lymphomaniaの会2011講演より。
AITL(angioimmunoblastic T-cell lymphoma) 日本の全リンパ腫の2.35%. consultation case内の割合はもっと高くなる印象。
Angioimmunoblastic T-cell lymphoma(AITL):WHOの定義. blue book
「末梢T細胞(成熟T細胞)リンパ腫のうち, 全身性疾患の病態を示し, high endothelial venulesとfollicular dendritic cellが著しく増生したリンパ節を多種の浸潤細胞(polymorphic infiltrates)が侵すことを特徴とする(WHO2008).」
以前は異型反応性像(炎症)として, リンパ腫へ進行する疾患と考えられ, 種々の名称で呼ばれたが研究の進歩により現在はde novoに発生する末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)であるといわれている。
うーん, 上記の定義だけでは実際のリンパ節を目の前にしての診断はむずかしいなあ。
lymphomaniaの会2011 竹内賢吾先生講演より
細胞ではリンパ球, 組織球, 好酸球(好中球), 形質細胞, 大型細胞が出現する。 リンパ節背景には線維, 血管, 濾胞樹状細胞が増生している。
これらが混在して、細胞密度は低い, 細胞がながれるように配列している。
リンパ節の所見は, 多彩で, 染色は赤い傾向, 細胞は意外に少ない。
細胞が多くなればPTCL-NOSと、細胞が少ないとHodgkin lymphoma, 反応性病変との鑑別となる。
A. 絶対ほしい所見
● CD21による濾胞外FDC増生像(染まりが悪ければCD23, D2-40で染める: リンパ管内皮マーカのD2-40はFDCにも染まる)
● EBV陽性細胞の存在(まずはLMP1で可, EBER-ISHならなおよし). まったくいないとAILTの診断を考え直す。-->陰性の例もときに認められる.(管理人)
B. かなりほしい所見
● 腫瘍細胞は認識するのが困難。clear cellがあれば腫瘍細胞。
● 濾胞Tヘルパー細胞マーカ(CD10, BCL6, PD-1, CXCL13, ICOS など)が陽性--WHOでは, Tfh cell markerのうち2つ以上が陽性になることをTfhの証拠にしている.
C. なくてもいいけどあったらうれしい所見
● clear cell
● burnt out germinal center
● apoptotic bodies
● marginal sinusが拡張する-->dilated marginal sinus
AITL診断のヒント
- 頻度はまれ。日本の全リンパ腫の約2% そんなに出会わない。
- 年齢:中-高年齢者. 若年者では考えなおす。Lennert先生は30歳以下の人にAITLの診断をつけてはいけないと言われていた(故小島勝先生談)
- ほとんどが進行期でみつかる. stageⅠといわれるとAITLの診断は、「ほんとに?」となる。
- Bulky massはほとんどない。たとえば縦隔の10cmを超すような腫瘤ではAITLの診断は?はてなとなる。
- 発熱, 体重減少, 盗汗などのB症状をはじめ, 皮疹, 浮腫, 胸腹水, 関節炎, 肝腫大など多彩な症状を呈する. 検査値では高γグロブリン血症や貧血を認める。
- 必ずHTLV1が陰性であることを確かめる. HTLV1の腫瘍はあらゆるリンパ腫の組織像ににることがある
文献*1
腫瘍細胞浸潤のない骨髄にも
Follicular helper T cell(Tfh)のphenotypeを腫瘍細胞が示す。
Tfh cellは胚中心にいて, B-cellやFDCと頻回に相互作用する機会がある。AITL組織においてB-cell, FDCは多数出現している。AITL治療にrituximabが使用され効果ありの報告が出ている。(効果の最終確認はまだ)*2
RHOAはRASファミリーに属する小さなGTPase タンパク質をコードする。--->small GTPase (G-proteins) 低分子量Gタンパク質のページをみる。
#ref(): File not found: "RHOA01.jpg" at page "Angioimmunoblastic T-cell lymphoma (AITL)"
RHOAは低分子量Gタンパク質に属するタンパク質をコードし、RHOAに結合するGDPがGTPに変換されると下流のエフェクタータンパク質が活性化される.RHOAそれ自体のGTPase活性によりGTPはGDPに変換され不活化型にもどることで,RHOAは分子スイッチとして機能している.
1. Sakata-Yanagimoto,M et al, Somatic RHOA mutation in angioimmunoblastic T cell lymphoma. Nature Genetics, 46, 171-175 (2014)
- 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫の71%,分類不能型の末梢性T細胞リンパ腫(PTCL-NOS)の17%において,RHOA遺伝子に変異が認められた.
