T-cell receptor gene
リンパ球
免疫と免疫病理
TCR (T細胞レセプター)の構造†
- ジスルフィド結合(S-S)により結ばれたヘテロ二量体(αβまたはγδ)の糖タンパク質(右図の赤い部分)
- 遺伝子再構成によりつくられるαβ鎖あるいはγδ鎖はそれぞれのT細胞に特異的な構造
- αβ鎖あるいはγδ鎖はともに抗体のL鎖によく似ており,N末端にV領域,C末端にC領域を持つ
- αβ鎖は遺伝子再構成により約10の12乗もの多様性を獲得しあらゆる抗原に対応する
- TCRはさらにCD3という分子群(γδεζ)と複合体を形成している
- TCRのγδとCD3のγδは異なる分子である
- CD3複合体のζ (ゼータ/ジータ;英語のZ)タンパク質はジスルフィド結合で結ばれたホモ二量体である
- CD3分子はすべてのT細胞に共通でシグナル伝達に重要な役割をもつ
- CD3とζタンパク質は非共有結合的にTCRのαβヘテロダイマーと会合しており, TCRが抗原を認識するとこれらの会合タンパク質はT細胞活性化を誘導するシグナルを伝達する。
- CD3分子は3種類のタンパク質, CD3ε, CD3γ, CD3δから構成されている。CD3複合体は,またジスルフィド結合したζ(ゼータ)鎖ホモダイマー(ホモ二量体)を含む.
- CD3分子とζ鎖はT細胞特異性に関係なくすべてのT細胞で同一であり抗原認識ではなく、シグナル伝達にはたらくことと一致する。
- これらのタンパク質の会合には膜貫通領域に存在する荷電したアミノ酸残基(図にはない)が関与している。
- ほぼすべてのαβTCRを発現するT細胞はMHC拘束性であり, コレセプターであるCD4あるいはCD8を発現する。
γδ型T細胞†
- γδ型T細胞はαβ型T細胞に比べ多様性の少ないTCRを有している
- 解剖学的分布が限局性で皮膚,腸管上皮,子宮,舌の上皮には豊富に存在する
- 胸腺および二次リンパ組織には少数しか存在しない
TCRによるMHC-ペプチド複合体の認識†
- TCRは直接抗原を認識できず,抗原の分解産物であるペプチドをMHC分子の溝に結合した形で認識する(一方, 抗体は直接抗原の立体構造を認識できる)
- 抗原をペプチド断片に分解することを抗原のプロセシングとよぶ
- MHC上のペプチド片を識別したTCRはT細胞に活性化シグナルを伝達し免疫応答を誘導する
- T細胞は自己MHC分子に結合した非自己ペプチドを認識して活性化され非自己抗原を排除する免疫反応をおこす
- MHCクラスIおよびクラスII抗原はT細胞の反応を制約するので,この過程はMHC拘束性といわれる
MHCクラスI†
- MHCクラスIは主に細胞内で合成されたタンパク質由来のペプチド(内在抗原由来ペプチド)を結合する
- 細胞にウイルスや細胞内寄生細菌が感染すると,それら由来のタンパク質が産生され細胞質中に出現する
- 腫瘍細胞では腫瘍特異的タンパク質や正常細胞では微量なタンパク質が大量に産生されることがある
- これら抗原由来のタンパク質は細胞質内で分解され小胞体内でMHCと結合し細胞表面に発現する
- MHCクラスIに結合するペプチドは9個のアミノ酸により構成されることが多い
- MHCα1,α2ドメインの多型により溝の形状が変化し結合可能なペプチドの構造はMHCごとに異なる
- MHCクラスIに提示されたペプチドはαβ型TCRを有するCD8+T細胞が認識,活性化されて標的細胞を傷害する
- NK細胞,NKT細胞,また一部のCD8+T細胞はKIR(killer Ig-like receptor)によりMHCクラスIを認識する
- KIRには細胞障害活性を抑制するレセプタと活性化するレセプタがある
- 標的細胞がMHCクラスIを欠損するとKIR抑制性レセプタからのシグナルがなくなるのでNK細胞が細胞障害活性を発現しやすくなる
MHCクラスII†
- MHCクラスIIは主に外来抗原に由来するペプチドを提示する
- MHCクラスIIでは細胞膜から遠いα1,β1ドメインがクラスIと同様の溝を構成する
- MHCクラスII分子の溝はクラスIより長い15個前後(10-30)のペプチド片を結合する
- MHCクラスIIの溝は両端が開放されておりペプチド両端のアミノ酸残基は溝からはみだしている
- MHCクラスIIは樹状細胞,マクロファージ,B細胞などの抗原提示細胞(APC)に限定される
- 樹状細胞などAPCは成熟あるいはサイトカインなどの刺激でMHCクラスIIの発現を増強する
- APCは細胞外からエンドゾーム内に抗原を取り込みMHCクラスIと異なる経路で分解する
- エンドゾームでMHCクラスIIの溝に結合しているInvaliant鎖のCLIPと抗原由来のペプチド片がHLA'-DMの作用で酸性条件下で入れ替わりMHC-II/ペプチド複合体としてCD4+ヘルパーT細胞に接触する
- CD4+ヘルパーT細胞は自己MHC/非自己ペプチド複合体を特異的に認識し活性化され種々のサイトカインを分泌する
- CD4+ヘルパーT細胞分泌サイトカインは
- B細胞を増殖,形質細胞への分化誘導をおこない抗体産生を促進する
- T細胞の分化増殖,APCの活性化促進
- TCRはT細胞クローンごとに異なり,T細胞の抗原特異性を決定する
- 抗原ペプチドに相補的構造を有する部分を相補性決定領域(complementary determining region:CDR)とよびTCR分子ではα鎖β鎖の可変(V)領域に3箇所,CDR1,CDR2,CDR3として認められる
- TCRはCDR3領域とCDR1領域の一部でMHC分子の溝から露出しているペプチド分子と接触,認識する
- TCRの比較的多様性に乏しいCDR2領域とCDR1の一部はMHC分子に接触し「自己」のMHCかどうかを調べる
- TCRとMHC/ペプチド複合体の親和性はペプチドのTCR接触部位の構造に大きく依存する
- MHC/ペプチド複合体の親和性はT細胞の活性化,自己非自己の識別に大きく関与している
MHC分子の溝には必ず「自己」のタンパク質ペプチド断片が入りこんでいる†
- ペプチドを結合しないMHC分子は不安定でただちに分解されるために「自己」のタンパク質ペプチド断片を結合した状態で細胞表面に出現する
- TCRはMHC/自己ペプチド断片複合体を「自己」と認識している
- ヒトのからだの60兆個の細胞表面にはすべてMHCと自己成分の結合したものが数万分子づつ出現しており自己の旗印となっている
- たとえ非自己抗原が存在する状態でも樹状細胞における非自己ペプチド/MHC-II複合体は全体の0.01-1%にすぎない
- 細胞内で翻訳されたばかりのタンパク質のうち30%はただちに分解されMHC-Iに結合する
- このような自己ペプチドに高親和性TCRを発現するT細胞は胸腺での負の選択でクローンごと消滅している
- 胸腺から末梢へ供給されたT細胞は自己ペプチド/MHC複合体により正の選択を受けたために大部分自己ペプチド/MHC複合体に対し低親和性を示すTCRを発現する
- 低親和性TCRの存在はT細胞の末梢での存在,自己への不応答性,クローンの多様性維持に重要と考えられる