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赤血球系造血細胞 erythroid cells

赤血球系の細胞は赤芽球系前駆細胞→前赤芽球→赤芽球→網赤血球→赤血球へと分化*1する

赤血球系の細胞は骨髄で3-4日増殖し(分裂能を有するのは前赤芽球から多染性赤芽球まで), 成熟のため1-2日骨髄にとどまり,網赤血球の形で末梢血に放出される。網赤血球は正常では赤血球の1%ほど (基準値 0.2- 2.6%)[ ‰では2-26]

赤芽球系前駆細胞

骨髄球系共通前駆細胞から前赤芽球までは特異的なマーカがなく形態的にも芽球様を示し他の系統の前駆細胞と区別することは困難であった.コロニーアッセイ法は, この段階の前駆細胞の種類および数を判断することができた。

コロニーアッセイ法により赤芽球性前駆細胞には2種類あることがわかった

赤芽球系前駆細胞同定 up to date

現在は, multi-color FACSと新規抗体により, 赤芽球系前駆細胞の同定がおこなわれるようになった.*2

森らは, ヒト造血システムにおいて, CD71とCD105を追加したmulti-color FACSにより骨髄中に赤芽球系統特異的前駆細胞(erythroid progenitor;EP*3)を単離し, その分化経路/分化機構について検討している.

revised-human EP.jpg

ヒトEP(erythroid-progenitor)=CD71+ CD105+ MEPの分化経路

前赤芽球 proerythroblasts

 
erythroblast.jpg

赤芽球 erythroblasts

 

赤芽球の形態, 特徴--> &ref(): File not found: "erythroblasts.pdf" at page "Erythroid cells"; smearの形態.

網赤血球 reticulocytes

reticulocyte.jpg
 

網赤血球は成熟赤血球より大きく8-10μmでGiemsaやwright染色ではやや青みがかった多染性の赤血球として観察できる. 生体外にとりだした網赤血球の試験管内半生存時間は4.8±1.9時間といわれる.

生体外の生きたままの赤血球を染色する超生体染色によりRNAを含むミクロソームが網状顆粒質(substantia granulofilamentosa)として細胞質内に染色, 同定される.

網状赤血球の増減は骨髄造血状態を評価するよい指標でありAA, 抗白血病薬投与後, 重症感染症極期など造血低下の時は減少し, 鉄欠乏性貧血, 出血, 溶血性貧血などでは増加する.

鉄欠乏性貧血や巨赤芽球性貧血治療時にはHbの増加に先行して一過性に増加する. 治療効果ありの手がかりになる.

正常値は 正常成人で 5-10‰, 新生児生後1週間以内では2-56‰(平均21‰)

成人では1日に2000億個の赤血球が骨髄で産生され全身に絶え間なく酸素を供給している.

 

Erythroblastic island 赤芽球血島

 

AML-M7の骨髄生検タッチ標本にみられたErythroblastic island.

 

赤芽球血島:Erythroblastic island

 

赤血球造血-赤芽球の分化と増殖

第13回骨髄病理研究会「赤芽球」東北大学大学院医学系研究科 張替 秀郎先生の講演より

3factors of erythropoiesis.jpg
 

赤血球造血 erythropoiesisの重要な3つの因子

1. 赤血球造血の内的因子---GATA1, GATA2転写因子とその複合体が主役

2. 赤血球造血の外的因子---erythropoietinが主役

3. globin量を調節してヘム・グロビンが正確に同量の四量体を形成する---Hemeが主役

以上の3つの因子が赤血球造血に重要な役割を果たしている。

赤血球造血の内的因子

GATA転写因子群 GATA transcription factors

GATA転写因子は,GATA-1からGATA-6の6種類が報告されている.

GATA switch

造血前駆細胞においてGATA-2は自分自身を活性化するとともにGATA-1を活性化する. 一方GATA-1はGATA-2の発現を抑制し赤血球分化の過程においてGATA-2からGATA-1への発現移行が行われる. *8*9*10

GATA1control.jpg

GATA1の機能と複合体

GATA1は赤血球造血に必須の転写因子.

transferrin receptor, ferritin, mitoferrin, すべてのヘム合成系遺伝子, グロビン,赤血球膜成分,エリスロポイエチン受容体, etc すべての赤血球関連遺伝子発現がGATA1の制御下にある.
GATA1は赤血球が赤血球らしくなるため遺伝子の転写をになっているマスター遺伝子である.

GATA転写因子は単独の転写因子のみで赤血球の遺伝子を転写できるわけではなくGATA転写因子が中心となり複合体をつくりこの複合体が赤血球の特異的遺伝子の転写をになっている

複合体中のETO2, LMO2の働き*11

ETO-2; ETO familyに属する核タンパク質*12

LMO-2*13

複合体はGATA1を中心に形成されているが, LMO2が複合体をのりづけしたり, 転写刺激が必要ない場合はETO2が入ってきて転写を抑制するように働く*11.

 

GATA1-SLC.jpg GATA1complex.jpg

 
 

赤血球造血の外的因子 Erythropoietin

 
Epo-erythroid cells.jpg

Erythropoietin; 外からの赤血球造血のマスター因子.

