1924年Otto Warburgによりがんのワールブルグ効果「がんは酵素の有無にかかわらず解糖系を亢進させてATPを産生する」-が提唱された.
ワールブルグ効果の発見により, 代謝異常ががんの一つの特徴ということが知られ, 現在ではATPだけではなく, がんが進展するために必要な核酸, タンパク質, 脂質など生体分子の前駆体を産生するために解糖系を活性化すると考えられている.*1*2
その他, がん細胞では, ペントースリン酸経路, ヌクレオチド生合成, TCA回路, アミノ酸生合成, グルタチオン生合成, グルタミノリシス, 脂肪酸生合成, β酸化などさまざまな代謝経路が変動している.*3
がんによる代謝リプログラミングの要因
1. がん細胞微小環境*4. がん組織では血管ネットワークが無秩序に過剰形成され, 血管構造自体も脆弱で機能的ではないためがん細胞での栄養, 酵素, pHレベルが正常細胞と異なっている*4.栄養源であるグルコース, アミノ酸, 脂質などは代謝の重要基質であり, 濃度が変化するとそれに応じて代謝が変動する.
2. p53, MYC, PI3K, AKT, mTORC, HIF-1などに関連する遺伝子異常によりシグナル伝達経路や代謝酵素の転写, 活性が変化して代謝異常を誘導する.
3. がん代謝は酸化ストレス, ホルモン, 炎症, 腸内細菌叢などのさまざまな要因によっても変動することが知られている.*2
MYC(c-MYC)は数千の遺伝子を制御するグローバル転写因子であり, 代謝, 細胞増殖, 血管新生, 細胞周期, アポトーシス, スプライシング, リボゾーム合成などさまざまな機能を担っている.
MYCはMAX(MYC-associated protein X)とヘテロ二量体を形成して転写活性を獲得している.
正常細胞など, MYCの発現が正常な場合は, HIF-1αがMAXに結合することによってMYCのターゲット遺伝子の転写を阻害する.
がん細胞では, 遺伝子増幅やWntシグナルの異常によりMYCが過剰発現するためMYC-MAXヘテロ二量体が安定し, HIF-1αに阻害されることなく, MYCのターゲット遺伝子の転写を誘導する.
MYCは少なくとも, 215の代謝反応を制御し, 解糖系, メチオニン回路, One-carbon代謝, プリン合成, ピリミジン合成, 脂肪酸合成経路などを活性化し, 反対に糖新生やβ酸化を抑制している.
大腸がんでは, APC, βカテニンの変異, 遺伝子増幅, 成長因子やシグナル伝達経路の活性化, ホルモン, 炎症などによりMYC発現が誘導され, 代謝をリプログラミングしていると考えられている.