骨髄幹細胞レベルのクロナールな異常による造血器腫瘍。単球増多症が特徴で以下の診断基準を満たす。
heterogenousな疾患群であり, MDSに近い病態からMPDに近い病態の疾患が混在する。
頻度はMDSが10万人に対して12.8casesであり, その約3分の1がCMMLとなる。--和文の文献では, 10万人に3-4人*2あるいは人口10万人あたり年間12人*3など.
1 持続する末梢血のmonocytosis >1000/mm3(μl);単球が末梢 白血球の10%以上を占める 2 フィラデルフィア染色体または BCR-ABL1 fusion geneは陰性。 3 PDGFRA, PDGFRB, or FGFR1 再構成なし(特にeosinophiliaを伴う症例では必要) 4 末梢血あるいは骨髄の芽球 <20% 芽球は myeloblasts, monoblasts, promonocytes を含む。 5 1つ以上の骨髄球系細胞に異形成が認められる。
骨髄異形成がないか軽微の場合にはその他の条件を備えること
(a)血液細胞が細胞遺伝学的にクロナリティを獲得しているか,分子遺伝学的な異常を認めること
(b)単球増加がすくなくとも3ヶ月以上持続すること。
(c)その他の単球増加の原因がすべて除外可能なこと。悪性腫瘍, 感染症, 慢性疾患などを除外する
病型
CMML-1: 前単球を含む芽球が末血で <5%, 骨髄で <10% , criteria 1 から 5 を満たす場合CMML-1と診断しうる。
CMML-2: 前単球を含む芽球が末血で5% から 19% あるいは骨髄で 10% から 19% または Auer rods を認めるか末血あるいは骨髄で芽球が<20% ,かつcriteria 1 から 5 を満たす。
1. まずは3ヶ月以上持続するmonocytosis. Mo > 1000/µl
2. 白血球の異形成, カテゴリーA(低分葉, 顆粒減少)の所見は末梢血での判定がわかりやすい。スメアーをみる。
3. 骨髄は, 過形成。顆粒球性過形成でASD-Giemsaでは赤くみえる。一見M3のようなpromyelocytesの密な増殖像, 落ち着いて見ると各成熟段階の顆粒球や、赤芽球系細胞がみられる。
4. 骨髄では末梢血と異なり, 単球系細胞の増殖はわかりにくい。骨髄像の特徴である。免疫染色が必要になる。
5. 芽球はmyeloblasts+monoblast(この2つはMay-Giemsaでは鑑別困難)にpromonocytesを含む.
6. monoblastsはCD34が陰性になることが多く、注意が必要である。C-KITが陽性になることがある.
7. CD2, CD56の異常発現, HLA-DRの発現減少がFCMでわかることがある。
8. 異形成造血: Mgk系ではCD42b, CD61などによりmicroMgk(微小巨核球:核はpromyelocyteのサイズ以下)
9. 増殖所見や異形成所見が軽微な場合はクロナリティの確認が必要。核型/ 遺伝子異常の確認など。
SRSF2, ASXL1, CBL, EZH2, JAK2, KRAS, NRAS, RUNX1, TET2の9個の遺伝子をシークエンスすればCMML疑い症例の90%のclonal eventをカバーできる*4. (実臨床では実際できないでしょ. )
CD14
- CD68やCD163などとともに単球/マクロファージにかなり特異的に発現される分子のひとつ.
- CD14は, GPI結合性I型糖タンパクで, LPS/LPB複合体受容体であり, LPSによる単球・マクロファージの活性化はCD14を介する.
- 主として単球・マクロファージに発現するが, 顆粒球やB細胞にも低レベルの発現が見られる.
CD16---CD16(FcγRIII), CD32(FcγRII), CD64(FcγRI)
- 単球・マクロファージが免疫グロブリンFc部分に対して発現する受容体. なかでもIgGのFcレセプター(Fcγ)はマーカとして有用.FcγRはCD16(FcγRIII), CD32(FcγRII), CD64(FcγRI)の3種類に大別される.
- CD16には, I型膜貫通性糖タンパクであるCD16a(FcγRIIIa)とGPIアンカー型のCD16b(FcγRIIIb)の2種類のサブタイプが存在する.
- 単球やマクロファージに発現しているのは, CD16aであり, NK細胞やT細胞の一部にもこの型が発現されている.
CD68
- CD68はライソゾーム膜タンパクの一つでLAMP(lysosomal-associated membrane protein)ファミリーに属し, マウスのマクロシアリンに相当する. エンドソームやライソソームに強く発現しているが, 一部はI型膜貫通糖タンパクとして細胞膜にも発現され, 酸化LDLをリガンドとして認識することからクラスDスカベンジャー受容体の一員でもある.
