Wikipathologica-KDP
Aplastic anemia (AA) 再生不良性貧血†
疾患概念:
末梢血で全血球の減少(pancytopenia)と骨髄造血細胞密度低下(低形成)を特徴とする症候群
これらの症候を示す疾患のなかから概念が明確な他疾患を除外することによりaplastic anemiaと診断が可能である。
年間患者発生数は100万人あたり6人(2006年調査), 女性が男性の1.5倍。
20歳代と60-70歳代に発症のピークがある。
再生不良性貧血には疾患に特異的な核型異常, 遺伝子異常がなく, 診断に役立つマーカーも存在しない.*1
再生不良性貧血は「血球減少」という現象により疾患が既定されており, 病態をもとにした疾患概念ではないため, 他の骨髄不全症と鑑別が困難になっている. *1
症候
- 貧血症状としての労作時息切れ, 動悸, めまい。出血症状としての皮下出血斑, 歯肉出血, 鼻出血など。好中球減少の強い症例では, 感染による発熱。
病因・病態発生
後天性, 特発性再生不良性貧血において造血幹細胞が減少する原因には, 幹細胞自身の質的異常と免疫学的機序による造血幹細胞の障害の2つがあると考えられている. *2
- AAの多くは, 造血幹細胞に対する免疫学的障害により発生する自己免疫性の骨髄不全であり, そのメカニズムや造血幹細胞に発現する自己抗原不明ではあるが, 診断後間もない例では, 除外診断であっても70%が免疫抑制療法により軽快する。
- MDSのうち, RCUDやRCMDには芽球増加はなく, 各血球系統の10%以上の特徴的な異形成をもとに診断される病態であるため, 血球減少の軽度なAAがかなりの数含まれている. このことは, 本来免疫抑制療法で速やかに軽快するはずの良性骨髄不全がMDSと診断されたために, 輸血など対症療法のみで経過をみられたり, 非血縁ドナーからの骨髄移植のような治療関連死亡率の高い治療をうけたりすることになる。
- これらAAとMDSの鑑別診断と治療において重要なことは, 免疫異常による骨髄不全マーカを同定し, マーカ陽性例に対しては速やかに免疫抑制療法を開始することである。
AAの発症にはT細胞が強く関与しており, 現在のところ, 抗原は不明であるが, 造血幹細胞を細胞障害性T細胞(cytotoxic T-cells)が免疫学的に攻撃することが病態の中心と考えられている。(T細胞を介した自己免疫性疾患)
cytotoxic T-cellの関与を示す間接的所見として, GPIアンカー型膜蛋白欠損-PNH型赤血球の出現や, 6番染色体短腕のuniparental disomy (6pUPD)によるHLAクラスIアレルの欠損した血球の検出があげられる
GPIアンカータンパク質
- GPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)と呼ばれる糖脂質によって膜上に局在する一群のタンパク質(GPIアンカー型タンパク質)が150種類ほど存在する。
- タンパク質のカルボキシル末端アミノ酸にオリゴ糖(グリカン)がついた, ホスホリルエタノールアミンが結合している。
グリカンはグルコサミンによってホスファチジルイノシトール(PI)に結合している。このタイプの糖タンパクは, グリコシルホスファチジルイノシトール・アンカー(GPIアンカー)糖タンパク質と呼ばれる。
- 異なったGPIの違いはカルボキシル末端のアミノ酸, マンノース残基に結合している分子および脂質部分の細かな性質などである.
