Tokyo Bone marrow meeting - 第3回東京骨髄病理研究会
MDSに認められる染色体異常へ移動
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第2回東京骨髄病理研究会 2012年8月25日@ お茶の水†
プログラム
1.MDSの形態的特徴 聖路加国際病院 臨床検査科 野沢和江
2.MDS up-to-date 名古屋第一赤十字病院 病院病理部 伊藤雅文
3.症例検討 5症例。
1) ITPとMDSの鑑別が問題になった1例 井野元知恵ほか 東海大学医学部病理診断科, 血液内科学
2) 治療経過中に骨髄線維症を合併した骨髄異形成症候群の症例 片桐成一朗ほか 東京医科大学血液内科
3) 環状鉄芽球がみられた1例 高柳奈津子ほか 埼玉医科大学国際医療センター病理診断科、埼玉医科大学病理学
4) MGUSとMDSの合併が疑われた1例 岩科雅範 独立行政法人国立病院機構西群馬病院 臨床検査科病理
5) 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫に対する2回の自家感細胞移植後に発症した環状鉄芽球をともなう不応性貧血の1例 塩沢英輔ほか 昭和大学医学部 病理学講座 臨床病理診断学部門, etc.
MDS up-to-date†
伊藤雅文先生の講演から
MDS分類の変遷--WHO分類第4版(2008)での改定ポイント†
- dysplasiaのクライテリアに10%ルールが導入され定量的な評価をするようになった。
血球形態異常は赤芽球系, 顆粒球系, 巨核球系いずれも同一系統の10%以上の細胞に異常を認める場合を有意とする。
- Refractory cytopenia: RCは, 貧血, 好中球減少, 血小板減少を呈する単系統異形成を伴う血球減少群が独立。
従来は貧血だけだったものが好中球減少あるいは血小板減少も単独でもあるようになりRN, RTのカテゴリーができた。ただし診断するのは勇気が必要でquestionableな診断である。ITPに関連するMDSの症例などがRTとの関連が問題となる。
- RCMD-RSとRCMDは予後の違いがみられず, RCMDに統合された。: 環状鉄芽球(ringed sideroblasts)は一つのMDSの形態学的マーカにはなるがそれが特別な疾患群を形成するわけではないと変わってきた。
RCMD-RSにはSF3B遺伝子の変異が特徴的に認められることが確認された。このため生物学的に独立した1つの疾患単位として考えるべきと、また変わってきた(2013, Oct)
- 線維化を伴うMDS with fibrosis(RAEB-F)はRAEBの亜形に: MDS with fibrosis(MDS-F)をRAEBの亜型として独立させた。しかしMDS-Fの全例がRAEBのクライテリアを満たすわけではない。経験的にblastの数がすくなくても予後的にみてMDS-FはRAEBと同じ扱いにするほうがよい。RAEBのクライテリアを満たさなくてもMDS-Fとするということ。
- 小児MDSが新たに独立した群としてとりあげられた。
refractory cytopenia of childhood(RCC)は ドイツのBauman, Niemeyerらが(強引に)とりいれたprovisional entity. ヨーロッパは小児MDS=すべてRCCとしているがそれはおかしい。定義にしたがって, 小児にも成人のRCMDに相当するものがありきちんと分類すべき。次回の分類から小児のRCCはRCとRCMDにわけられると思われる(伊藤)
MDSとmonosomy 7†
monosomy 7のMDSの特徴
- hypoplastic MDSの場合, 「monosomy 7かどうか」が非常に重要なfactorとなる。
- monosomy7のMDSと診断されたら確実に進行して5年以内に亡くなることがほとんど。年齢によっては移植のプログラムを組まなくてはならない。
- 組織病理像の特徴として, 赤芽球にHbFが出てくる。p53陽性細胞が少ない。hypoplastic MDSと思ってp53を染め,染まる細胞が少ない時はmonosomy 7を考える。
- 大切な特徴は, micro-MgKが多いこと。small sizedからmicroのMgkが増える。HEでの診断は無理。CD42bやGPⅡb/Ⅲを免疫染色することが必要。
- MDSにおいて, monosomy 7の頻度は非常に多い。積極的に診断することが大切である。
- t(1;7)の不均衡転座はmonosomy 7と組織像, 予後にかわりない。
aplastic anemiaとの鑑別
- hypoplastic MDSでは, 分化型顆粒球が出てくる。aplastic anemiaでは分化型の顆粒球は消えてみられない。
まとめ=7番染色体異常の造血器疾患病理像の特徴
- 低形成骨髄病変(HypoMDS)の頻度が高い
- 異形成は全体に弱く, 見過ごされる可能性がある。
- 赤芽球のHbF発現は, 通常のMDSに比べ少ないが、見られる。
- Micromegakaryocyteの出現頻度が高い
- Monosomy7では芽球転化の頻度が高い
- -7とder(1;7)の病理像の違いはない。
参考データ: MDSの細胞遺伝学的異常†
近年MDSはヒトの前癌状態として注目され, N-ras, fmsなどの癌遺伝子活性化とp53, interferon regulatory factor(IRF)-1などの癌抑制遺伝子不活化の両面から検討されており, apoptosis関連遺伝子異常も推測されるが依然として症例に広く共通するような異常は見つかっていない。
