Integrated diagnosis of diffuse gliomas
静岡がんセンター病理専門医養成講座-2017年2月10日(土)
神戸大学大学院医学研究科・地域連携病理学, 兵庫県立がんセンター・地域連携病理学研究所 廣瀬隆則先生 講演「新しいWHO脳腫瘍分類について」より
第63回日本病理学会秋期特別総会 病理診断特別講演2 脳腫瘍の病理診断-新WHO分類における病理診断- 群馬大学 平戸純子先生 より
静岡県がんセンター病理専門医養成講座 新潟大学脳研究所病理部門 高橋均先生の講演から-->Integrated diagnosis of diffuse gliomas神経膠腫の診断はどうかわるのか
遺伝子異常に基づく, びまん性神経膠腫 diffuse glioma 分類の再構成
遺伝子異常に基づく, 髄芽腫 medulloblastoma 分類の再構成
遺伝子異常に基づく, 胎児性腫瘍 embryonarl tumors(髄芽腫以外) 分類の再構成
- Ependymoma,RELA fusion-positive
- diffuse midline glioma, H3 K27M-mutation
IDHの関与する腫瘍発生-分子学的機序 Clin Cancer Res 2016; 22(8):1837-1843より引用改変
正常IDH1/ 2は, いずれもクエン酸回路でNADPH依存性にイソクエン酸からαケトグルタル酸α-ketoglutarate(αKG)への転換を触媒する酵素(図:TCA cycle )
IDH1の変異アミノ酸はR132に, IDH2の変異では, R140ないしR172にほぼ限局している。
これらのアミノ酸は酵素活性の重要な部位に相当し変異により本来の基質特異性が大きく変化し(機能獲得型変異), 本来の機能であるイソクエン酸からαKGへの触媒活性はいちじるしく障害される。一方でαKGから2ヒドロキシグルタル酸(R-2HG)の反応が促進される。
異常IDH1/2により蓄積するαKGアナログのR-2HGは「Oncometabolite」として種々のターゲットタンパクや遺伝子に影響をおよぼす。たとえば, TET2活性を競合的に阻害することが生化学的に示されている。この過剰生産された2HGによるTET2機能障害が腫瘍化にかかわっていることが推察されている
2009年,代謝に関するIDH遺伝子の異常が脳腫瘍で報告された. *1 astrocytoma, oligodendrogliomaまたはその悪性型, secondary glioma, glioblastomaでは高率に, 8割を超えるような症例でIDHの変異が見つかった.
一方, pilocytic astrocytoma, ependymoma, PXA, primary glioblastomaではほとんど認められなかった.
この発見により, diffuse gliomaの発生機構に関するコンセプトが大きく変わってきた. 従来は別に考えられてきた, astrocytoma系とoligodendroglioma系腫瘍はもともとは一緒であって, 共通してIDH 変異を契機に腫瘍化が始まる。
それとは別にIDH変異のないprimary glioblastomaという大きな腫瘍群がある。
File not found: glioma-progression_s.jpg Ohgaki H, Kleihues P. The definition of primary and secondary glioblastoma. Clin Cancer Res. 2013 Feb 15;19(4):764-72.
Primary and secondary glioblastoma*2
- ほとんどのGlioblastomaは高齢患者さんに急速に発生し, かつ, 臨床的にも病理組織学的にもより低悪性度の病変を伴うことなく, de novoに発症する;primary glioblastoma
- secondary glioblastomaはlow-grade diffuse astrocytomaあるいはanaplastic astrocytomaから進行した病変である
Diffuse astrocytic and oligodendroglial tumorのWHO2016分類 --- integrated diagnosis (phenotype/ genotype)
1p/19q codeletionでは1pと19qの双方が1本になり, 19pと1qとが中心体付近で接合した異常染色体を形成する(不均衡転座)*3
1pと19qが共に全長にわたって欠損することが重要であり, 各々の一部のみが欠失している場合はこの異常に含まれない.
FISHではprobeによって, 部分欠失と全欠失を区別できない場合があり偽陽性を呈することがあるため注意が必要.
1p/19q codeletionを伴うものは PCV(procarbazine+CCNU+ vincristine)療法により著明に生存が延長することが報告された*4
腫瘍分類にIDH変異ほか, 遺伝子学的異常の検索が必要 ---> IDHのページをみる
Diffuse astrocytoma, IDH-mutant
ATRXとTP53の変異
Diffuse astrocytoma 細胞においては, テロメア維持が, テロメラーゼ活性化に非依存性の, ALT(alternative lengthening of telomerase)により行われていると考えられる.