- CD68は樹状細胞や破骨細胞を含むほとんどのマクロファージ系細胞に発現している. パラフィン切片に使えるKP-1やPG-M1などの抗体が存在する.
- 抗体により反応性に多様性が見られ, 単球・マクロファージ以外に好中球や好塩基球, リンパ球, 骨髄巨核球, メラノーマ細胞, 腎尿細管上皮などとの反応が認められ, 結果の解釈に注意が必要である.
CD71
- 95kDのII型膜貫通糖タンパクでトランスフェリンに対する受容体である.
- 活性化された白血球に発現され鉄の取り込みに働き, 細胞増殖に必須の分子である.
- 活性化マクロファージ以外に活性化されたリンパ球, 赤芽球, 脳血管内皮細胞, 種々の増殖細胞に発現が見られる.
- 幼若赤芽球の認識にも用いられる. (成熟した赤芽球には発現されない?)
CD163
- 分子量130kDの膜貫通型糖タンパクで細胞外領域にscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをもつ.
- 単球や組織マクロファージに限局して発現され, 樹状細胞やその他の細胞は陰性で, 単球/マクロファージの同定に有用な抗原と考えられている. CD163の機能は不明.
CD206 (mannose receptor)
- マンノース受容体は分子量175-190kDのI型膜糖タンパクで成熟組織マクロファージや肝類同内皮細胞の細胞膜に発現されているが単球は陰性である.
- 樹状細胞にも発現され, 抗原の取り込みと提示, 細菌や異物貪食に関与して感染防御の最前線で重要な役割をはたしていると考えられる.
CD13 (aminopeptidase N)
- CD13は細胞膜に存在するzinc-binding metalloproteaseの一つでII型膜貫通糖タンパクである.
- MHC classIIに結合したペプチドをトリミングして抗原提示に関与している.
- コロナウイルスは感染時にCD13を受容体として利用する.
- 単球, 顆粒球およびこれらの前駆細胞に発現しており, AMLのマーカとして有用.
- 免疫組織学的には, 種々の組織マクロファージと反応するとともに, 尿細管上皮, 小腸上皮刷子縁, 血管内皮, 線維芽細胞,骨髄間質細胞, 破骨細胞, 細胆管上皮での発現も認められる.
CD33
- 67kDのI型膜貫通糖タンパクでシアル酸結合タンパクであるsialoadhesinファミリーに属するがその機能は十分には解明されていない.
- 多機能幹細胞での発現は見られないが, 骨髄球系細胞の幼若細胞や単球・マクロファージに発現され, 骨髄球系細胞の分化抗原である. 好中球での発現は弱い.
- リンパ球には発現されないため, AMLとALLの鑑別に用いられる.
クロナールな染色体異常がconventional な方法でCMML症例の20-40%に認められる。しかし疾患非特異的である。(「この異常があればCMMLと診断する」という染色体異常はない.)
次世代シークエンサー(next generation sequencer)をもちいた解析によりいくつか頻出する遺伝子の異常が認められている。
RAS変異はCMMLを予後不良型(MP-CMML)にする二次的変異として働いている。CMMLの診断と経過観察のためにRAS変異を調べることが推奨される.*8
CMML症例の10%以上に出現する遺伝子変異*9
1. DNA methylation:TET2 (60%), DNMT3A (10%)
2. Histon modification:ASXL1 (44%), EZH2 (10%)
3. Spliceosome:SRSF2 (40%), U2AF1 (15%), ZRSR2 (10%)
4. Tyrosin kinase:CBL (20%), JAK2 (10%)
5. Transcription:RUNX1 (20%), CEBPA (20%)
6. RAS pathway:NRAS (16%), KRAS (11%)
7. Cohesin complex:STAG2 (10%)
8. Others:SETBP1(15%)
Catalogue of somatic mutation of cancer (COSMIC)*10によるCMML 変異遺伝子top20(右図)
■ RNA スプライス因子
○-->スプライシング因子のページを見る.
○ スプライソソーム複合体を形成するタンパク質をコードする遺伝子のうち, SRSF2, U2AF1, SF3B1, ZRSR2がMDS/MPNで高頻度に変異が認められる。
○ MDS/MPNで変異のみられるスプライシング因子のほとんどがsplicing A complex(右図)に所属しており,3'スプライシング部位の認識が共通の機能である。
○ これらの遺伝子変異は相互に排他的でZRSR2(X染色体)以外は, いずれも変異のhot spot(限られたアミノ酸に変異が集中する)が認められる。
○ それぞれの変異はMPD/MDSの異なる病型において認められる. SRSF2変異はCMMLとaCMLに, SF3B1はRARS-tに高頻度に出現する。U2AF1変異はMDS/MPNの経過中に認められる二次性白血病に頻度が高い.
