SMARCA4(BRG-1)-deficient thoracic neoplasm/sarcoma

MDSの遺伝子異常-pre-mRNAスプライシング機構に関わる遺伝子群の異常

RNAスプライシング

文献*1

スプライシングの巧妙さと破綻による異常

文献*2 *3

遺伝子から前駆体mRNA pre-mRNA, が転写された後, intronを削除し, 前後のエクソンどうしを結合する反応をmRNAスプライシングと呼ぶ。

恒常的スプライシング
1つの遺伝子から, 一定のスプライシングにより1種類のmRNAが産生される場合を恒常的スプライシングという.
選択的スプライシング
取り上げるエクソンを選択して複数のタイプのmRNAが産生される場合を選択的スプライシングとよぶ。

ヒト遺伝子においてはエクソン平均長(163塩基)はイントロン平均長(5849塩基)にくらべはるかに短い.*4長いイントロン領域を認識して正確に切り取りエクソンだけを結びつける機構が細胞に存在している。

スプライシングシグナル

スプライシングは前駆体RNA上に書き込まれている制御配列(cisエレメント)と, この配列を特異的に認識してそこに結合するRNA結合タンパク質の組み合わせにより行われる.

mRNA前駆体には正確なスプライシングを行うため, スプライシング装置が正しい場所で”cut and paste”されるように, その位置を示すシグナルが存在している.
多数の異なる遺伝子塩基配列を比較検討し, intron境界を検出してその共通配列を分析した.この共通配列がシグナルの一部である可能性が高いと考えられる.

1. GT-AG則

核内mRNA前駆体のイントロンの始まりと終わりはほとんど常に同じ配列であることがChambon*5*6により示された.

 

Exon/ GU - Intron - AG/ Exon

 

転写産物のイントロンの最初の2つの塩基はGUで最後の2つの塩基はAGと常に決まっている

このシグナルは酵母, 植物から脊椎動物にいたるまで真核生物の細胞種をこえて保存されている.

splicing-signal.jpg

2. 5', 3'スプライシング部位およびブランチ部位のシグナル

GU-AGモチーフはいたるところに存在し, イントロンには複数のGU, AGが含まれている.
これらの場所でスプライシングが起こらないようイントロン-エクソン境界に共通する塩基配列があり, 複雑なシグナルを構成している。さらにブランチ部位にもシグナルが存在する.

 

5'-AG/GUAAGU - Intron - YNCURAC-Yn-NAG/G-3' /はExon, Intronの境界部を表す.

 

Yはピリミジン(UまたはC) Ynはピリミジンが約9個ならんでいることを示している. Rはプリン(AまたはG)

Aは, 分岐型スプライシング中間体(なげなわ型の中間体)形成に重要な役割をはたす特別なアデニン.

Nは任意の塩基

エクソン境界のスプライシングシグナルは必要だが, エクソンを定義するには不十分. イントロン末端付近の配列(分岐点配列とよぶ)も隣のエクソンを認識するために必要である.
これらの場所に変異がおこると正常なスプライシングが行われなくなる.

3. Exon splicing enhancerとExon splicing silencer

高等真核生物のイントロンの多くは巨大で, この中に分岐点配列を含む, 正常にみえるスプライシングシグナルによって区切られる多くのエクソンのような配列を含むことがあり,
エクソン境界のスプライシングシグナルと分岐点配列の両方があっても必ずしも十分ではない

実際にはこれらの「偽エクソン」はスプライシングされずに成熟mRNAになることはほとんどない.
エクソンと偽エクソンをわける仕組みは本物のエクソンには, スプライシングを促進するエクソンスプライシングエンハンサー(ESE)配列が, 偽エクソンにはスプライシングを阻害するエクソンスプライシングサイレンサー(ESS)配列が高率にふくまれることで説明される.

ESEはエクソン内の3'スプライス部位近傍にみられることが多く, その上流側イントロンのスプライシングを促進する.

ESE近傍の3'スプライス部位は, 弱いスプライス部位になっていることが多く, ESEは弱いスプライス部位がスプライス因子に認識されるのを補助していると考えられている.

またESEのような配列がイントロン内にある場合イントロン内スプライシング促進配列(intronic splicing enhancer: ISE)と呼ばれる.

一方エクソン認識を弱める働きをする配列も存在し, エクソン内スプライシング抑制配列(exonic splicing silencer; ESS)とよばれる. ESS配列が存在するエクソンはその両側のスプライス部位認識が低下し, エクソンとして認識されにくくなる.

ESS様の配列がイントロンにある場合はイントロン内スプライシング抑制配列(intronic splicing silencer; ISS)となる.