- 発作性夜間血色素尿症(PNH)型赤血球では, GIP(Glycosylphosphatidylinositol)アンカーにN-aアセチルグルコサミンを転移する第1ステップの酵素を構成する7つのサブユニットのうち、触媒サブユニットとされるPIG-Aの遺伝子に後天的な造血幹細胞レベルでの変異がおこり、GPIアンカー型蛋白が合成されず、細胞膜におけるGPIアンカー型膜抗原が欠損する。
- PNHタイプ血球の検出と定量には、抗CD55および抗CD59モノクローナル抗体またはFLAERを用いたフローサイトメトリー法が推奨される。PNHタイプ好中球比率はしばしばPNHタイプ赤血球のそれより高値を示す。-->Beckman Coulter社のサイトメトリードットコム PNH型血球の高感度測定法page
- FLAER:GPIアンカータンパクに特異的に結合するaerolysinを蛍光標識した, fluorescent aerolysin(FLAER)が高感度マーカとして使われる。
AAの遺伝子変異とクローン性造血
AAでは治療抵抗例だけでなく, 免疫療法奏功例でも, 一部の経過中にMDSに移行するものがある。
AAにおいて, 約1/3の症例に経過中白血病やMDSに認められるような遺伝子変異をもつ細胞が出現することが報告された.*3
- PIGA, BCOR, BCORL1, DNMT3A, ASXL1の5個の遺伝子変異でAAの遺伝子変異の75%を占めている。
- DNMT3A, ASXL1遺伝子変異のあるAA患者さんでは, 後に白血病を発症し, 予後不良の傾向がある。
- PIGA, BCOR, BCORL1変異をもつAAでは変異細胞が徐々に消失し, 予後良好であった。
- AA患者さんにおけるこれらの遺伝子変異獲得は健康人と同様に年齢に依存していた。
骨髄不全の診断, 治療において, AAとMDSの鑑別診断は非常に重要である。クローン性造血の指標となる遺伝子変異がAAにもかなりの高頻度で認められることは、遺伝子変異の有無だけでは両者の鑑別が困難であることを示唆している。
診断実践編†
再生不良性貧血の診断基準*4
1.臨床症状として, 貧血, 出血傾向, ときに発熱を認める.
2.以下の3項目のうち, 少なくとも2つを満たす。
-1. Hb濃度: 10g/dl未満
-2. 好中球:1500/μl未満
-3. 血小板:10万/μl未満
3.汎血球減少の原因となる他の疾患を認めない.
白血病, MDS, 骨髄線維症, PNH, 巨赤芽球性貧血, 癌骨髄転移, 悪性リンパ腫, 多発骨髄腫, 脾機能亢進(肝硬変,門脈圧亢進症), 全身性エリテマトーデス, 血球貪食症候群, 感染症, etc
4.''加わると診断確実性を増す検査所見''
1)網赤血球増加がない。
2)骨髄穿刺所見(クロット含む):有核細胞は原則として減少する。減少がない場合も巨核球著減とリンパ球比率上昇がある。造血細胞異形成はみられないか顕著ではない。
3)骨髄生検で造血細胞減少がある。--->(参照) 細胞減少のパターン
4)血清鉄値上昇と不飽和鉄結合能の低下がある.
5)腰椎椎体のMRIで(腸骨も)造血組織減少と脂肪組織増加を示す所見がある;
MRIで検索すると胸腰椎や腸骨の大部分が脂肪に置きかわっていても, 骨髄検査が行われる上後腸骨棘や胸骨にのみ造血巣が残っていることがしばしばある.*5--->通常の骨髄穿刺, 生検のみで骨髄の低形成か, 正~過形成かを正確に判断することは不可能である。
1,2でAAを疑い, 3で他疾患を除外, 4により診断をさらに確実にする。
再生不良性貧血の診断は基本的に除外診断であるが, 一部にMDSと鑑別が困難な症例がある。
病理所見*6
末梢血:
赤血球大小不同, 奇形赤血球, 白血球pseudo-Pelger異常, 顆粒減少, 巨大血小板, 顆粒球系前駆細胞, 赤芽球, 芽球出現の有無などを調べる.
AAでは, 赤血球大小不同をみることはあるが特異的形態異常をしめすことはない. 上記の異形成の出現はMDSを示唆する.--->これは真ではない。要注意
- AAを含む, 自己免疫性造血不全(autoimmune hematopoietic failure;AIHF)の骨髄標本では, しばしば形態異常が認められる.
