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縦隔に発生する特徴的なタイプのB細胞リンパ腫で臨床病理学的特徴と分子シグネチャーが結節性硬化型古典的ホジキンリンパ腫(nodular sclerosing type cHL)と明確に重複することに基づく独立した疾患単位とされる.*1 文献上では,原発性縦隔B細胞リンパ腫、胸腺B細胞リンパ腫thymic B-cell lymphoma、および明細胞リンパ腫Clear cell lymphomaとも呼ばれている。
PBML の起源細胞は胸腺髄質 B 細胞と考えられており, 文献では胸腺アステロイド B 細胞とも呼ばれている*2*3.細胞起源の代替仮説としては, PMBLにおける胚中心関連抗原の発現とIGH 変異に基づき胸腺に移動した胚中心 B 細胞が提案されている.
PMBLの発症機序は複雑だが, JAK-STAT経路の活性化と宿主の免疫監視からの逃避という2つの主要な機序が重要な役割を担っている.後者は、リンパ腫細胞表面の免疫抗原の減少、およびリンパ腫細胞に対する宿主T細胞応答の障害によって惹起されると考えられる.
現在,PMBLの診断基準としては,臨床所見(若年,縦隔腫瘤), 組織学的な大細胞リンパ腫の認定, B細胞免疫表現型(CD23,CD30(弱,変動)), MAL陽性,核c-Rel陽性,CD200陽性などのマーカー発現の組み合わせが標準となっている.
c-Rel
- NF-κBは転写因子として働くタンパク質複合体で,構成するタンパク質(NF-κB family)は,哺乳類では p50, p52, p65(RelA), c-Rel, RelB の 5 種類が知られている*4*5
これらタンパク質の N 末端側にはおよそ 300 アミノ酸残基の Rel ホモロジー・ドメイン(RHD)と呼ばれる DNA 結合/二量体形成ドメインが,共通して存在し,RHD を介して,それぞれのタンパク質がホモダイマーまたはヘテロダイマーを形成することによって,発現を調節するターゲット遺伝子のプロモーターやエンハンサー領域に結合,転写因子として作動する.
MAL
CD200
- CD200/ OX-2抗原は, B細胞, T細胞のサブセット,ニューロンおよび内皮細胞等, 多くの非造血幹細胞を含む複数の細胞種に広く発現する免疫グロブリンスーパーファミリー膜糖タンパク質*6であり, 二つの免疫グロブリン様ドメイン(V,C)と単一の膜貫通および短い細胞質ドメインを含有する.2主に骨髄系/単球系細胞, リンパ系細胞に発現する受容体CD200Rと相互作用して, T細胞媒介免疫応答に対して抑制効果を有する.*7*8CD200は、急性骨髄性白血病*9, 多発性骨髄腫*10を含む多くの造血器系新生物に発現しており, これらの新生物に発現した場合, おそらく宿主免疫系に対する免疫抑制作用を通じて,予後不良のマーカーになると考えられている.
これらのPMLBL診断基準は完全には特異的ではなく,縦隔リンパ節に存在する節性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の中には,PMBLと誤認される症例がある. さらに,診断基準は,完全に感度が良いとは言えず, 高齢患者さんや広範囲な播種病変をもつ患者さんなど,通常とは異なる臨床的特徴を持つ患者では,PMBLを認識することが困難な場合がある.
10年以上前に行われたある遺伝子発現プロファイリング研究*11では, 当初臨床的, 病理学的評価に基づいてPMBLとして研究コホートに含まれていた症例の約4分の1が, 最終的には遺伝子発現プロファイルに基づいてPMBLから除外されている.
Yuanら*12は,DLBCLのまれな症例では,縦隔腫瘤がなくても,PMBLに典型的な遺伝子発現プロフィールを持つことがあることを示唆している.