Wikipathologica-KDP

the Wnt homepage-Stanford Uni.

WntタンパクとWnt/βカテニン経路*1

 

Wnt(ウィント)タンパク分子量約4万の分泌型のシグナル分子(分泌性糖タンパク質)で局所的仲介物質として働く。19種類のWntがサブファミリーを形成する。

Wnt/βカテニンシグナル伝達経路は線虫, ショウジョウバエから哺乳動物まで種をこえて保存されており, 初期発生, 形態形成, 出生後の細胞増殖, 分化を制御している。

Wntシグナル伝達のない場合

 
Wnt01.jpg

Wntシグナルがある場合

Drosophila_Wnt.jpg
 
 
 

Wild typeの翅毛は整然と配列している。Wnt経路の各遺伝子変異欠失により毛の性状に異常がおこる。その異常を遺伝子の名前に使っているんですね。アルマジロやセンザンコウはショウジョウバエ胚表皮クチクラ層の異常な形態がそれぞれの動物のウロコのような皮膚に似ているところから。

 
 
Wnt-factor.jpg

ショウジョウバエとほ乳類のWnt因子対照表 (クリックで大きな表が見られます)

armadilloは哺乳類 β-cateninのホモログ, pangolinは転写因子LEF-1と相同性がありその遺伝子はβ-cateninと相互作用するタンパクをコードする。この相互作用はWntシグナルを核へと伝達するのに不可欠である。

Groucho-TCF01.jpg

TCF-1とLEF-1

両者は深く関わりあい, もともとはリンパ球の発生に関わる核内タンパク質またはT細胞受容体複合体の構成因子として発見された*2*3

Wntシグナルが機能していないときはTCF-1とLEF-1Groucho(ヒストンデアセチラーゼを引き寄せる核内タンパク質)と複合体を形成してヒストンの脱アセチル化をきたし, ヌクレオソームのDNAは高密度に凝縮されRNAポリメラーゼが接近できない状態にしてDNAの転写を抑制している。(図下)

β-cateninがTCF-1, LEF-1に結合すると, Grouchoは抑制標的との相互作用を邪魔され, DNAは再びアセチル化する。β-cateninと会合したTCF-1(またはLCF-1)は細胞増殖, 分化, または細胞死を引き起こす遺伝子の転写を、細胞の種類と細胞がおかれた状況により, 開始する。

このような発見からβ-cateninは細胞膜近傍か核のどちらかに局在し, 特に核にあるときは一連の遺伝子発現に影響を与えると考えられている。

癌とWnt/βカテニン経路遺伝子異常

ヒトのいろいろな癌ではWnt/βカテニン経路の遺伝子, βカテニン, APC, Axinの遺伝子異常が高頻度に認められる。これらの癌細胞ではβカテニンが細胞質や核に異常な蓄積をしている。

CTNNB1_protein.jpg

CTNNB1遺伝子(=βcatenin gene)は3p22-p21.3に局在する。

βカテニン タンパク質は781アミノ酸, 92kDa. N末端からC末端に向け, serine-threonine glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)によるりん酸化部位, α-catenin結合部位, 12のアルマジロリピート(ARM), transactivating domainを含む。分子内複数の部位が種々のリン酸化酵素や脱リン酸化酵素によりリン酸化・脱リン酸化の修飾を受ける。広範な組織に発現し, 細胞質と核に局在する。

カドヘリンとの結合は前半10個のアルマジロリピート(ARM)が関与する。α-cateninとはARMのN末端側境界からN末端までと結合する。

肺線癌(磐田市立病院症例) β-catenin免疫染色

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*1 菊池章編 生体システムとしてのWntシグナル・ネットワーク研究 医学のあゆみ 第一土曜特集 2010; 233(10
*2 van de Wetering M et al. The beta-catenin/TCF-4 complex imposes a crypt progenitor phenotype on colorectal cancer cells. Cell. 2002 Oct 18;111(2):241-50.PMID:12408868
*3 Travis A, et al. LEF-1, a gene encoding a lymphoid-specific protein with an HMG domain, regulates T-cell receptor alpha enhancer function [corrected]. Genes Dev. 1991 May;5(5):880-94.PMID:1827423
*4 Satoh et al., Nature Genet 24: 245, 2000

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