ALTによりテロメア維持が行われる細胞では, TP53やATRXの不活化をともなっていることが多く, これはATRXがヒストンH3.3をテロメアに誘導して組み換えを抑制する働きがあるのではないか*5 *6と考えられている.
ATRXの点突然変異がastrocytomaに高頻度に起こっていることが報告され*7*8, ALTとATRX変異が密接に相関していることが示されている*9.
ATRX変異は, ほとんど常にTP53変異のあるastrocytomaに限定してみられ, またTERT promoter変異とは、完全に相互排他的である。*10
diffuse astrocytomaの腫瘍組織免疫染色では変異による蓄積でTP53が陽性(clone DO7), ATRXの発現は変異により消失する.p53(+), ATRX(-)の結果となる.--->ATRXの免疫染色例
ATRX-IHC.pdf
まとめると;
glioblastomaとoligodendrogliomaの多くは, TERT promoter変異によりテロメラーゼ活性化によってテロメアを維持している一方, astrocytomaでは、ATRX変異に伴ってALT機序の活性化によりテロメア長を維持していると考えられる.
●--->脳腫瘍の組織像Web pageがあります。脳神経外科 澤村豊のページ(リンクをはらせていただきます。)
IDH-mutant diffuse astrocytomaの亜型
Gemistocytic astrocytesが20%以上を占める.
早期にanaplastic astrocytomaやglioblastomaに移行する.
Fibrillary, protoplasmic typeの記載はなくなる。
Diffuse astrocytoma, IDH-wildtype
IDH遺伝子変異のない浸潤性星細胞腫瘍
暫定的な診断名
- 頻度は低い
- まれ, 追加の遺伝子解析で他の腫瘍型に再分類される可能性がある.
IDH変異の解析手段
- Sanger sequencing
- Pyrosequencing
- Immunohistochemistry-- IDH1 R132H変異蛋白の免染
- High resolution melting (HRM) analysis
- Others
Anaplastic astrocytoma IDH-mutant
- びまん性に浸潤する星細胞で, 部分的あるいは広範な退形成と有意な増殖活性が認められる. また, IDH1/2遺伝子変異を有している.
Anaplastic astrocytoma, IDH-wildtype
- まれ(20%)
- IDH-wild type glioblastomaと同様な分子異常, 臨床像を示す
- H3K27M-mutant gliomaも (midline location)
- Glioblastoma, IDH-wildtypeと同様の予後を示す。
高齢者の大脳半球
- 星細胞性分化を示す高悪性度腫瘍
- 核異型, 多形性
- 核分裂像
- 微小血管増殖および/または壊死
- IDH遺伝子変異なし
- 55歳以上でIDH1R132H免疫染色陰性ならsequencingの必要なく診断可能.
55歳以上の膠芽腫ではIDH1 R132H以外の変異は極めて稀であることから、組織学的に膠芽腫と診断できれば免疫染色のR132H特異抗体が陰性の場合、IDH野生型と診断できる(55歳ルール)。- TERT(Telomerase reverse transcriptase) promoter mutationsが認められる.--->TERT promoter変異の説明
- Glioblastomaの90%
- Primary (de novo) glioblastoma と考えられる.
Glioblastoma: histological patterns
small cell glioblastoma
Glioblastoma with primitive neuronal component(new pattern: glioblastoma with PNET-like component)
Glioblastoma with oligodendroglioma component
Granular cell astrocytoma/ glioblastoma
Lipidized glioblastoma
Adenoid glioblastoma
Glioblastoma, IDH-wildtype variants
Giant cell glioblastoma
Gliosarcoma
Epithelioid glioblastoma
欧米・本邦での大規模なゲノム異常, エピゲノム異常, トランスクリプトーム異常の解析により*11*12, glioblastomaは分子生物学的に大きく異なる腫瘍群に細分化され, 将来それぞれの腫瘍群のkey moleculeを標的とした治療法の導入が期待される.
文献*13
哺乳類の成体脳では,脳信号の伝達を担う神経細胞のほかにグリア細胞と呼ばれる細胞が存在する。グリア細胞には,アストロサイトとオリゴデンドロサイト,ミクログリアがあり,ヒトでは脳細胞全体の約90%を占めていると言われている。