Wikipathologica-KDP
T細胞†
改訂版 (2017/7/5 改訂中)
T細胞の分化†
胸腺内でのT細胞分化-一次リンパ系器官としての胸腺†
胸腺はT細胞の分化・成熟に不可欠であり, 胎生期肝や骨髄由来のT細胞前駆細胞は胸腺に移動して増殖・分化する。
胸腺内T細胞分化過程では, 自己MHC拘束性を獲得するT細胞の選別(positive selection)と自己抗原に反応するT細胞の選別(negative selection)が重要とされている。この過程で胸腺微小環境が重要といわれ, これには液性(thymulin, thymopoietin, thymosin)および細胞性の微小環境がある。
細胞性微小環境は, 胸腺上皮細胞や樹状細胞などの胸腺内ストローマ細胞であり, これらの細胞が発現する接着分子とT細胞上に発現する接着因子の相互作用がT細胞の成熟に必須といわれている。
T細胞の遊走と分化にはECM(extracellular matrix)や種々の遊走因子の関与が報告されている。--->ケモカイン
MHC拘束性
T細胞は抗原を認識する際, 抗原単独を認識するのではなく, 抗原提示細胞上に発現しているMHC分子と一緒に認識する。-これをMHC拘束性という。
- 多能性造血幹細胞からT細胞へのコミットはNotchを介した信号により規定される
Notch受容体タンパクを介したシグナル伝達は動物の発生で最も広く使われている。この経路は発生の際の細胞運命の選択に使われ, 隣り合っている細胞間の分子的違いを増幅したり統合したりする調節にはたらいている。Notchは神経、造血、血管、体節など, ほとんどの組織の発生に関与する。
Thymocyte 胸腺T細胞†
T細胞は胎児肝, 成人骨髄のプレカーサーから発生, 胸腺に移行する。
胸腺にはさまざまな系統の前駆細胞が移行するがT細胞プレカーサーのみが生存し成熟する。ヒトでは妊娠7-8ヶ月から未熟リンパ球が胸腺で確認される。
胸腺内で発達中のT細胞は胸腺細胞Thymocyteと呼ばれる。
- T細胞の前駆細胞は骨髄の造血幹細胞から分化し胸腺の皮質髄質境界領域から皮質内へとホーミングする
- 皮質に入り込んだ直後の胸腺細胞はCD4もCD8いずれも発現していないためにdouble-negative(DN)細胞とよばれる
- DN細胞はCD44とCD25の発現状態によりDN1-DN4の4段階に分類される
- DN1細胞は胸腺皮質被膜下に発現するIL-7とCSF(stem cell factor, c-kit ligand)とにより増殖し,CD25を発現してDN2細胞になる。
- DN1からDN3まで細胞分裂をともないCD3各鎖,pre-TCRα鎖(pTα)鎖を発現するようになる
- DN3は皮質の最外側である被膜領域に移動してゆく
- CD44の発現を失い, DN3になるとT細胞レセプター(TCR)β鎖およびγ鎖の再構成が誘導される。遺伝子再構成に必須なRAG遺伝子はDN3までには発現している。
- DN1の段階より一部の細胞では細胞内にCD3分子を発現しているが, その機能は不明である。
- TCRαβを細胞表面に発現するのはDP細胞以降で, DN3細胞の段階ではTCRαの再構成は起こっていない。にもかかわらず, TCRβ鎖が細胞表面に低レベルで発現している。このTCRαを伴わないTCRβ複合体はプレTCR複合体といわれる。
- TCRβはプレTCRα鎖(pTα)とダイマーを形成することにより細胞表面にpTα-TCRβとして発現する。
- pTα鎖は、遺伝子再構成を伴わず, variable領域のないconstant領域でのみで形成され, TCRβとダイマーを形成, CD3分子と複合体をつくり細胞表面発現する役割がある。
プレTCRは特別なリガンドの認識・刺激がなくても細胞表面に発現, 複合体を形成することにより分化シグナルを誘導できると考えられている。
- プレTCRの発現はDN3の分化を促進する. CD25発現は低下し, TCRβ遺伝子のもう一方のアリルでの再構成を阻止する機構: 対立遺伝子排除 allelic exclusionを誘導する。同時にDP段階への誘導に必要なCD4/CD8分子発現やTCRα鎖の遺伝子再構成誘導をうながす。
- DP細胞は正常胸腺細胞の85%を占め皮質に存在する.
