Wikipathologica-KDP

T細胞とMHC

T細胞レセプター遺伝子

機能的T細胞抗原レセプター遺伝子は体細胞遺伝子組み換え[somatic recombination(rearrangement)]という過程により胸腺中の未熟T細胞において生成される。

生殖細胞由来(germ line)の, 遺伝的に受け継いだひと組のDNA配列が元来分離されている状態から酵素を介して介在するDNAの欠失と再連結をうけて1つの遺伝子に再結合される。さまざまな遺伝子セグメントの結合により多様なリンパ球レパトア(レパートリー)が生成される。

抗原レセプターを生成するためのDNA組み換えは抗原の存在に依存しない。つまり抗原レセプターは抗原に遭遇する前に発現している。

 

成熟途中のリンパ球の生存や増殖, 成熟には抗原レセプターからのシグナル伝達が必要である。

TCR遺伝子の構造

TCRα鎖, TCRβ鎖, TCRγ鎖をコードする遺伝子はおのおの, 14番染色体, 7番染色体(7q34), 7番染色体(7p14)の3つの異なる座にありTCRδ鎖はTCRα遺伝子座中(14q11.2)にふくまれている。

Fig. TCRβ遺伝子の構造*1

 
TCRbetaGene01.jpg
 
TCRalphadeltaGene.jpg
 
TCRgammaGene.jpg
 
 

γδ型TCRも、また遺伝子再構成により形成される。

γδ型TCRをもつT細胞の機能は十分には解明されておらず、そのリガンドの多くも不明である。MHC分子による提示や抗原処理を必要とせず直接抗原を認識するγδTCR-T細胞も見つかっている。γδ型TCRの可変部はαβ型TCRの可変部よりも抗体分子可変部により類似していることが再構成後の可変部を詳細に分析することでわかってきた。

 

TCR β鎖遺伝子組み換えと発現

TCRβ遺伝子組み換えの例

TCRbetaRe_example.jpg
 

Tリンパ球の成熟

コミットされた前駆細胞より成熟Tリンパ球への分化成熟は, TCR遺伝子の体細胞組み換えと発現, 細胞増殖, 抗原刺激による選択, 成熟表現型と機能性の獲得という一連の段階を経て行われる。

胸腺内のT細胞移動と選択-->詳しく見る

 

γδT細胞の分化

γδ型T細胞はαβ型T細胞よりも個体発生早期に分化するのが特徴である.αβ型T細胞と共通のリンパ球前駆細胞(CLP)から分化する.

γδ型T細胞やαβ型T細胞は胸腺外でも分化できるが, 大多数は胸腺内で分化する. 胸腺に移入したproT細胞(DN1:CD4-CD8-CD44+CD25-c-KIT+)はCD25の発現(DN2), さらにCD44の発現低下(DN3)がおこり, この時期にほぼ同時にβ, γ, およびδ鎖遺伝子の再構成がおこる.γ, δ鎖遺伝子の再構成により, γδ型TCRが発現しγδ型T細胞へ分化する.

γδ型T細胞へのコミットメントには種々の因子が関与している.

CPLからproT細胞への分化にはNotch-1シグナルが必須である.

IL-7Rα/cγからのシグナルは転写因子STAT5を活性化し, TCR Vγ germ line transcriptを誘導し, さらにγ-Jγ再構成を誘導して, Vγ-Jγ再編成に働く.

HEBはαβ型T細胞の分化により重要な転写因子で, このinhibitorであるId3によりγδ型T細胞への分化が促進される.

Wntシグナルはβカテニンとともに転写因子T cell factor-1(TCF-1)とlymphoid enhancer factor-1(LEF-1)の発現を誘導しαβ型T細胞への分化を誘導する.

TCF-1に拮抗するSOX13はγδ型T細胞特異的転写因子と考えられている.

 

大部分のαβ型T細胞は, 末梢リンパ組織で外来抗原に遭遇し, サイトカイン産生細胞へ機能分化する. 一方, 大部分のγδ型T細胞は, 胎生期胸腺分化の段階ですでにIFN-γやIL-17産生細胞に機能分化していることが特徴である.

Notch-Hes1経路がIL-17産生γδ型T細胞分化に必要であることが見いだされ, この経路の遮断によりIFN-γ産生γδ型T細胞へさらに分化すると考えられている. *2

マウスでは, 胎生期胸腺内のγδ型T細胞分化には2つの波が存在する. 分化時期の異なる2つのγδ型T細胞は成獣マウスで異なった場所に分布する.

