Carcinoma of the uterine corpus 子宮体癌
別名, 遺伝性非ポリポーシス大腸癌(hereditary non-polyposis colorectal cancer; HNPCC).
DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子群[MLH1, MSH2, MSH6, PMS2, etc]の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患.
大腸癌の若年性発症, 同時性あるいは異時性の大腸癌発症および, 多臓器癌(子宮体癌, 胃癌, 腎盂尿管癌, 胆道癌, 脳腫瘍, 皮脂腺腫など)の発生を特徴とする遺伝性のがん易罹患性症候群である。
Lynch症候群は全大腸癌の約2~5%を占め, 最も頻度の高い遺伝性腫瘍の1つと考えられている。
リンチ症候群の名前は米国ネブラスカ州の医師であるDr.Henry T. Lynch(1928~)が集積し報告した膨大な家系資料がMSH2, MLH1などの発見につながったことから,MMR異常を伴う遺伝性腫瘍症候群をリンチ症候群とよぶようになった*1
Lynch症候群の一次スクリーニングにはアムステルダム基準IIと改訂ベセスダ基準が用いられる。
アムステルダム基準II*2
少なくとも3人の血縁者がHNPCC関連腫瘍に罹患しており以下のすべての基準を満たす。
HNPCC関連腫瘍: 大腸癌, 子宮内膜癌, 小腸癌, 腎盂・尿管癌
改訂ベセスダ基準(2004年)*3
以下の患者さんにはMSI検査を推奨する(二次スクリーニングのMSI検査適応を決める基準として設けられた)
★ Lynch症候群関連腫瘍: 大腸癌, 子宮内膜癌, 胃癌, 卵巣癌, 膵癌, 腎盂・尿管癌, 胆道癌, 脳腫瘍, 脂腺腺腫, keratoachantoma, 小腸癌
★ MSI-Hに特徴的な大腸癌組織学的所見: 腫瘍内リンパ球浸潤, Crohn病様リンパ球反応, 粘液癌・印環細胞分化, 髄様増殖の存在.
感度/特異度は アムステルダム基準IIで, 28-45%/ 99%. 改訂ベセスダ基準で 73-91%/ 77-82%で全例が拾い上げられるわけではない。
今後は少子化, 核家族化が進み家族歴からのスクリーニングはこれまで以上に不明確になることが予想される*4このため 若年者(50歳未満)に大腸癌やLynch Sx関連癌が多発あるいは重複して発症していればLynch Sxを考慮して対処することが求められる.
2/5以上のmarkerで長さが変化していた場合---MSI-high (陽性)
1/5のmarkerで長さが変化していた場合---MSI-low
どのmarkerも変化がなかった場合---MSS(microsatellite stable)
MSI-lowの場合は, MSSと共に陰性として扱われることが多い。
ミスマッチ修復タンパクの免疫染色
免疫染色の結果(internal control陽性に対してMMR修復タンパク異常があると陰性になる)により変異のある(壊れている)遺伝子が推定可能。しかし1対1ではなく, MLH1, MSH2に異常があるときは各々, PMS2, MSH6も陰性になる。対照的にPMS2, MSH6遺伝子変異の場合は1つのみのタンパク消失の結果となる。
MLH1とMSH2はMMRたんぱく質の構成に必須。PMS2とMSH6はこれらのたんぱく質と相互に結合していないと安定が保てず、発現がなくなってしまうと考えられる。
MSH3はminorなタンパクであるが, MSH2と複合体を形成し,ループアウト構造をとるミスマッチ修復に働く.
免疫染色はマイクロサテライト不安定性の原因となるミスマッチ修復タンパク質の発現をみる検査である。
以下の3つは覚えておくとよいですよ。(Dr関根)
- ミスセンス変異などによる変異たんぱく質の発現: 変異MLH1由来の異常MLH1タンパク質ができても免疫染色では, 陰性とならず陽性になる。MHL1変異例の8/32例はMHL1(+)/PMS2(-)の染色パターンを示した.
この場合, 異常なMHL1と結合するPMS2は安定できずに消失してしまう。*11PMS2遺伝子には異常が見られない。- マイクロサテライト不安定性によるミスマッチ修復タンパク質の2次的変異--> MLH1変異により, 他のMMR修復タンパク連続塩基(mononucleotide repeat); MSH2(A7), PMS2(A8), MSH6(A7, C8, T7), MLH3(A9, A8), MSH3(A8, A7)のシークエンスが二次的にこわれてしまう。
MSH6に最も高頻度にでる。組織上で, 部分的にMSH6発現が消えてしまう。領域的に組織型が異なるがんでの発現が違ってくることがある。- 術前化学療法によるMSH6の発現消失。: 10/51例で化学療法後にMSH6の発現消失・減弱が認められた*12。
この場合治療前の生検組織ではMSH6の発現は保たれており, 発現消失は, 化学療法の影響であると推察される。
さらに, とてもまれな免疫染色の非典型例: MSH2の変異に伴った大腸癌(MSH-H)
- 腫瘍全体で不均一な(まだら状, 地図状)染色や, 単一腺管ないでも不均一にそまることがある。
- MSH2変異例において, MSH2が細胞質にそまってしまう。癌の部分では, 核は白く抜けて不染, 細胞質のみ染まる例があった。
ミスマッチ修復異常の有無は治療選択とリンチ症候群の診断に重要な意義をもつ。
DNA障害と修復機構のタイプ*14