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月経周期による内膜組織変化

月経周期による内膜組織像の変化.*1

月経ホルモン02.jpg

成熟女性の子宮内膜は卵巣ホルモン刺激により,受精卵着床に最適な形態と機能を整える. この着床に適した内膜は妊娠しない限り規則正しく再生, 繰り返される.
この状態は排卵までの前半期はEstrogenにより, 排卵後の後半期はProgesteronとEstrogenの作用により制御され, 内膜は両方のホルモン活性の組み合わせにより特徴的な組織所見を呈する.

EstrogenとProgesterone活性は,脳下垂体のfollicle-stimulating hormone(FSH)とlutenizing hormone(LH)の調節をうけ, FSHとLHは視床下部を通じて中枢神経の影響を受ける.

Estrogenは内膜腺と間質を一定の厚さまで増殖させる. このEstrogenの効果は排卵直前に最高に達する.

Progesteroneは内膜腺分泌能を誘発し, 間質に脱落膜様変化decidual changesを来す.Progesteroneの効果は排卵後6-8日め(分泌期中期)に最高となり, 9日め以降は急速に低下する.

黄体はprogesteroneとともにestrogenも産生し, その線維形成能により内膜表層上皮下に強固な構造をもった層を形成させ,脱落膜細胞内に貯蔵されたglycogenとともに妊卵着床に最適な内膜にする.

妊卵着床がない場合はestrogen, progesterone消退により内膜中層の融解, 脱落がおこる. これが月経である.

以上のようなホルモンの影響をうけるのは内膜上層および中層にかぎり機能層(functional layer)とよばれる. 深部myometriumに接する層は分泌期後期の高progesterone状態でもエストロゲン支持性内膜像(=増殖期の組織像)を維持し, 非機能層(non-functional layer)と呼ばれる.

月経周期による内膜腺, 腺管と間質の変化(内膜日付診)

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Schr&umlo;der*2 により1912年に卵巣機能の周期的変化と子宮内膜の組織像の周期的変化が相関することが明らかにされた. 月経周期中の子宮内膜組織像日変動が精密に検討され, 子宮内膜組織像から排卵, および月経との日数差を診断する, 子宮内膜日付診がNoyesら*3によって確立された.

Noyesの作成した8項目の組織観察目標に基づくdiagram(左図)をもとに日付診をおこなう. 以下8項目

1)腺上皮核分裂像: 腺上皮のmitosisは増殖を示す.これらは月経中に発生する。なぜなら、修復と崩壊が同時に進行しているため

2)腺上皮核の偽重層:増殖期に特徴的であるが, 活発な腺分泌が始まるまで続く. また月経中に腺が萎縮するまで再開されません。

3) 核下空胞: 子宮内膜中にもっとも早期に認められる排卵の組織学的証拠である.核下空胞形成は排卵の約36-48時間後に始まる.

4)分泌: カーブは目に見える腺管腔内の分泌を示す.活発な分泌はより急激に減少し, 後期段階では分泌物の濃縮がおこる.

5) 内膜間質の浮腫: この要因は個人によって異なり, 特に増殖期における増加はほとんど認められない場合がある. 分泌に伴う浮腫はより一定しています。

6) 偽脱落膜変化: 脱落膜変化は最初に細動脈周囲に明らかになる. 月経直前の段階まで進行し, 表面に密な層が形成される.

7) 間質の核分裂像: 増殖期中がもっとも多い. 分泌の活発な時期には消失し, 前脱落膜形成時(predecidual formation)には再び出現する.

8) 好中球浸潤: 月経周期を通じて、内膜には常に少数のリンパ球が浸潤する. 多形核白血球の浸潤は, 月経出血開始約2日前から始まる.

 

増殖期内膜 Proliferative phase

増殖期内膜組織所見 Endometrium in proliferative phase --> file月経周期による内膜組織変化PP.pdf 増殖期内膜の組織所見をPDFで示す.

日付診-Noyes のコピー 2.jpg

1) Early proliferative phase: 増殖期初期 4~7日め
月経3日めには, 剥脱しなかった基底層内膜の再生が始まる. 4日目には内膜は1mmの厚さとなる. 6日目には内膜全層がほぼ形成され, 厚さは3mmになる. この時期を再生期とよぶ. 再生期には腺は一部拡大の傾向を残すが全体に数は少なく狭く真っ直ぐで腺上皮細胞は低円柱上皮である. 核は小型で卵円形,核小体は不明瞭. 間質は密, 細胞は紡錘形を示し, 核クロマチンは濃縮している.

2) Mid-proliferative phase増殖期中期 8~10日め

中期は内膜は安定した形態を示す. 厚さは4mm前後で, 腺は軽度に迂曲し,上皮は高円柱状となり, クロマチンは濃くDNA増多を示す.核小体は明瞭となる. Estrogen作用増加にともなって間質浮腫はこの時期が一番強い.

3) Late prolifertive phase 増殖期後期 11~14日

Estorgen活性の急上昇により内膜は厚さ6-7mmと肥厚し, 盛んな増殖を示すmitosisが腺上皮, 間質細胞ともに多くなる. 腺の迂曲がさらに増し, 偽重層を示してくる.. 核は紡錘形になり, 1-数個の核小体が現れる. 細胞質はRNAが増加し大きくN/C比は低下する. 間質浮腫は消失する.

 

分泌期内膜 Secretory phase endometrium

Noyes-Secretory phase.jpg
 

排卵期/中間期内膜 inerval ovulatory phase 排卵日~1日, 月経14日目~15日目

排卵がおこると, progesteroneの作用により腺の分泌が開始される. 組織細胞像としては核下空胞として出現し, 電顕的には巨大なglycogen areaとして認識される.

分泌性の変化は排卵後36~48時間を要するため, この期間の内膜はまだ偽重層を残し, やがて核下空胞が見え始めるが内膜腺の50%程度である.

分泌期初期 Early secretory phase 排卵後2日目~5日目/月経後16日目~19日目


*1  宮地徹, 森脇昭介, 桜井幹己共著 産婦人科病理学診断図譜 第3版. 1998 杏林書院 東京
*2  Schroder R Anastomische Studien zur normalen und pathologischen Physiologie des Menstrurations-zyklus Arch F Gyn 1912;104:27-102
*3  Noyes RW., et al Dating the endometrial biopsy. Fertil Steril 1950; 1; 3-25.

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