○ 2つ以上の変異が同時におこると腫瘍化に不利に働く可能性があると推察される。
○ 変異に関連するスプライシング異常が精力的に検索され, U2AF1変異は異常なエクソンスキッピングをきたすことが認められた. 変異例でスキップされるエクソンの3'側イントロン,エクソン端から3番目の塩基は特異的に" T "であった.*11
■SRSF2変異
○ SRSF2変異はエクソン内のモチーフを認識し, EZH2のエクソンスキッピング*12の原因であることがわかった。このエクソンスキッピングは新しいストップコドンを作り出し, いわゆるnonsense-mediated decayと称されるRNAの分解が起こり遺伝子の低発現をきたす。*13
SRSF2変異は EZH2のphenocopy(遺伝子変異はことなるが表現形が同じになる)といえる。
SRSF2 シークエンスprimer--SRSF2 Pro95周辺 187bp のampliconが得られる。*14
SRSF2-f; TTCGCCTTCGTTCGCTTT
SRSF2-r; TCCGGCGTCCGTAGCCA
CpG-rich 用のPCRをおこなう。変異のパターンは左図に示されている。
論文*14にPCRのレシピがありません。94℃ 30sec, 60℃ 1min, 72℃ 1min, x35 + 72℃ 10min, 4℃ soak でかかりました。 Takara Hot start Taq を使用しているので CG-rich PCRにQ solutionを使いました.
○ 最近, ZRSR2の変異が関連するモチーフがU12タイプのイントロン領域に特異的な配列であることが明らかにされた. *15
○ JMMLとCMMLは病理学的に非常に類似しており, RAS pathwayほかさまざまな体細胞変異が共通して認められるにもかかわらずJMMLでは, スプライス因子の変異は非常に低頻度である。*16この理由はいまのところ不明。
■ コヒーシン複合体遺伝子 cohesin complex genes
○ 遺伝子変異は, MDS/MPNの10%に認められる。通常ナンセンスやフレームシフトなど機能喪失型変異をきたすことが多い.
○ cohesin complex遺伝子変異の骨髄腫瘍における病態については検討中である. すくなくともMDS/MPNの細胞増殖に何らかのかたちで関与している.
○ 遺伝子変異はスプライス因子遺伝子とおなじく, 排他的である。
■ DNAメチル化関連遺伝子
TET2--> TET2 mutationのページをみる
○TET2, DNMT3A, IDH1/2などのDNAメチル化関連遺伝子変異がMDS/MPNに認められる。
○TET2変異は atypical CML(aCML), CMMLの30~60%, RARS-t症例の20%以上に認められる。単一遺伝子変異としては, ASXL1, SRSF2とならびMDS/MPNにおいて変異する頻度が最も高い。機能の異なるこれらの高頻度変異は, 高頻度に1症例に共存して認められ相互に協調して腫瘍化に関与している。
○TET2は5-mCを5-hmCに変換する酵素の一つであり, 機能喪失型変異をきたし, UPDの頻度が高く, 野生型アレルが消失する.
○TET2変異は, 脱メチル化薬の治療反応性と関連があり, 化学療法抵抗症例や移植適応外症例などを対象に治療適応の検討がなされている。
DNMT3A--> DNMT3のページをみる
○この遺伝子がコードするDNAメチルトランスフェラーゼは, CpGアイランドにおける5'シトシンをメチル化する。
○DNMT3Aは通常へテロ接合型のミスセンス変異を呈し, ドミナントネガティブ効果により,野生型の機能が抑制される。
○変異はAMLに, より高頻度に認められる. MDS/MPNではCMML(5~10%), RARS-t(17%)に稀ならず検出される。
IDH1/2
○IDH1/2遺伝子は, ほぼすべての変異がhot spotを呈する1アミノ酸置換であり, 他, 稀なフレームシフト変異がある。
○変異はヘテロ接合型であり, 変異型と野生型のタンパクが二量体を形成する。
○野生型二量体IDHはイソクエン酸をαケトグルタル酸に代謝する。機能獲得型の変異型酵素はαケトグルタル酸から2ヒドロキシグルタル酸を産生する。
○変異体が野生型とは異なる代謝産物を生み出すことから機能変化型変異と呼ばれることがある。
○異常産生された2ヒドロキシグルタル酸は, TET2やKDM6AなどJumanjiドメインを有する酵素を抑制する効果をもつためこれらの遺伝子の機能喪失型変異と結果的に同じ効果が認められる。
○IDH1/2変異はTET2変異とは排他的に認められ, これらの遺伝子が同じパスウェイに属することが示唆される。
○DNMT3と同じく当初はAMLのゲノム解析により変異が発見された。MDS/MPNではMDS/MPN-uにおいて6-10%,と比較的多く認められる。
■ ヒストン修飾遺伝子
ASXL1
ヒストン修飾遺伝子のうち CMMLで変異が最も高頻度にみられるのはASXL1である。
○PRC2複合体の動員, 安定化に関与していると考えられている.