- 汎血球減少患者において, 穿刺された骨髄に細胞が多く含まれていた場合, 赤芽球を中心として形態異常がないことはほとんどない。仮にカテゴリーA+Bの異形成が10%未満であっても, MDS, またはMDS疑いと診断されてしまう。
- 免疫抑制療法で寛解するAIHFでは, 血球形態異常はしばしば認められる. 原因として, 骨髄で慢性的な免疫反応がおこり, 炎症性サイトカインの産生が持続して, 無効造血がおこるためと考えられる. ---CsA単剤で改善する軽症のAAでは, 大球性貧血, LDH, ferritinの軽度増加など無効造血・髄内溶血の所見が認められる。
- AIHFの無効造血, 骨髄細胞の異形成所見は寛解が得られた患者さんでは消失する。
- 明らかに10%を超えるカテゴリーAの異形成所見がなければ形態異常のみでAIHFと前白血病状態(MDS, etc)を区別することは不可能である。特に, 異形成の評価をできるほどの巨核球が標本上に存在しないときは, MDSと診断するべきではない。*7
骨髄塗抹・組織標本
- AAは細胞密度低下により重度低形成をしめす. 巨核球は見つけ出すことが困難(あるいは,なし).
- 有核細胞数減少, 特に成熟顆粒球, 赤芽球, 巨核球は著明に減少している. リンパ球・形質細胞が相対的に増加.
- mast cellの増加も特徴のひとつであるが, MDSでもみられることがある.
- 基本的に3系統造血細胞に異形成はみられないが, 赤芽球が残っている場合には,しばしば軽度異形成が認められる.(WHOの基準では10%未満の異形成までは許容される)
- 低形成MDSでは, 低形成の程度はAAに比して軽度であり赤芽球, 顆粒球系細胞がみられ, 巨核球も少数みられることがある. 赤芽球には巨核芽球様変化, 多核赤芽球, 核分葉, 核間架橋, 顆粒球系では顆粒消失/減少, pseudo-Pelger核異常, 巨大桿状核球, 核細胞成熟不一致, 巨核球では, microMgk, 単核/小型/分離核Mgkなど異形成所見が認められる.
- p53染色: 少数であっても, 明確な陽性細胞があれば,有意と評価しMDSとする.
- CD34: 陽性細胞が1%未満の場合は有意ではない. MDSの所見があるとき, 5-10%はRAEB-1, 10-19%ではRAEB-2, 20%以上ではacute leukaemiaとされる.
- CD42b: 巨核球, 血小板がそまる. microMgkは顆粒球サイズのものまでとし(定義では前骨髄球サイズ以下であるが,CD42bではかなり小型の芽球様形態を示す細胞まで染まるため), 単核でmicroMgkよりサイズのやや大きいものは単核小型巨核球とする. MDSでは成熟大型Mgkと比べ単核小型巨核球が多い.
- HbF: 新生児期に赤血球で強く発現し, 少数の赤芽球にも散在性にHbFの発現が見られる. 1歳をこえて, HbFを発現することは病的と考えられる. MDSではHbFを発現した赤芽球が集簇性に観察される特徴がある.
AAの診断基準として,巨核球が全くみられない, リンパ球が主体で成熟顆粒球が高度に減少している, 異形成や芽球増加はない, 免疫染色でp53陽性細胞が認められない. 以上の所見が満たされれば, 細胞密度にかかわらずAAと診断される.*8
非典型的な血液骨髄所見を示す非定型的AA
末梢血ではAAを疑うが, 骨髄穿刺/生検で骨髄が低形成をしめさないAA症例がある。
- AAであっても胸骨骨髄は比較的細胞髄が維持されやすい。
- 腸骨骨髄であっても造血巣が島状に遺残することがあり, たまたまその部位を穿刺/生検すると正形成, ときに過形成にすら見えることがある。その場合, 細胞密度が保たれていてもAAではMgkの数が著減している。
- 造血細胞密度の分布をただしく評価するためには骨髄生検が適切であり, さらにMRIにより脊椎/腸骨の骨髄密度を広範囲に評価することが必要な場合がある。
核型異常を呈するAA
- 病状の進行に伴う極度な造血細胞減少がおこるとoligo clonalな造血に依存し, このclonに核型異常が出現すると染色体検査で異常クローンとして検出されクローン性造血が証明されてMDSと診断される可能性がでてくる。
- この場合もAAの病像を呈すれば,核型異常を伴うAAとみなすのが一般的。*9
- 典型的なAAでも4-11%に核型異常が検出される. trisomy8が検出された場合, 遺伝子的不安定性とするとらえかたもあるが, むしろ免疫抑制療法に感受性のあるMDSとする傾向にある*10*11
- これに対して, 有意な 7番染色体の欠失性変異を検出する場合はMDS(この場合, MDS-unclassifiable)またはMDSへの移行を考える.
