p53はDNA腫瘍ウイルスSV40のがん遺伝子largeT抗原と相互作用する核タンパク質として発見された。
p53は「ゲノムの守護神」と呼ばれ, がん発生に関する発がん遺伝子発現異常亢進, 損傷DNA, テロメア短縮, 活性酸素などのチェックをおこなうだけでなく、腫瘍の血管新生, 浸潤転移を抑制する遺伝子を誘導し, 発がんをすべからく検閲する役割を果たしている。ヒト腫瘍の約50%でp53自身の変異が, 約90%でp53シグナル経路の異常が検出される。高発がん家系 Li-Farumeni症候群は 変異p53の優性遺伝による。p53ファミリー遺伝子 p73, p63は発生分化において重要な機能をになうと同時にがん抑制にも重要な役をはたしている。
ゲノムに損傷を受けた細胞の細胞周期をG1期に止めて修復させる働きがある。修復できない細胞はアポトーシスやセネセンス(老化)を誘導して除去する。以上のような機能によりがん化する可能性のある細胞を除き, がん抑制遺伝子として機能している。
p53遺伝子産物には転写活性化、転写抑制などさまざまな活性をもつことが報告されているが, がん抑制遺伝子としての機能には転写活性化能が重要である。またp53が直接Baxを活性化しアポトーシスをおこすことが知られている。
p53 geneは17p13.1に20kbの範囲にわたり存在する11個のexonで構成され2.2-2.5kbのmRNAを作る。
p53遺伝子産物(TP53)は転写因子でN末端側は酸性アミノ酸のプロリンに富む転写制御ドメイン, 中央は特異的塩基配列結合ドメイン, C末端には四量体形成ドメインからなる。
腫瘍にみられるDNA結合ドメインに変異のあるp53はDNA結合活性がなく, 転写因子としての活性を喪失している。
p53制御の中心的役割をはたす要のタンパク質 MDM2
MDM2(mouse double minute2)はp53制御のためだけに存在する要のようなタンパク質である。
MDM2欠損および低発現マウスの表現形(胎生致死や血球分化異常, 低体重など)はp53欠損でレスキューされる。
MDM2によるp53活性制御
1) p53の転写活性化領域に結合し, p53の転写活性化を阻害する。
2) p53のE3ユビキチンリガーゼとして機能しp53のプロテアソーム分解を促進する。
3) 自身の核外輸送シグナル配列に依存し, p53と結合し核外輸送を促進する。
MDM2制御シグナル経路
多数のシグナルがMDM2活性を制御することでp53活性を制御していることが知られている。
ARF(alternative reading frame, p19ARF)
- ARFはMDM2と複合体を形成しMDM2のE3リガーゼ活性を阻害し, 核外保持することでMDM2を阻害、p53活性化を促進する。
- ARF変異もヒト腫瘍で報告され, 癌抑制遺伝子であることが示されている。
- 活性化RAS, MYC, E2F, Wnt-βカテニンなどの異常な癌原性シグナルはARF転写を誘導し, p53の活性化により、これら癌原性シグナルのブレーキとして機能する。
AKT
- 細胞周期進行にはサイクリン依存性キナーゼによるRBのリン酸化による不活化が必要である。
- PI3キナーゼ-癌遺伝子AKT経路を介した成長因子受容体からのシグナルはCDKN1Aやp27kiplなどのCKIの核内移行を阻止しRBがリン酸化され細胞周期が進行する。 以上の正常増殖シグナル時にAKTはMDM2のSer166とSer186をリン酸化し核内輸送を促進してp53を阻害して細胞周期を進行させている。
AKTの恒常的活性化はMDM2の核内輸送を強化, MDM2-p53-p300の結合を促進してp53を分解, 低レベルに維持する。
癌抑制遺伝子産物PTEN(phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome ten)
- PTENはPI3キナーゼの活性化因子PIP3を脱リン酸化して阻害する。PI3キナーゼはAKTの上流活性化キナーゼなのでPTENはAKTを阻害することになり, MDM2のp53抑制を解除する。 PTENはp53の転写標的でもあることからautoregulatory feed back loopが形成されている。一方強度のDNA損傷を感知したp53は強力に活性化しカスパーゼによるAKT分解を強く促進し細胞にアポトーシスを誘導する。
チロシンキナーゼ癌遺伝子c-Abl産物
- 核内と細胞質を往復する変わった特徴をゆうするキナーゼ。
- 細胞質に限局するときは, RAS/ERK経路, PI3キナーゼ-AKT経路, STAT5経路を介して増殖性, 癌原性, 生存性シグナルを伝達する。
- 核内ではアポトーシス誘導性シグナル経路で機能している。このとき複数のMDM2チロシン残基をリン酸化する。特にTyr394のリン酸化はMDM2によるp53抑制を解除する。このためC-Abl欠損細胞ではDNA損傷刺激によるp53の蓄積効率が低下する。
DNA損傷などによるp53の活性化
ATM(ataxia telangiectasia mutated)
- ATMは直接ではないがc-Abl依存性MDM2リン酸化, p53活性化を誘導する。
- ATMキナーゼははDNA損傷刺激によってMDM2のSer375をリン酸化しp53の分解と核外輸送を阻害してp53を活性化する
- その他にもcyclinA-CDK1/2, CK2, c-Abl, ATM自身のリン酸化が報告されている。
UV照射、低酸素(hypoxia)
- この2つはMDM2mRNA, タンパク質自体の減少をおこす。
- hypoxiaで誘導される転写因子HIF1αもMDM2と結合しp53の核外輸送を阻害することでp53機能を促進させる
タンパク質合成系過剰によるリボソームタンパク質 L11もMDM2を核小体に保持しp53分解を阻害する
p53転写標的遺伝子産物のサイクリンGはPP2Aホスファターゼの制御因子でMDM2を脱リン酸化し活性化してp53を阻害, p53ネガティブフィードバック系を構成している。
MDM2は要のようなタンパク質で大変複雑な制御をうけている。p53自体の修飾よりMDM2の修飾のほうがp53制御に重要と考えたほうが自然ではないかしらん*5
MDM2は正常細胞に対し強力な細胞増殖抑制活性を有し、その2.5倍の発現で細胞をG1期に停止する活性をもっている。癌細胞は, この抑制活性に非感受性になっているため, MDM2の過剰発現が可能になっている*6. この現象はp53, MDM2の機能的相互作用が非常に強力なため解析困難であり今後の研究課題となっている。
p53遺伝子3'URT(untranslated region)のSNPsはDLBCLのR-CHOP治療予後に関連する。*7
p53のmRNAは4つの部位より構成される
- 1.5'URT(untranslated region): 転写のプロモートをおこなう他, mRNAの安定化に働く。
- 2.coding sequence(CDS):アミノ酸をコードする部位。
- 3.3'URT(untranslated region): 制御シークエンスを含み, miRNAが結合する部分。
- 4.poly-A tail: 核への輸送、転写, mRNAの安定化に必要。
がんと関連するTP53変異は3種類に分類される。
- 1. 後天性, 腫瘍関連 CDS変異
- 2. 生殖細胞での変異. Li-Fraumeni症候群で認められる。
- 3. 生殖細胞での多型(germline polymorphism): rs78378222のSNPは基底細胞癌と関連がいわれているがほとんどのSNPは関連がないようである。