Epoは糖鎖を豊富に含む34kDaの糖タンパク質で, 赤芽球系前駆細胞やヘモグロビン合成をはじめる前の赤芽球に作用して赤血球造血を亢進させる.*14

神経系細胞において細胞保護作用が認められている.*14

 

Renal EPO-producing cells(REP細胞)

今までは腎臓のどの細胞がEPOをつくるかわかってなかったがトランスジェニックマウスの実験系で 間質細胞の線維芽細胞様細胞が産生していることが報告された. *15

 

なぜ酸素分圧が下がると(貧血), EPOが産生されるのか

健康な成人骨髄中酸素濃度は 7%で, 貧血になると1%まで低下することが報告されている. 低酸素により活性化される転写因子HIF(hypoxia-induced factor)により腎臓でのエリスロポエチン産生が増加し, 赤芽球系後期前駆細胞(CFU-E)の増殖分化が促進される.-->HIF

 
 
 
 
 
 
 

赤血球 erythrocytes

赤血球は体細胞にある核や細胞小器官を備えていません.線維性蛋白で裏打ちされた脂質皮膜でヘモグロビンなどを含む液体を包んだ袋状の細胞です.
直径約8μmで両面中央のくぼんだ円盤形をしています。この形は球形のような自然な形ではなく, 形態を保つために赤血球はエネルギーを必要とします。

Redcell.png
 
RCM02.jpg
 

赤血球膜の電顕写真
脂質二重膜直下の白矢印で示した低電子密度の薄い層はスペクトリン線維などから形成されている赤血球膜骨格の部分

RBCmemb02.png

赤血球膜の構造

赤血球膜骨格

赤血球膜はスペクトリンspectrinと呼ばれる線維蛋白のフィラメントが六角形の網目状構造を形成し立体的に円盤形の網目かごをつくり, その外側に脂質の皮膜をかぶせて内容の高濃度ヘモグロビンがもれないようにしている。 六角形の網目の骨格をなすスペクトリンは四量体でフィラメントを作っている。フィラメントの中央にはアンキリンankyrinと呼ばれる球状蛋白が, 両端にはアクチンや4.1蛋白というアンカー蛋白質が付着している。

スペクトリンは線維状蛋白でα鎖とβ鎖が反対方向にゆるくコイル状に寄り添い側面で非共有結合してヘテロ二量体をつくる。二量体の頭部ではα鎖とβ鎖が結合して四量体となり網目状膜骨格の基本単位になる。αβ鎖はともに106個のアミノ酸からできた三つ折れの逆平行αへリックスを基本単位とする繰り返し構造が連続しておりスペクトリンの屈伸性を保持している。

脂質皮膜

脂質皮膜成分はリン脂質, 遊離コレステロールなどで疎水性部分と親水性の部分の流動性二重膜構造をとる。膜には内在性蛋白が膜を貫通したり、埋め込まれたり、共有結合をして存在する。内在性蛋白にはバンド3, グリコホリンglycophorins, ATPaseなどがある。


*1  幼若な細胞が将来何になるかわからない段階から特定の機能をもつ成熟細胞になっていく過程を分化という
*2  森康雄ほか ヒト赤芽球系特異的前駆細胞の同定 臨床血液 2016; 57: 585-591
*3  Mori Y, et al. Prospective isolation of human erythroid lineage-committed progenitors. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Aug 4;112(31):9638-43.PMID:26195758
*4  Wood B. Multicolor immunophenotyping: human immune system hematopoiesis. Methods Cell Biol. 2004;75:559-76.PMID:15603442
*5  張替 秀郎 赤血球の産生と崩壊まで. 赤血球造血の基礎知識. 特集貧血と多血症:診断と治療の進歩 日内会誌 2006; 95(10) 1984-87
*6  Tsai FY, et al. An early hematopoietic defect in mice lacking the transcription factor GATA-2 Nature 1994; 371: 221-226
*7  Ting CN, et al. Transcription factor GATA-3 is required for development of the T-cell lineage.Nature. 1996 Dec 5;384(6608):474-8.
*8  Bresnick EH, et al. GATA switches as developmental drivers. J Biol Chem. 2010;285: 31087-31093.
*9  Bresnick EH, et al. Developmental control via GATA factor interplay at chromatin domains. J Cell Physiol. 2005;205: 1-9.
*10  Kaneko H, et al. GATA factor switching during erythroid differentiation. Curr Opin Hematol. 2010; 17: 163-168.
*11  Fujiwara T et al. Building multifunctionality into a complex containing master regulators of hematopoiesis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Nov 23;107(47):20429-34.
*12  Fujiwara T et al. Role of transcriptional corepressor ETO2 in erythroid cells. Exp Hematol. 2013 Mar;41(3):303-15.e1.
*13  Inoue A, et al.Elucidation of the role of LMO2 in human erythroid cells. Exp Hematol. 2013 Dec;41(12):1062-76.e1.
*14  Siren AL, et al. Erythropoietin prevents neuronal apoptosis after cerebral ischemia and metabolic stress. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Mar 27;98(7):4044-9.
*15  Yamazaki S,et al A mouse model of adult-onset anaemia due to erythropoietin deficiency. Nat Commun. 2013;4:1950.

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