- DPではTCRα鎖の転写がおこり, pTα-TCRβに取って代わりTCRαβを発現するようになる。しかし末梢T細胞やSP細胞に比べるとTCRの細胞表面レベルは約10分の1くらいである。
- SP細胞へ分化するにしたがいCD4/CD8の一方の発現の消失がおこると共にTCR発現がlowからhighへと変化し成熟胸腺細胞になる。
胸腺内でのT細胞の分化と選択†
以後の分化段階にプレTCR選択とレパトア選択の分化チェックポイントが存在する
[プレTCR選択 ]
- DN3の時期にTCRβ鎖遺伝子の再構成が始まる
- 再構成により生じたTCRβ鎖は単一 pTα,CD3各鎖と会合してpreTCR複合体を形成する.
先にTCRβ鎖が組み替えられる.
- 完全長のTCRβタンパク鎖ができ複合体からのシグナルによりDN4への分化ができる
[レパトア選択(正の選択と負の選択)]--DP細胞での選択
- pTCRのシグナルを受けたT細胞は対立遺伝子排除により1つの細胞に1種類のみのTCRを発現
- 増殖を繰り返し皮質の大部分を占めるDP(double Positive)細胞となる
- DP細胞でTCRα鎖の遺伝子再構成が始まる
- TCRα鎖タンパクが合成されβ鎖と会合して細胞表面に真実のTCR複合体が発現する
- DPの寿命は3-4日程度でTCRの生存シグナルを受け取らないと死んでしまう
- 自己抗原+自己ペプチドとTCRの結合度合い(アフィニティ)により生存・死滅が決定される
- 自己抗原+自己ペプチドへ強いアフィニティをもつ,つまり自己反応性をもち生体にとって有害な細胞は積極的にアポトーシスで死滅する(負のレパトア)
- 自己抗原+自己ペプチドにまったく反応できない細胞も死滅する(Death of neglect)
- 最終的にDPの5%ほどをしめる自己抗原+自己ペプチドへ程よいアフィニティをもつ細胞のみが生き残り成熟T細胞へ分化する(正のレパトア)
- ClassI-MHCに反応する細胞はCD8(+)-SP(single positive)となる
- ClassII-MHCに反応する細胞はCD4(+)-SP(single positive)となる
SP(single positive)-T細胞の成熟と胸腺移出
- 新生SP細胞はTCR刺激を受けても,まだIL-2などサイトカイン産生や増殖応答をおこせない
- 胸腺SP細胞は胸腺移出に関与するケモカイン受容体CCR7を発現,胸腺髄質より血流循環へ移出する
- CCR7はナイーブT細胞(抗原刺激を受けていない血流循環末梢T細胞)のリンパ節ホーミングにも働く
末梢T細胞の移動,分化と維持†
胸腺を出て血流を循環するナイーブT細胞は自己特異抗原に効率よく出会うためにリンパ節や脾臓などの二次リンパ組織へとホーミング(移入)して免疫応答にあずかる
免疫機構はこのホーミングのために2つのナビゲートシステムを持つ
- リンパ節はケモカインを産生してナイーブT細胞を誘導する
- 高内皮性細静脈(HEV:High Endothelial Venule)はナイーブT細胞がリンパ節を素通りしないようにナイーブT細胞の接着分子に対するリガンドを発現してリンパ節内に誘導する
ナイーブT細胞†
- リンパ節高内皮性細静脈(HEV:High Endothelial Venule)でリンパ球のホーミングがおこる
- naiveT細胞はCCR7やinteglin familyのLFA-1(CD11a/CD18)などの接着因子でHEVへ接触・接着してリンパ節組織に進入する
- 脾臓内でT細胞は動脈周囲リンパ鞘(PALS: periarterial lymphatic sheath)と呼ばれる領域に移動する
- ナイーブT細胞はリンパ節内で樹状細胞(DC)と接触を繰り返しDC上のMHC分子ときわめて弱い相互作用をもつ
- この樹状細胞上MHC分子とのきわめて弱い相互作用はナイーブT細胞の維持に必須である
- T細胞自身のTCR認識特異性に合致したMHC+非自己ペプチドとであったT細胞は樹状細胞やマクロファージなど抗原提示細胞と強固に結合し免疫シナプスとよばれる細胞情報伝達の場を形成する
活性化T細胞†
- 抗原刺激により活性化されたT細胞はCD4陽性T細胞はTh1またはTh2細胞へ分化する
- 活性化T細胞(Th0)はIFN-γやIL-18を介したシグナルでTh1細胞へ分化する