多様な病理所見を呈するMDS
低形成MDS
- MDSのおよそ数十%は低形成の定義(年齢70歳未満で骨髄細胞密度<30%, 70歳以上で<20%)からhypoplastic MDSとされる.
- いずれかの造血細胞系に10%をこえる異形成があれば, AAを除外し, 芽球比率により20%未満で低形成白血病と区別する.
- 低形成MDSでは異常クローンの無効造血に加えて, AAに類似する正常造血抑制機構の存在が想定されている。*12
異形成の乏しいMDS
- 典型的な異形成所見に乏しい場合にはMDSの診断に苦慮する. 核型異常があればMDSの根拠になりうるが, WHO定義によると異形成所見が弱い場合, -Y, trisomy 8, del(20)(q)の単独異常のみでMDSと診断してはいけない。
- MDSにふさわしい核型異常であれば, 異形成所見が弱くても, MDS(MDS-unclassifiable)の範疇に入るとされる.
AAとMDSの鑑別診断†
AAの骨髄細胞は絶対数は減少しているが, 個々の細胞の表面抗原発現パターンは基本的に正常骨髄細胞とかわらない。
- MDSでは, 表面抗原のabberant expressionがしばしば指摘される。
- MDSの異常phenotypeをFCMで検出するための国際的標準化が提唱されている*13*14*15
- 骨髄組織免疫染色では,p53および HbF陽性度が高い場合, AAではなく, 低形成MDSまたは低形成性白血病が示唆される。*16*17
PNH型血球
- GPIアンカー型タンパク質欠損血球= PNH型血球, の標的表面分子(CD16, CD55,CD59, CD66bなど)が欠損した血球はAA,一部のMDS症例の末梢血内にも認められることが知られており, AA, PNH, MDSの相互移行が注目されてきた.*9
- PNH形質の赤血球や顆粒球は健常者においてもごく少数存在する. これらは造血前駆細胞に由来する血球であるため短命であり、同じクローンが検出され続けることはない*18*19.
- 再生不良性貧血患者においてPNHタイプ血球の増加がしばしばみられるのは、PNH型の造血幹細胞の増殖能力が正常形質の造血幹細胞に比べて高いためではなく, GPIアンカー型の膜蛋白を欠失しているPNHタイプの造血幹細胞が免疫学的な攻撃を受けにくいためと考えられている*20*21.
- 高感度FCM法によれば*22*23好中球はSCClow, CD11b+, CD55-, CD59-分画を, 赤血球はglycophorinA+, CD55-, CD59-分画を抽出してcut-off値0.003%という高精度でPNH型血球の有無を判定すると, AAの約60%, MDSの約20%がPNH型血球陽性であり, これら症例では, 免疫抑制療法の効果が期待できることが見つけられた.
病型はRA, 血小板減少が著明, 異形成には乏しく, 核型異常の頻度が高い.
HLA-DR15(DRB1*1501)保有率が高い
予後は良好である.
- PNH型血球陽性MDSはクローン性腫瘍性性格が希薄で, むしろAAと同様に, 免疫学的機序による良性骨髄不全症候群とするべきで,予後と治療方針の違いを考えると造血腫瘍の真のMDSとは本来明確に区別することが必要である。*22*23
染色体分析・クロナリティ解析
- 骨髄染色体異常は一般にクローン性造血を意味することから,必ずしもAAを否定する絶対的根拠にはならない.しかしながら, MDSの重大な生物学的異常のひとつ, またはAAとMDSの鑑別点として重要視されている。
- FISH法を用いると, monosomy7やtrisomy 8などのaneuploidy検出率が倍増しその結果, AAとされていた症例中にも経過中に遺伝子的不安定性を呈する症例が見つけられた.*24
- single nucleotide polymorphism array (SNP-array)をG-bandingに併用するとAA 93例, 低形成MDS 24例のうち, uniparental disomy (UPD)を含めると, AAの19%, 低形成MDSの54%にクローン性変化が認められた. *25
- 初診時から持続性にクローン性変化が認められる場合はMDSの可能性が強く示唆される。monosomy 7陽性は重大な異常であるが, trisomy 8は腫瘍性というよりは, 著しい造血細胞減少のためおこるoligoclonalな造血の結果とも考えられる*25
- AA経過中にポリクロナールからモノクロナールへ変化した症例や最初からモノクロナールパターンを示している症例では, G-CSF投与は厳重に注意するべきである.*26
血液病理学的観点からの鑑別-低形成MDSとAAの鑑別手順*27
- 末梢血芽球が出現していればAAを除外する
- pseudo-Perger核または, 脱顆粒好中球が10%以上あれば, AAではなく, MDSを考える。
- 骨髄で好中球系, 巨核球系に異形成があれば, AAを否定できる.