5q-症候群の場合は染色体分析が病型診断に直結するがそれを除けばMDSにおける染色体分析の意義はクローン性造血の証明と予後予測や治療方針決定の重大な指標になること。(染色体異常や女性症例におけるX染色体不活化パターン解析からクローン性造血が証明され再生不良性貧血との鑑別の一助になる場合がある。)
- 17p異常は偽Pelger-Huet好中球やp53変異と関連し予後不良
- 7番染色体の異常も予後不良とされるが責任遺伝子は不明。
右図: MDSで指摘されている主な染色体異常*1
MDSの染色体異常<--クリックするとまとめページへ移動します
MDSでは約50%に染色体異常が認められるが転座は少なく, -5, 5q-, -7, 7q-, +8, 20q-, -Y, などの欠失・付加、不均衡型転座が多い。*2
高密度SNPアレイなど近年の高解像度ゲノム数解析手法によりMDSの75%程度にコピー数異常や後天性片親性ダイソミー(Uniparental disomy: UPD)などの染色体レベルでの異常が検出されるようになった。*3
染色体異常と予後の関連は詳細に検討されておりMDS, 予後判定に用いられているが, 5q-症候群以外の染色体異常ではMDS病型を規定するような責任遺伝子は同定されていない。また近接領域に病態を説明できる遺伝子異常の集中も見つかっていない。最近-7/ 7q-, 20q-に局在するMDSに関連する遺伝子異常が同定され解明が進められている。
○リンク-->MDS染色体異常と予後
MDSに認められる遺伝子変異†
MDSに認められる遺伝子変異の種類, pathway, 頻度, 変異のタイミング, 臨床タイプとの関連, 予後予測の有用性についてまとめ*4
MDSでは, 造血幹細胞が遺伝学的に不安定状態(genetic instability)にあり, 遺伝子変異を生じる頻度が高い。MDS発症には複数のがん関連遺伝子異常の重複が必要と推察され、その機序として点突然変異や微小欠失, 挿入, メチル化異常などがあり, これまでにがん抑制遺伝子, 細胞周期やシグナル伝達に関与するさまざまな遺伝子の異常が報告されている。2009年以降, TET2, IDH1/2, ASXL1,c-CBLおよびEZH2など新たな骨髄性腫瘍の原因遺伝子が同定されている。
1. 転写因子複合体異常---RUNX1, CEBPA, EVI1, PU.1, MLL, NUP98
2. チロシンキナーゼ受容体(RTK)異常--FLT3, C-KIT, PDGFR, MPL, CSR1R
3. シグナル伝達経路異常---RAS, RAF, NF1, PTPN11, JAK2, CBL
4. チェックポイント異常・細胞周期制御因子異常---p53, p15_INK4B
5. エピジェネティック制御因子異常---TET2, IDH1/2, ASXL1, EZH2, DNMT3A
6. リボゾームサブユニット構成要素タンパクの異常--RPS14
7. miRNAの異常--miR-145, miRNA-146aの機能低下
8. pre-mRNAスプライシング機構に関与する遺伝子の異常--SRSF2, SF3B1, U2AF35, ZRSR2など
9. Cohesin構成遺伝子
スプライス機構に関与する遺伝子変異(Spriceosome mutations)
Link-->MDSの遺伝子異常-pre-mRNAスプライシング機構に関わる遺伝子群の異常ページへ
- pre-mRNA スプライシングはspriceosomeにより触媒されている。spliceosomeは5個のsmall nuclear RNAsとタンパク質よりなる高分子化合物でsmall nuclear ribonucleoproteins(snRNP)と呼ばれる粒子を構成する。*5
- 50%以上のMDSにおいて, spliceosome geneの体細胞変異が認められる。これらの遺伝子はスプライス部位の3'側認識およびU2 snRNP機能のタンパク質をコードする。*6
- spliceosome geneの変異は小児骨髄系腫瘍にはまれであり, 老年になり獲得される典型的な変異と推察される。
- 変異のhotspotsは3個の最も変異頻度の高い遺伝子, SF3B1, SRSF2, U2AF1上に認められ, ほぼすべてがミスセンス変異で, ナンセンス変異やフレームシフト変化は報告されていない。*7*8
- 上記の遺伝子変異と関連する異なるスプライスの誤謬パターンが報告されている。*9*10
- 3'スプライシング部位, U2 snRNP機能に影響する遺伝子変異はタンパクの新たなisoformを形成し変異した造血幹細胞のクローン優位性を導く。その結果はまったく予測不能で, 突然変異はクローナル増殖を進めるよりはむしろ、あり余る非特異性細胞異常につながることになってしまう。
- SF3B1 変異はほぼ例外なくthrombocytosisのない, またはthrombocytosisを伴うrefractory anemia with singed sideroblasts (各々, RARS, RARS-T)に認められる。これはringed sideroblastsの形成と変異の関連を強く示唆している。加えて, SF3B1変異例はAMLへの進展が少なく予後良好な症例がほとんどである*11*12
- SRSF2 変異は主に multilineage dysplasia and/or excess blastsに認められる。SF3B1変異とは異なり, AMLへの進行の可能性が高く予後が不良であると予測できる。
- SRSF2変異はMPNから進展したAML症例の1/5に, 特にCMML症例の40-50%に報告され, しばしばTET2遺伝子変異が合併している。
- U2AF1の体細胞変異は種々のMDS症例に発現が認められる。AMLへの進行が高率で、予後は不良である。
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