最初の分化の波ではVγ5-Jγ1/Vδ1-Dδ2-Jδ2を発現しており, 表皮へホーミングし, 表皮内樹状細胞(s-IEL)となる.

第二波で分化したγδ型T細胞はVγ6-Jγ1/Vδ1-Dδ2-Jδ2を発現し, 生殖器官の上皮内へホーミングしreproductive IEL(r-IEL)となる.

個体発生後期になるとγδ型T細胞は胎生早期と異なり, N領域の塩基多様性がみられ, 大多数は上皮内ではなく, αβ型T細胞と同様に末梢リンパ組織に認められることになる.

このためγδ型T細胞は各臓器により分布が異なり, 脾臓やリンパ節にはVγ1またはVγ4 γδ型T細胞が多く存在し, 皮膚にはVγ5, 子宮膣にはVγ6γδ型T細胞が多く認められる. また腹腔内, 肝臓, 肺にもVγ6γδ型T細胞が多い.

胎生期胸腺ですでに機能分化している, IL-17産生γδ型T細胞はVγ6またはVγ4γδ型T細胞に多く, 子宮, 腹腔, 肺に多く存在する. 末梢でIL-17を産生する細胞はCD27-CD25+で,その維持にはNotch-Hes1経路が関与している.

一方, IFN-γ産生γδ型T細胞はVγ1を発現している細胞が多い. この細胞はCD27+CD122+NK1.1+(マウスです)でIL-15をその維持因子にしている. *3

 
 

BIOMED PCR-based TCRβ clonality studies in T-cell malignancies*5

multiplex PCRによるTCRのclonality分析

lymphoid neoplasm clonalityの分子学的評価

文献 (2019) *9

Bacterial Superantigen

微生物が生成するスーパー抗原(Bacterial Superantigens)という物質は特定のVβファミリーのメンバーにコードされるあらゆるTCRβV領域に結合する。このためスーパー抗原は多数のT細胞を活性化し重大な疾患を引き起こす可能性がある。


*1
*2 91
*3
*4
*5 93
*6 1
*1  分子細胞免疫学 原著第5版 Elsevier Japan Tokyo Japan
*2  Shibata K, et al. Notch-Hes1 pathway is required for the development of IL-17-producing gammadelta T cells. Blood. 2011 Jul 21;118(3):586-93. doi: 10.1182/blood-2011-02-334995. Epub 2011 May 23. PMID: 21606479
*3  Chien YH, et al. Recognition by gamma/delta T cells. Annu Rev Immunol. 1996;14:511-32. doi: 10.1146/annurev.immunol.14.1.511. PMID: 8717523
*4  van Dongen JJM, et al., Design and standardization of PCR primers and protocols for detection of clonal immunoglobulin and T-cell receptor gene recombinations in suspect lymphoproliferations: report of the BIOMED-2 Concerted Action BMH4-CT98-3936. Leukemia. 2003 Dec;17(12):2257-317.
*5  van Dongen JJM, et al., Design and standardization of PCR primers and protocols for detection of clonal immunoglobulin and T-cell receptor gene recombinations in suspect lymphoproliferations: report of the BIOMED-2 Concerted Action BMH4-CT98-3936. Leukemia. 2003 Dec;17(12):2257-317.
*6  Langerak AW et al, Detection of T cell receptor beta (TCRB) gene rearrangement patterns in T cell malignancies by Southern blot analysis.Leukemia. 1999 Jun;13(6):965-74.PMID:10360387
*7  Szczepanski T, et al., Lymphoma with multi-gene rearrangement on the level of immunoglobulin heavy chain, light chain, and T-cell receptor beta chain. Am J Hematol. 1998 Sep;59(1):99-100.PMID:9723588
*8  van Dongen JJM. et al., Analysis of immunoglobulin and T cell receptor genes. Part II: Possibilities and limitations in the diagnosis and management of lymphoproliferative diseases and related disorders. Clin Chim Acta. 1991 Apr;198(1-2):93-174.PMID:1863986
*9  Wang H-W, et al. Molecular assessment of clonality in lymphoid neoplasms Seminars in Hematology 2019; 56: 37-45

トップ   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS