英国人ウイルス学者 Michael Anthony Epsteinとオーストラリア人Yvonne M. Barr(右写真)により1964年, バーキットリンパ腫培養細胞からヒトにがんを起こすウイルスとして発見された.
EBVはヘルペスウイルス科, γヘルペス亜科(リンパ増殖性グループ)に属するウイルスで同亜科にはHHV8が含まれる。EBVはヒトヘルペスウイルス4(HHV4)とも呼ばれる.
EBVのビリオンvirionはリポタンパク質のエンベロープenvelopeで包まれた, 正二十面体のカプシドcapsidよりなる. envelopeとカプシドの間には無定型のタンパク質性物質(テグメントtegment)が存在しウイルスにコードされた酵素や感染サイクル開始に不可欠な転写因子を含んでいるがポリメラーゼは含まない.
EBVのゲノムは172kbpの線状2本鎖DNA分子である. ウイルス粒子中では, 2本の線状ゲノムとして存在するが, EBVの細胞感染にともない環状化してエピゾームとなり核において染色体に付着して共存する.
EBVゲノムは,80種類をこえるウイルス遺伝子と, 40個をこえるmicroRNAやEBERなどのnon-coding RNAをもつ. 塩基配列からはEBV type1とEBV type2に分類される.
世界中に分布し, 日本人では5歳までに50%が感染, 20歳以上の感染率は90%以上になる。思春期の初感染は伝染性単核球症をおこす.
EBVのウイルス複製の最初の場は口腔咽頭粘膜上皮で引き続きそのうちのいくつかの子ウイルスがリンパ球に感染する.
エンベロープ上に発現する糖タンパク質gp350/220が口腔咽頭領域のBリンパ球表面CD21/CR2(補体C3dレセプター)に結合, エンドサイトーシスによりリンパ球内に侵入する.
B細胞への感染は不完全型の感染であり, 限定された初期タンパクのみが合成される。
B細胞への感染はB細胞増殖因子を含む多くの細胞性リンホカインの誘導をおこし, 他のヘルペスウイルスとは異なりEBV初期遺伝子は細胞死ではなく, 細胞の増殖と不死化を引き起こす.
EBV感染によるポリクロナールなB細胞増殖は非特異的IgG, IgA, IgM増加をおこす. IgMクラスにはヒツジと馬の赤血球を凝集する, 異好抗体が存在する.(古典的な伝染性単核球症の検査)
宿主細胞内でEBVは, 盛んに感染性ウイルス粒子を産生する溶解感染(lytic infection)か, ウイルス粒子を産生しない,限定的なEBV遺伝子のみを発現する潜伏感染(latent infection)かの状態となる.
主にメモリーBリンパ球に生涯にわたり潜伏感染しているが, 通常ウイルス粒子は産生せず, EBV抗原発現も低値のため宿主の免疫監視機構をのがれて潜伏感染を維持する.
初感染時あるいは再活性化においては感染性ウイルス粒子を産生し溶解感染の状態となり,ウイルスを含む唾液と密接に接触して感染する.
EBVは宿主細胞内で潜伏感染と溶解感染(=ウイルス産生感染)の2つのうち, いずれかの状態をとる.
潜伏感染;
再活性化: 潜伏感染から溶解感染(ウイルス産生感染)への切り替えを再活性化という.
再活性化/ウイルス溶解感染の進行
膜タンパク質: latent membrane protein(LMP)-1, LMP-2A, LMP-2B
核タンパク質: EBV associated nuclear antigen (EBNA)-1, EBNA-2, EBNA-3A, 3B, 3C, EBNA-LP
non-coding RNA: EBV-encoded small RNAs (EBERs), BamHI A rightward transcripts (BARTs), microRNAs
免疫監視機構のないin vitroの細胞株や, 高度の免疫不全状態である移植後リンパ増殖疾患では, 発現するEBウイルス遺伝子が多く免疫源性の高いIII型潜伏感染でも腫瘍細胞が増殖できる.
EBVはin vitroで, B細胞を無限増殖可能なリンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell line:LCL)へとtransformする活性をもつ.
正常免疫の宿主生体内では, EBNA3群が細胞障害性T cellの標的となり, 生体内から排除される.
I型, Ⅱ型潜伏感染をとる腫瘍性疾患では, EBウイルス感染腫瘍細胞がウイルスタンパク発現を抑制し, 免疫監視機構から逃れ, 一部のBリンパ球が生き残り, 長期生存するなかで遺伝子変異を蓄積し, 腫瘍化すると考えられる.