ESE, ESS, ISE, ISSの存在およびその数は恒常的スプライシング, 選択的スプライシングとの両方に影響を与えると考えられている。

スプライス部位配列やESE, ESS, ISE, ISSなどのスプライシング調節配列をまとめて検索できるプログラムがWEBで利用できる.*7

 
splicing reaction.jpg

スプライシング反応

1). イントロン内のアデノシン残基の2'ヒドロキシ基(OH)が5'側エクソンとイントロン結合部にあるリン酸ジエステル結合を攻撃し, 5'側エクソンとイントロンとの結合が切断される.

2). 5'スプライス部位で切断がおこると同時に, 切断されたイントロンの5'末端G残基がブランチ部位のアデノシン残基(A)の2'OH(ジヒドロ基)との間で2'-5'リン酸ジエステル結合を形成する。

3). この時, 遊離した5'側エクソンと イントロン-3'側エクソンで構成された投げ縄構造(rariat)をもった反応中間体ができる。

4). 第二段階では, 5'側エクソンの遊離3'ヒドロキシ基がイントロンと3'側エクソンの間のリン酸ジエステル結合を攻撃する.これにより投げ縄構造をとったイントロンが切り出され, 同時に5'側, 3'側のエクソンが再結合される.
3'側エクソンの5'末端リン酸(p)はスプライシングされた2つのエクソン間をつなぐリン酸となる.

スプライシングは核内において, スプライソソームとよばれる複合体の中で進行する.--->スプライソソームのページをみる。

 

スプライソソーム

mRNA前駆体が含まれる他, それ以外にも多くのRNAやタンパク質が含まれている. これらのRNAとタンパク質のいくつかは核内低分子リボ核酸タンパク質(small nuclear ribonucleoprotein: snRNP [スナープとよぶ].)を形成している.

snRNPは核内低分子RNA(small nuclear RNA: snRNA)がタンパク質と共有結合したものである. snRNAは電気泳動によりU1, U2, U4, U5, U6に分けられる. これらの5種類のRNAはすべてスプライソソームに含まれ, スプライシングに重要な役割をはたしている.

スプライソソームは, snRNPの他, RNAを含まない50種類以上のタンパク質因子群もその構成に関与している.

snRNAのU4-snRNAとU6-snRNAは塩基対合を形成しており, 単一のsnRNPに含まれている.

snRNPとタンパク質群はsnRNPどうしや, mRNA前駆体とのRNA-RNA結合(snRNAとmRNA前駆体のスプライス部位あるいはブランチ部位との結合), RNA-タンパク質結合, タンパク質間結合など複雑な相互作用により, mRNA前駆体の構造を変化させ, スプライス部位を適切に切断しエクソンの再結合を行っていく.

U1 snRNP
mRNA前駆体5'スプライス部位と塩基対を形成する。この塩基対はスプライシングの必須条件であるが十分条件ではない.
U6 snRNP
U6snRNAを介して塩基対を形成することでイントロンの5'末端と結合する. この結合は投げ縄型中間体が形成される前におきるがスプライシング第一段階(投げ縄型中間体形成)の後にその性質が変化するのかもしれない.
U6とスプライシング基質との結合はスプライシング過程に必須である. U6は, スプライシング進行中に U2とも結合する.
U2 snRNP
U2 snRNPはスプライシング分岐点の保存配列と塩基対を形成する. この塩基対形成はスプライシングに必須である.U2はまた, U6と重要な塩基対を形成し, helix Iという領域をつくり, これらのsnRNPがスプライシングに参加できるようにする
U2の5'末端はU6の3'末端と相互作用し, helix IIという領域を形成する. この過程は哺乳類のスプライシングに重要である.
U5 snRNP
あるエクソンの最後のヌクレオチド, その次のエクソンの最初のヌクレオチドと結合する. これにより2つのエクソンをスプライシング進行に適切な位置に配置すると考えられる.
U4 snRNP
U4はU6と塩基対を形成する. U4の役割は, スプライシング反応にU6が必要になるまで, U6を結合させておくことのようである.

ひとまずまとめ

高等真核生物では, pre-mRNAスプライシングは, あまり厳密には保存されていない配列モチーフをもつsplicing-cis 因子とそれを認識するsplicing-trans 因子により行われる。

分子生物学でのシス, トランスの意味;シス・・・同じ分子内で機能する.トランス・・・異なる分子の間で機能する.

同じDNAかRNA分子上にあって、遺伝子発現に影響を与える 影響は別の分子(他の染色体やプラスミドなど)に波及しない → シス

標的遺伝子の発現に影響を与える、別の遺伝子、RNA、タンパク 影響は別の分子(他の染色体やプラスミドなど)にも波及する → トランス

古典的スプライシングシス因子(classical splicing cis-element)

1. ブランチポイント配列 (branch point sequence; BPS)

2. ポリピリミジントラクト (polypyrimidine tract; PPT)

3. 5'および3'スプライシングサイト(splicing site; ss)

4. エクソン上あるいはイントロン上のスプライシングエンハンサー/サイレンサー(exonic/intronic splicing enhancer/ silencer; ESE, ESS, ISE, ISS)

splicing-anomaly.jpg

スプライシング機構破綻-3種類の病態

文献*9*10

1. mRNA前駆体上のスプライシング調節配列(スプライシングシス因子)の遺伝子変異による破綻

  • RNA結合タンパク質(RNA binding protein: RBP)がシス因子に結合できなくなる.
     