- 赤芽球系の異形成のみの場合, かなり明瞭でなければAAは否定できないが, ringed sideroblastが有意に存在すれば,AAを否定する.
- 骨髄生検で少なくとも3ヶ所以上, 幼若細胞集簇がある場合(abnormal localization of immature myeloid precursors:ALIP陽性)はhigh-risk MDSを考える.
- 芽球比率5%は鑑別上重要な閾値であるが, 低形成骨髄の場合, 骨髄塗抹では正確な算定が困難なため, 骨髄組織(生検標本)でCD34,C-kit免疫染色をおこなうことが望ましい.
- karyotypeでchromosome 5やchromosome 7異常があれば重要であるが, 低形成骨髄の場合, FISH法が有用である。時には末梢血FISHが鑑別に役立つ.
- PNH型血球の存在は鑑別というより病態(免疫学的背景や異常)を考えるうえで意義がある.-->PNH型血球が検出されれば, 確実に免疫病態が存在する(/ 存在していた)と判断できる*23.
骨髄低形成, 細胞異形成(形態異常), 染色体異常を示さない汎血球減少症: 境界型骨髄不全の鑑別†
非重症のAAと異形成所見の軽度な, 低リスクMDSは, その鑑別が困難なことがある.しかし, 腫瘍性(クローン性遺伝子異常)ではなく, 免疫異常が関与しているAA(良性造血障害)を早期に見つけだすことが治療において絶対に必要となる.
免疫病態の有無判定は, 第一に, 血球減少のパターンから推察が可能である*23
- 血小板減少の程度が強いと免疫の関与を疑う.
- 血小板数が正常近くに保たれていながら, 好中球減少や, 貧血がある場合は最初から免疫病態関与を否定できる. 血小板減少程度 >> 好中球減少/貧血.
- 血小板, Mgkの絶対数変化を調べるのは困難な場合が多い. そのときには血漿TPO(thrombopoietin)測定が役に立つ.
- 血漿TPO高値(≧320pg/mL )であれば(巨核球は減少しており), 免疫の関与が強く疑われる.)
- 血漿TPO高値(Mgk減少)には薬剤性やウイルスの関与も含まれるが, PNH型血球の存在, HLA-Aアレル欠失白血球が検出されれば, 確実に免疫病態が存在する(/ 存在していた)と判断できる*23.
AA治療編†
再生不良性貧血の治療は, 造血回復をめざす治療と輸血, サイトカイン, 鉄キレート療法などの支持療法がある。
造血回復治療
- 免疫抑制療法:抗胸腺細胞グロブリン(antithymocyte globulin: ATG)とcyclosporine A(CyA)の併用療法
- 同種造血幹細胞移植; 造血能の完全回復(治癒)がみこめるが, 移植関連の合併症による死亡の危険がある。
- タンパク同化ホルモン; 上記2つの治療に比べ認容性は優るが効果は劣る.
再生不良性貧血治療では, 有効性と安全性を考慮し, 個々の症例の重症度*4および年齢に応じてこれらの中から治療法を選択する.
やや重症~最重症, 輸血依存性AA症例の治療
1.40歳未満で, HLA一致同胞ドナーが得られる場合は骨髄移植を第一の治療法として考慮する。
- HLA一致同胞ドナーが得られる場合,診断後すみやかに骨髄移植を行うと80-90%の長期生存率が期待できる。*28*29*30 これは免疫抑制療法による無再発生存率(50%)より良好な結果.