○frameshift変異, nonsense変異により機能獲得をきたしPRC2複合体がかかわる遺伝子抑制を解消する。その結果標的遺伝子の転写が促進されることになる*17。
○CMMLにおいては40%以上もの症例にASXL1変異が検出される。
○CMMLにおけるASXL1のmutationは, exon12に集中している。flame shift変異の頻度が高い。
PCR2(Polycomb repressive 2)複合体
○EZH2はMDS/MPNにおいて高頻度に変異が認められている。
○野生型は, EED, SUZ12などとともにPRC2複合体を形成しヒストンH3リジン(K)27をメチレーションし, 標的遺伝子の抑制にかかわる.
○EZH2, EED, SUZ12の3遺伝子は, aCML, CMMLにおいて合計, 6-15%の症例に変異が認められる。変異はほぼすべて機能喪失型であり抑制されている標的遺伝子が逆に転写が亢進する. ASXL1変異との共存が観察される。
○EZH2, EED, SUZ12の3遺伝子はいずれもUPDの好発部位に位置し, 高頻度にホモ接合型の変異を呈する。
KDM6A (lysine (K)-specific demethylase 6A/ UTX)
○ヒストンH3K27などの脱メチル化酵素をコードするKDM6AもCMMLで変異が認められる。*18
○H3K27のメチル化に正反対の機能をもつ, PRC2複合体とKDM6Aの変異は通常, 排他的に認められる.
○H3K27メチル化により, 転写が抑制される遺伝子はCMMLにおいては発現が増加・減少のいずれの方向にも異常となる可能性がある。
■ RAS関連パスウェイ
○CMMLでは体細胞変異, JMMLでは胚細胞と体細胞変異が認められる。
○KRAS, NRASの変異がJMML, aCML, CMMLにおいて認められる。通常へテロ接合型を呈し, 限られたアミノ酸配列に変異が集中している。
○RAS関連パスウェイに属する PTPN11, およびNF1は先天性Noonan症候群の原因遺伝子とされ変異はJMMLにより高頻度. CMMLではまれ.
○新規RAS関連パスウェイの変異 RIT1体細胞変異が報告された. 同じアミノ酸配列の胚細胞変異がNoonan症候群において認められ,これらの変異は他のRAS関連パスウェイ変異と排他的にみられた。
■受容体型チロシンキナーゼ(receptor thyrosin kinase, RTK)
○CSF3RはWHO分類でMPNに属する慢性好中球性白血病(CNL)において高頻度に発現する。その後MDS/MPNにおいても稀ながら認められた.
○KIT, FLT3変異も稀ながら認められる. KIT変異はMastocytosisを合併するCMMLに特異的に認められる.
○これらのRTKはCBL E3ライゲースのターゲットになっている。
○receptor thyrosin kinaseをポリユビキチン化するE3ライゲースをコードする遺伝子
ユビキチン化のページを見る。
○RASパスウェイの変異のない, JMML/CMMLのコホート研究でUPD11qが検出されたことから微小欠損病変を併せて解析することから発見された.
○JMMLでは一部, 胚細胞変異を認める。
○第11番染色体上の染色体異常により高頻度にホモ接合型, ヘミ接合型を示し, 野生化型が消失する。
○変異はE3ライゲース活性に重要なRINGドメインに集中して認められる. 変異体では, RTKなどターゲットタンパク質のユビキチン化減少と安定化が認められる。
○CBL変異とRASパスウェイの変異とは排他的に認められる。
■SETBP1
■転写因子
■DNA修復関連遺伝子
■ETNK1
- CMMLでは発症の最も初期段階において, クローン優位性を獲得するための遺伝子異常発生が必要である。
- TET2変異はクローン性を誘導する基幹変異のひとつであることが明らかにされた。
- クローン優位性獲得後に, 骨髄単球系指向性, 骨髄系細胞分化異常・細胞増殖性にかかわる遺伝子異常が段階的に加わる.
- 段階的遺伝子異常付加により直線的にクローンが進化し, CMMLの骨髄単球増多と多様な血球減少所見を呈する。
CMML患者さんのCD34+骨髄細胞を成熟段階(造血幹細胞 hematopoietic stem cell:HSC, 多能性前駆細胞 multipotent progenitors, 骨髄系前駆細胞 common myeloid progenitors, 骨髄単球系前駆細胞 granulomonocyte progenitors)に分け単一細胞づつ増幅しクローン性の遺伝子異常を解析した.
CMMLの腫瘍幹細胞(Leukemia initiating cell:LIC)はMDSと同様, HSC由来である. 一方, AMLでは造血前駆細胞がLICと想定されている.
CMMLの病型を規定する遺伝子変異