EBVの膜タンパク質の発癌機構
LMP1
LMP2A
EBNA1
EBER; EBVのncRNAによる発癌機構*7
EBV陽性 T,NK細胞腫瘍
1. extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type (ENKL)-->症例のページ
2. aggressive NK-cell leukaemia-->症例のページ
3. EBV-positive T- or NK-cell lymphoproliferative disorders*8
- chronic active EBV infection(慢性活動性EBV感染症)
- hypersensitivity to mosquito bites(蚊アレルギー)
- hydroa vacciniforme-like eruption(種痘様水疱症)
- EBV-positive hemophagocytic lymphohistiocytosis
4. peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specific (PTCL-NOS); cytotoxic moleculesの発現, 節性病変の存在, CD56発現を欠く(陰性), TCR gene再構成ありから, ENKLと鑑別する.
1978年フランスのVirelizierらにより, IM様の炎症症状が慢性的に持続する疾患として報告され, 慢性化したIMと考えられて, chronic active EBV infection(CAEBV)と名づけられた.*9
1988年, Jonesら*10により, T細胞にEBVが感染しクロナールに増殖した症例が報告されて以来, 同様の報告が日本を始め, 東アジアから相次ぎ, 疾患は腫瘍性として認知され, 2008年WHO分類では, T細胞への感染例をT細胞性腫瘍の1つとして分類, 記載された.さらに, T細胞だけではなく, NK細胞への感染例も同様の臨床経過をとることが報告されている*8。
特徴的な皮膚症状を示す hypersensitivity to mosquito bites(蚊アレルギー), hydroa vacciniforme-like eruption(種痘様水疱症)の2疾患も, EBVがT細胞あるいはNK細胞に感染し, クローナルな増殖をし経過中にリンパ腫を発症するなどCAEBVと同様の経過をとることより, これらを1つの疾患単位として統一し, EBV-associated T or NK-cell lymphoproliferative disorders(EBV-T/NK-LPDs)とすることが提案されている。
EBV-T/NK-LPDsの頻度は, H21年 「慢性活動性EBウイルス感染症の実態解明と診断法確立に関する研究」報告書によれば, 2005-2009年, 新規CAEBV患者数は, 平均年23.8人.
小児疾患とされているが, 疾患概念の浸透が進み, 50%以上を成人が占めるようになり, 80歳高齢者例も報告されている。
EBV-T/NK-LPDsの症状
- 強い炎症の持続, EBV感染細胞の増殖と浸潤, 両者による臓器障害が主な臨床所見.
- 腫瘍であるが腫瘤形成はまれ.
- 最多の症状は発熱. 他に, 多発リンパ節腫張, 肝脾腫をともなう肝障害.
- 血管炎をおこし, これによる臓器障害, ぶどう膜炎合併あり。
- EBV感染, 増殖 T or NK細胞は, リンパ系組織だけでなく, 皮膚, 肺, 心筋, 腸管, 中枢および末梢神経などあらゆる臓器が標的になる.
- 患者さんが受診する臨床科は各科にわたり、当該疾患を認識し早期診断治療につとめる必要がある.
- hydroa vacciniforme-like eruption(種痘様水疱症)は小児, 思春期の患者さんの日光暴露部位に嚢胞性丘疹を繰り返す. 発熱, るい痩, リンパ節腫大, 肝脾腫など全身症状を呈する例が報告されている.*11*12*13
- 蚊アレルギーは, ヒトスジシマカ(一般にヤブ蚊と呼ばれる)の唾液成分にたいするEBV感染T/NK細胞の過剰な反応が原因とされる*14. ヒトスジシマカにさされたあと高熱を発し刺された跡は潰瘍化, 約1ヶ月をかけて瘢痕化する。皮膚症状は小児, 若年例に多く思春期に軽快するが感染細胞は除去されない。
EBV-T/NK-LPDsの診断
まれで知名度の低い疾患であること, 腫瘤形成が少ないこと, 浸潤細胞は異型度が低く病理診断が困難なことなどから診断が困難である。Araiらの成人例解析では, 発症から治療開始まで平均20ヶ月と長い*15
発熱を伴う原因不明の慢性炎症, 血球貪食症候群をみたら本疾患を疑ってみることが大事.
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Step1: EBV血清抗体価
- VCA-IgGが陽性(≧ x640)で, 既感染であることを確認する
- 感染急性期に陽性を示す EA-IgGが持続陽性(≧ x160)を示す.
- EBNA抗体は低値ないし陰性とされるが特異的ではない。
- 抗VCA-IgMは陰性. これが陽性ならばinfectiou mononucleosisとなる.
Step2: ウイルスDNA量測定: VCA-IgG+, EA-IgG+ かつIMが否定できたらStep2を行う。
- EBV感染細胞を含むよう, 全血か単核細胞分画でおこなう.
- EBV-T/NK LPDsでは x102.5; copies/μgDNA( 316.22 copies/ μgDNA) 以上をしめすことが診断に必須(検査は保険適応外)
Step3 感染細胞の同定: EBV感染細胞がTまたはNK細胞であることを証明する.
- 病理検体でEBER-ISHと免疫染色をおこなう.
- 末梢血リンパ球をFCMあるいは抗体磁気ビーズをもちいてT or NK細胞分画に分離し, EBV-DNA量を測定する.