正式表記は: ATP: protein-tyrosine O-phosphotransferaseでATPのγ位のリン酸基をタンパク質のチロシン残基(水酸基)にのみ転移する反応(=リン酸化)を触媒する酵素。
チロシンキナーゼ活性はラウス肉腫ウイルスのがん遺伝子v-srcタンパク質産物に初めて発見されて以来, インスリンやEGFなどの増殖因子受容体の細胞内ドメインにも発見されたことから細胞のがん化や増殖制御において重要な役割をになうものとして注目されてきた。
タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を介するシグナル伝達は細胞の運命、動態、機能制御に決定的な役割を担っておりきわめて広範囲なシグナル系に関与している。しかし, その働きは他のPTKの活性調節や, SH2, PTBドメインなど、およびその標的配列を介したタンパク質間のリン酸化チロシン依存的会合の制御に特化している*1。
チロシンリン酸化により種々のアダプター分子やシグナル分子を特定の場所に集積, その結果活性化されるシグナル伝達経路を介して細胞増殖、分化、生存、死など細胞の運命を決定している。
受容体型チロシンキナーゼ(RTK)の主要なシグナル伝達経路は(1) MAPK経路と (2)PI3キナーゼ(PI3K)経路である。
代表的な受容体型チロシンキナーゼ
Srcファミリーチロシンキナーゼ(非受容体型チロシンキナーゼ)
非受容体型チロシンキナーゼは, 細胞内に活性ドメインをもたない受容体と共役し, 受容体シグナルをチロシンリン酸化反応に転換する
SrcはT細胞受容体(TCR)や細胞接着分子インテグリンのシグナル伝達に働きその機能がよく理解されている。
TCRシグナル: 抗原提示によりTCRが刺激されると、まずSrcファミリーのLckが活性化される。LckはTCRのζ鎖をリン酸化する。リン酸化ζ鎖に細胞質のZAP-70とよばれる非受容体型チロシンキナーゼが結合, 活性化する。 次いでZAP-70は膜アダプタータンパク質LATをリン酸化する。リン酸化LATはCa2+動員の2次メッセンジャーであるイノシトール-3-リン酸(IP3)を産生するPLC-γや、Grb2や, PI3KをリクルートすることによりT細胞活性化に必要な下流シグナル伝達経路を活性化することになる。
インテグリンシグナル: インテグリンの下流ではSrcやFAKなどの非受容体型チロシンキナーゼが活性化し, FAK自身やCasと呼ばれるSrc基質タンパク質にGrb2やCrkといったアダプター分子がリクルートされ、その後下流のMAPキナーゼ経路やRhoファミリーGタンパク質の活性化を介して, 細胞接着による細胞増殖細胞運動が制御される。