- 免疫抑制療法の既治療例や罹患期間の長い例では移植の成績が劣る.*29*31*32
- AAの骨髄移植治療において幹細胞ソースは末梢血幹細胞よりも骨髄由来幹細胞を選択する. AAではGVHDに関連するGVL効果はまったく必要ないので, 可能な限りGVHDを避ける. 骨髄幹細胞のほうが慢性GVHDのリスクが低く, 実際に生存率がすぐれていることが報告されている.*33*34
- 末梢血幹細胞を用いるのは, 1)donarの骨髄採取が困難, 2)donarの体重がrecepientに比べ著しく軽い, 3)移植後早期に重症感染症を発症する可能性が極めて高い場合に考慮する. *4
2.最重症型で感染症を合併し, G-CSFの投与でも好中球0の状態が続き感染症をコントロールできない場合は顆粒球輸血を行い感染症を治癒させて*4*35から, 非骨髄破壊的前処置をもちいる移植を考慮する. *4*36
- 前処置はCyA+ATGあるいは, CyA+ATG+フルダラビン. 輸血量が多い症例は全身照射2Gy追加を考慮する.*4*37
- 全身照射を行わない場合は妊孕性は保たれる.
- GVHD予防のCyA投与は9ヶ月間持続し, 3ヶ月以上かけて漸減中止する. 混合キメラの場合やrecepient細胞の比率が増加する場合は, CyAの減量, 中止をすべきではない.*38*36
3. HLA一致同胞ドナーがえられない場合,あるいは40歳以上の場合はATG+CyA併用の免疫抑制療法を第一選択とする。
- 免疫抑制療法の奏功率は60-80%,5年生存率は75-85%である.*39*29
- 晩期合併症リスクは11年後の時点でMDSあるいはAMLが8%, 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)10%, 固形腫瘍11%.*40*41
ATG:antithymocyte globulin.
- Matheらの骨髄移植にATG単独前処置をおこない自己造血が回復した症例報告*42*43がきっかけとなった.
- 抗リンパ球グロブリンともよばれ, ヒト胎児胸腺細胞や胸部手術時に胸管から採取したヒトリンパ球, ヒトTリンパ芽球細胞株などを用いてウマあるいはウサギを免疫して得られたポリクロナール抗体(現在ウマATGは日本で入手不可)
- AAにはCyclosporinA(CyA)との併用が単独投与よりも無イベント生存率, 奏功率にすぐれている. 奏功率は6ヶ月時点で65% vs 31%.
- アレルギー性副作用(投与ごく初期の悪寒, 発熱, 発疹, 血圧変動, 体液貯留)はほとんど必発. 血清病がATG投与開始7-14日後におこることがあり副腎皮質ホルモンの投与をおこなう。(ATG投与は入院でおこない血清病発症の期間である1ヶ月は入院する)
- cyclosporinAの経口投与は5mg/kg/dayで開始, 血中CyAトラフレベル150-250μg/lを目標に血圧・腎機能モニターを続けながら投与量を調節する. 投与はすくなくとも6ヶ月つづけ, 6ヶ月間投与後, 腎毒性, 高血圧, 歯肉肥厚, 免疫抑制によるリスクを考慮し, 早急に減量中止したほうがよい.急速な減量は再発率が有意に高くなるとされ, 以前は, 3ヶ月ごとに25mgなど、非常に緩徐な減量が推奨されていた*44*45. しかしNIHからは, 急速減量と緩徐な減量の間に差がなかったという報告がされた. *46
- ATG投与後3ヶ月で効果が認められない場合, タンパク同化ホルモン投与を併用する。女性の重症例でATG単独投与よりも奏功率が高いとされている.*47
トラフ値(トラフ濃度, 定常状態最低血中濃度, trough) 日本薬学会HP 薬学用語解説から.
薬物を反復投与したときの定常状態における最低血中薬物濃度。薬の血中濃度は、吸収後に最高濃度となり、平衡状態に達した後、時間の経過とともに代謝・排泄によって一定の速度で減少する。従ってトラフ値は投与直前値となる。
血中濃度の経時的推移の中で、変動の小さい時点であり、血中濃度のモニタリングに適している。薬効発現に一定以上の血中濃度の維持が必要な場合の良い指標となる。また、トラフ濃度を一定濃度以下に保つことで、アミノグリコシド系抗生物質の腎毒性など、副作用発現防止の指標としても用いられる。(2007.8.31 掲載 日本薬学会HP)