- RHOA遺伝子変異が検出された68例のうち66例で,17番目のGlyがValに置換する(Gly17Val)というまったく同じ変異が認められた.また,上記以外のT細胞性リンパ腫,B細胞性リンパ腫,骨髄系腫瘍ではRHOA遺伝子変異は検出されず,RHOA遺伝子の変異は血管免疫芽球性T細胞リンパ腫および分類不能型の末梢性T細胞リンパ腫に特異的であることがわかった.
- TET2遺伝子,IDH2遺伝子,DNMT3A遺伝子の塩基配列をあわせて決定した結果,TET2遺伝子の変異,RHOA遺伝子の変異,IDH2遺伝子の変異のあいだには階層的な重複が認められた。また,''RHOA遺伝子の変異はリンパ腫細胞に特有であった
- 一方,TET2遺伝子の変異の一部は腫瘍化していない造血前駆細胞において生じている''と推察された.
2. Hae YY et al. A recurrent inactivating mutation in RHOA GTPase in angioimmunoblastic T-cell lymphoma Nat. Genet 2014; 46(4): 371-377
- RHOA proteinのGTP binding regionのうち変異はGly17Valに集中している。
- sanger sequenceで調べたAITL45例中24(53.3%)に認められた。PTCL-NOSには7.7%(1/15), NK/T cell lymphomaでは15%(3/20)の変異があった。RHOA 59-64GTP binding region変異はCOSMICにAITLの少数例報告がある。116-120のbinding region変異は報告されていない。
- RHOAの変異は178例のDLBCLにはまったく認められずT-cell lymphomaに限定しているようである。
- 変異陽性例の変異はheterozygoteであった。
Gly17Val変異RHOAは、GTPase活性を喪失している.
- RhoAのG17は, K118, N117などとともにGTP結合部位を形成している. G17Vは結合部位の構造を破壊し, 変異体はGTPに結合せず, かつGEF(guanin exchange factor)と安定に結合する.--->Small GTPaseのページを見る
- RhoAはGTPに結合することで活性化するため, RhoAG17V変異体はRhoAシグナルとしては機能喪失型となる.
胃癌でのRhoA変異
ATLLのRhoA変異
文献*17
- ATLL203症例を使って, whole genome sequencingにより 特異なRHOA変異を検出した.
- ATLLの15% (30/203)に, RHOA変異が認められ, 全 coding sequenceに広く分布していた. しかし, 多くはGTP-binding pocketに存在し, RhoA Cys16Argが最も多い変異であった.
- 変異のタイプや部位により, RHOA変異体は異なる,極端な場合は反対の作用をGTP/guanosine diphosphate (GDP)-binding kinetics, アクチン線維制御や転写活性化において示すという意外な結果が提示された.
- RhoA Gly17Val変異体はGTP/GDPに結合せず, dominant negative分子としてふるまう. 一方, Cys16ArgとAla161Pro 変異体は転写活性化促進を伴う速いGTP/ GDPサイクリングを示した.
- ATLL白血病発生にRHOA機能の喪失および獲得の両方が関与し得ることを示唆している。これは, ATLLの分子病因についての新たな洞察を提供するだけでなく、ヒト癌における異種RHOA変異の多様な役割,そのユニークさを強調している。
#ref(): File not found: "AITL-mutation.jpg" at page "Angioimmunoblastic T-cell lymphoma (AITL)"
(*1) Sakata-Yanagimoto M et al. *24
(*2)Dobay MP et al.*25
RHOA変異は, 濾胞性ヘルパーT細胞の特徴のある節性リンパ腫全体をカバーして, 約60%ほどの症例に発現している.(感度 ~60%)
一方, IDH2変異はAITLのうち一部(30%)に発現するのみであるが, PTCL-NOS, FTCLには認められない. AITLを分けることができる可能性がある.
機能獲得(変異:R172Kなど)
濾胞性ヘルパーT細胞の特徴のある末梢性T細胞リンパ腫---AITLで見られる遺伝子異常を共有; TET2, DNMT3A, RHOA
Follicular T-cell lymphoma---AITLでみられる遺伝子異常を共有TET2, DNMT3A, RHOAするほか, t(5;9)(q33;q22) ITK-SYKが20%に認められる.*26*27
造血器腫瘍ゲノム検査ガイドラインWeb公開用-->日本血液学会Web pageガイドライン
PTCLのIDH2変異の特徴*28
TET2変異によるTET2の機能低下はfollicular helper T細胞様リンパ腫発症の発端となる. 一方, DNMT3やIDH2変異についてはTET2機能低下と結びつくことによってリンパ腫発症に一定の機能を果たしていると考えられる. *28