合体がどのように正確につくられるのかわかっていなかったが, 20Sプロテアソーム構成については, 形成支援にはたらくシャペロン分子PAC1-4(proteasome assembling chaperone 1-4), Ump1/ POMPの発見と機能解析がおこなわれ, めざましく進展し, ほぼ解明されてきた。*4*5*6*7*8*9
プロテアソーム複合体において, 19S複合体がどのように形成されるか, 19S複合体と20S複合体がどのように会合/解離するか問題として残されている。26Sプロテアソームは不安定で精製困難であり, その機能を修飾するproteasome interacting proteins(PIPs)も複雑なため結論はまだでていない。
プロテアソームでは幅広い多種の標的タンパク質を高い選択性をもって分解するという矛盾した機能を正確にはたしている.
19S制御粒子はユビキチン鎖の捕捉, 基礎タンパク質の解きほぐし, 20Sコア粒子への送り込み, ユビキチン鎖の切り離しなど20Sコア粒子での分解のために基礎タンパク質の前処理をおこなう。
分解の標的であるタンパク質は前処理を受け, 解きほぐされたタンパク質のみが通過可能な20Sコア粒子αリングを通り, βリングから作られるcatalytic chamberに到達, 内壁にプロテアーゼ活性中心が露出してタンパク質を分解する.(外には影響を及ぼさない)
制御粒子, コア粒子を構成する33種類のサブユニットが絶妙に配置され, 連携してユビキチン化タンパク質分解を行っている.
20Sプロテアソームのサブユニットのうち, 触媒活性をもつのは, β1, β2, β5のみ. 20Sプロテアソームは内壁にβ1, β2, β5が2セットの合計6カ所の触媒活性部位がある. 空洞の大きさはante chamber(前室; αリングとβリングでできる空洞)で59nm3;, 活性化部位catalytic chamber (2つのβリングでできた空洞)は84nm3;と広く, 相当量のペプチドや分解途中産物を保持することが可能である. 各chamberで反芻を繰り返しているかもしれない.*1
- キモトリプシン様活性--中性疎水性アミノ酸のC末端側を切断する活性--->β5 subunitが活性を担当
- トリプシン様活性--塩基性アミノ酸のC末端側を切断する活性---> β2 subunitが担当
- カスパーゼ様活性(=PGPH(peptidylglutamyl-peptide hydrolyzing)様活性とも呼ばれる)酸性アミノ酸C末端側を切断する.--->β1 subunitが担当
このタイプのプロテアソームは酵母から哺乳類に至る全ての真核生物で保存され構造プロテアソームと呼ばれる.
酵母では20Sプロテアソームを構成するβサブユニットの遺伝子は7種類である. MHCをもつ脊椎動物においては遺伝子は10種類存在し, 触媒活性をもつβ5, β2, β1と相同性の高いβ5i, β2i, β1iがinterferon γにより強く誘導されることが確認された.
- β5i, β1iの遺伝子はMHC遺伝子領域に存在しており, MHC classI抗原ペプチドを細胞質から小胞体(ER)へ輸送するtransporterをコードする, TAP1, TAP2遺伝子に隣接している.
- β5i, β2i, β1i, 3つのIFNγ誘導性サブユニットは免疫制御に大きくかかわっている可能性が示唆され, 免疫サブユニットと呼ばれる.
- β5i, β2i, β1iはIFNγ刺激により構成型サブユニットに優先してプロテアソームに組み込まれ触媒作用担当サブユニットがすべて入れ替わった免疫プロテアソームを構成している。
- β1iの組み込みにはβ5iが必要で, β2iの組み込みには, β1iが必要という組み込みでのヒエラルヒーが存在しており結果的に均一なプロテアソームが作られることが保証されている. *10
- β5iは他の2つの免疫サブユニットとは無関係に組み込まれるため, 構成型サブユニット(β2, β1)と混合で組み込まれたプロテアソームが存在するかもしれない.
- 免疫プロテアソームは構成型とは異なる基質特異性をもつ.