  • あらたなシス因子が作られRBP結合能を獲得する.

2. スプライシングトランス因子の発現異常・機能異常

3. RNA gain-of-function disorders/ RNA dominant disorders
筋強直性ジストロフィーに代表されるように, スプライシングトランス因子が変異RNAと凝集体をつくり, そのトランス因子が本来機能する標的遺伝子のスプライシングがうまくいかなくなる病態.

InS-IWT-NKX2-intronic-mutation02.jpg
 

変異による異所性AG塩基はAGスキャン機構を破綻させる

エクソン 5'末端塩基の遺伝子変異

ESE/ESSを破断する遺伝子変異

''ISE/ ISSを破断する遺伝子変異

5'スプライスサイト(5'SS)の遺伝子変異

離れたエクソンのスキッピング

Duchenne型およびBecker型筋ジストロフィーとジストロフィン遺伝子-exon skippingによるジストロフィンタンパク発現療法  


*1  杉山弘ほか 監訳 Weaver RF著 メッセンジャーRNAのプロセシングI スプライシング pp438-485 ウィーバー分子生物学 第4版 2008 化学同人社 東京
*2  今泉和則 選択的スプライシングの巧妙さとその破綻 神経難病発症に関連する異常スプライシング 蛋白質核酸酵素 2005; 50(4): 330-342
*3  大野 欽司 スプライシングシス因子の破断変異によるスプライシング異常 (第5土曜特集 RNA医学・医療--あらたな診断・治療を拓く) -- (RNA異常による疾患) Aberrant splicing due to splicing cis-element-disrupting mutations 医学のあゆみ 238(5), 485-490
*4  Zhu L, et al. Patterns of exon-intron architecture variation of genes in eukaryotic genomes.BMC Genomics. 2009 Jan 24;10:47. doi: 10.1186/1471-2164-10-47.
*5  Breathnach R, et al. Ovalbumin gene: evidence for a leader sequence in mRNA and DNA sequences at the exon-intron boundaries. Proc Natl Acad Sci U S A. 1978 Oct;75(10):4853-7.
*6  Breathnach R, Chambon P. Organization and expression of eucaryotic split genes coding for proteins.Annu Rev Biochem. 1981;50:349-83.
*7  http://sroogle.tau.ac.il/
*8  Gao K. et al., Human branch point consensus sequence is yUnAy. Nucleic Acids Res. 2008 Apr;36(7):2257-67.
*9  Licatalosi DD, Darnell RB. Splicing regulation in neurologic disease. Neuron. 2006 Oct 5;52(1):93-101.
*10  O'Rourke JR, et al., Mechanisms of RNA-mediated disease. J Biol Chem. 2009 Mar 20;284(12):7419-23.
*11  Smith CW, et al., Scanning from an independently specified branch point defines the 3' splice site of mammalian introns. Nature. 1989 Nov 16;342(6247):243-7.
*12  Ohno K, et al., Spectrum of splicing errors caused by CHRNE mutations affecting introns and intron/exon boundaries. J Med Genet. 2005 Aug;42(8):e53.
*13  Fu Y, et al., AG-dependent 3'-splice sites are predisposed to aberrant splicing due to a mutation at the first nucleotide of an exon. Nucleic Acids Res. 2011 May;39(10):4396-404.
*14  Gorlov IP, et al., Missense mutations in hMLH1 and hMSH2 are associated with exonic splicing enhancers. Am J Hum Genet. 2003 Nov;73(5):1157-61.
*15  Ohno K,et al., A frameshifting mutation in CHRNE unmasks skipping of the preceding exon. Hum Mol Genet. 2003 Dec 1;12(23):3055-66.
*16  Takeshima Y,et al., Mutation spectrum of the dystrophin gene in 442 Duchenne/Becker muscular dystrophy cases from one Japanese referral center.J Hum Genet. 2010 Jun;55(6):379-88.
*17  Matsuo M,et al., Exon skipping during splicing of dystrophin mRNA precursor due to an intraexon deletion in the dystrophin gene of Duchenne muscular dystrophy kobe. J Clin Invest. 1991 Jun;87(6):2127-31.
*18  Takeshima Y. et al., Modulation of in vitro splicing of the upstream intron by modifying an intra-exon sequence which is deleted from the dystrophin gene in dystrophin Kobe.J Clin Invest. 1995 Feb;95(2):515-20.
*19  Pramono ZA,et al.,Induction of exon skipping of the dystrophin transcript in lymphoblastoid cells by transfecting an antisense oligodeoxynucleotide complementary to an exon recognition sequence. Biochem Biophys Res Commun. 1996;226(2):445-9.

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