- Th0はまた,IL-4を介したシグナル(STAT-6, c-maf, GATA-3などの伝達分子)でTh2細胞へ分化する
- Th1細胞はマクロファージを活性化して細胞内寄生性細菌への殺菌能力を高める
- Th2細胞はリンパ組織でIL-4,IL-5などのB細胞増殖,分化因子を産生して感作B細胞を形質細胞まで分化増殖させる
- CD4+T細胞はTGF-βとIL-6の存在下で制御性T細胞(regulatory T細胞;Ttreg)とIL-17産生ヘルパーT細胞(Th17)のサブセットに分化する。IL-6の有無で分化が決定される。---> Regulatory T-cell and Th17
- 抗原刺激により活性化されたCD8陽性T細胞は主にキラーT細胞へ分化する
- これらの分化T細胞はマクロファージ活性化,抗体産生,細胞障害などの免疫応答をひきおこす
感作T細胞の感染局所への移動†
- 局所リンパ節で感作されたT細胞は感染局所へ移動するために必要な表面分子を発現する
- リンパ節へホーミングするL‐セレクチン分子発現が低下する
- またT細胞表面のインテグリン分子VLA-4発現が増強し, 感染局所で産生されたサイトカインの作用で内皮細胞に誘導されたVCAM-1に結合する
- T細胞表面LFA-1は内皮細胞のICAM-1に結合する---> LFA-1
- CD44の発現も移動に関与--->CD44のページ
- 表面CD45RAはCD45ROへ変化する--->CD45のページ
- 感作リンパ球は輸出リンパ管から全身循環系-->炎症局所の毛細血管より遊出しエフェクタT細胞になる
- エフェクターT細胞は, 炎症局所で抗原に再度出会い活性化されて種々のサイトカインを産生(間接的)または細胞障害性(直接的 に抗原(微生物)の排除に働く
メモリ-T細胞†
- 分化・機能性T細胞の多くは機能発現後Fas(CD95),Fasリガンドの両者を自己発現しアポトーシスで自殺する
- 残りの活性化されたナイーブT細胞は細胞障害性T細胞と記憶T細胞とに成熟する
- 細胞障害性T細胞はCCR7を捨て新たに接着分子のインテグリン(VLA-4)を発現し感染細胞を求めて末梢組織に移行する
- 記憶T細胞はL-セレクチンやCCR7を発現したままリンパ節にとどまり,抗原と出会うのを待つもの(セントラル記憶T細胞とよぶ)と細胞障害性T細胞と共に積極的にリンパ節を出て抗原の侵入しやすい部位に移動するもの(エフェクター記憶T細胞とよぶ)が存在する
- エフェクター記憶T細胞はCCR7を捨て皮膚や粘膜,末梢組織に移行し抗原に出会うとすぐに細胞障害性T細胞に分化して感染細胞を破壊する
皮膚や粘膜にはリンパ節と同様のナビゲータシステムがありエフェクター記憶T細胞を誘導する
- 消化管粘膜にはgut-associated lymphoid tissue(GALT)と呼ばれる粘膜免疫装置があり, リンパ節に相当するパイエル板など特殊な器官を備えている
- 粘膜に誘導されるエフェクター記憶T細胞は接着分子α4β7インテグリンとケモカインレセプタCCR5を発現する
- 粘膜細胞のICAMとケモカインMIP-1α, MIP-1βまたはRANTES(regulated upon activation, normal T-cell expressed and secreted)がエフェクターT細胞を誘導する
- 皮膚に誘導されるエフェクター記憶T細胞は接着分子のCLA(cutaneous lymphocyte-associated antigen)とα4β1インテグリンおよびケモカインレセプタのCCR4を発現している
- 皮膚の上皮細胞にはICAMとケモカインMPC, TRACが発現しエフェクター記憶T細胞を誘導する
- メモリーT細胞は活性化の過程ですでに増殖している(特定の抗原認識特異性を示すT細胞が10万分の1以下といわれる頻度にくらべ数百倍ほど増殖している)
- メモリ-T細胞はナイーブT細胞よりCD11a/CD18やCD58などの接着分子を高レベルで発現し抗原との再接触に迅速で大きな免疫応答をはたらく
肝臓のリンパ球分布†
肝臓のリンパ球分布は他の臓器とは異なりユニークな分布を示す。肝臓に多いリンパ球はNK細胞, NKT細胞, 胸腺外分化T細胞があげられ, これらの細胞群はCD122(IL-2/IL-15レセプターβ鎖)を発現するという特徴をもつ。*1