- 中性疎水性および塩基性アミノ酸C末端側を切断する活性が高くなり, 酸性アミノ酸C末端側切断活性は低下している.
- MHC classI結合ペプチドはそのC末端がアンカーの役をするが, その大部分は中性疎水性, 一部が塩基性アミノ酸であり, 酸性アミノ酸がアンカーとなることはない.
- 免疫プロテアソームはMHC classI結合に有利なペプチドの酸性を促進していると考えられる. *11
- 免疫プロテアソームは抗原プロセッシングの質を変え, 末梢における抗原提示や胸腺内T細胞選択において重要な機能をもつ.
- 免疫プロテアソームは抗原提示全般に必須ではなく, 免疫プロテアソーム依存性および非依存性のものが存在する.多くの抗原について免疫プロテアソームがCTLエピトープ生成を促進するが, 構成型プロテアソームでのみ切り出される例も知られている.(RU1やMelan-A腫瘍拒絶抗原など)
PSMB11; proteasome subunit beta 11
2007年Murataら*12がプロテアソームサブユニットと高い相同性のある遺伝子を発見, 胸腺なかでも胸腺皮質上皮細胞(cortical thymic epithelial cells; cTEC)に特異的に発現することを見いだした.
遺伝子のコードする新しいプロテアソームサブユニットは構成型および免疫プロテアソームのキモトリプシン様活性を担当するβ5, β5iと高い相同性を示し, 実際cTECにおいてβ5, β5iに替わりプロテアソームに組み込まれる.
新サブユニットはβ5t(t; thymus), β5tが組み込まれた特殊なプロテアソームは胸腺プロテアソームと名付けられた.
胸腺皮質上皮cTECのプロテアソームはほとんど胸腺プロテアソームに占められている。
β5tも免疫プロテアソームと同様に脊椎動物にしか認められず, 進化の過程で出現したと考えられる.
胸腺皮質上皮と髄質内上皮, 樹状細胞では異なるプロテアソームが発現している
胸腺プロテアソームはcTECに発現する一方, 胸腺髄質上皮(mTEC)や樹状細胞(DC)では, 免疫プロテアソームが発現している。
β5tはβ5, β5iと高い相同性を示すが, S1ポケットと呼ぶ基質特異性決定構造を形成するアミノ酸が決定的に異なっている.
β5, β5iのS1ポケットは疎水性アミノ酸で構成され, 疎水性相互作用によりS1ポケットに疎水性アミノ酸を結合させ, キモトリプシン活性を発揮している。一方, β5tのS1ポケットは親水性アミノ酸でできており, キモトリプシン様活性を失っている.
β5tがサブユニットの胸腺プロテアソームがほとんどのcTECにおいて産生されるプロテアソーム分解産物は末梢やmTECで作られる分解産物とは大きく異なり, MHC classIに結合しないか, 低親和性で結合されることが推測された.
β5t欠損マウスより, β5tはcTECの分化生存には必須ではなく, 代わりにβ5, β5iが組み込まれプロテアソームの機能(細胞維持)をはたしていた. しかしβ5t欠損マウスでは, CD8 SP細胞が著減し, cTEC上のMHC classI/自己ペプチドとTCRの相互作用による正の選択が特異的に障害されていることを示唆した。
もっとも可能性があるのは, cTECで胸腺プロテアソームにより産生され, MHC classIに提示されるレパトアこそがCD8 SP細胞の正の選択に必須であるという考え方.
2011年 結節性紅斑, 周期熱, 脂肪萎縮などを主徴とする自己炎症性症候群-中條・西村症候群/Japanese autoinflammatory syndrome with lipdystrophy (JASL)の原因遺伝子が β5tをコードするPSMB8であることが本邦より報告された.*13*14
さらに原因不明であった自己炎症性症候群の原因遺伝子として, β5i以外の, 構成型コア粒子サブユニットを含む, プロテアソームサブユニットやプロテアソーム形成シャペロンUmp1の遺伝子変異が報告されている.*15