#author("2025-02-14T16:52:45+09:00","","")
#author("2025-02-14T16:55:31+09:00","","")
[[Wikipathologica-KDP]]

[[静岡病理医会]]

//[[病理アトラス--desmoplastic small round cell tumor]]

*desmoplastic small round cell tumor, S状結腸生検組織--SPS229-Case07 [#jc2a94bc]
浜松医大病院病理部 馬場聡, 土田孝 ほか

''35歳男性''~

#ref(229SPS-07CT01.jpg,around,left)
#ref(229SPS-07CT02.jpg,around,left)
腹膜播種病変があり, S状結腸の病変から採取された生検組織に異型細胞増殖を認め, 直腸/大腸癌腹膜播種との鑑別が難しかった症例. 35歳で癌としては若年であった。~
&color(red){''血清CA125が上昇''};していた。(925U/ml, normal:0-35U/ml), NSEもわずかに上昇(17.4, normal range; 0-12)

CT所見: 大量腹水と腹膜の凹凸不整があり腹膜播種癌性腹膜炎に矛盾しない。直腸壁の不整肥厚は原発性直腸癌の所見であってよい。~
この他, 両肺野には多数の小結節が認められ肺転移と考えられた。左頸部, 縦隔, 腎門部にはリンパ節腫大を認めた。


#clear
#br
***S状結腸の病変 [#b6ae8a31]

#gallery(left,nowrap,noadd){{

229SPS-07EndS.jpg>S状結腸粘膜病変
biopsyloupe01.jpg>大腸生検組織
biopsyloupe02.jpg>大腸生検組織
Lpf01.jpg>HE Lpf
Lpf02.jpg>HE Lpf
}}
内視鏡所見:直腸は壁外圧排, S状結腸には壁外からの浸潤と思われる腫瘤があり狭窄している。この部位より生検
//|#ref(229SPS-07EndS.jpg,,30%)|#ref(biopsyloupe01.jpg,,15%)|#ref(biopsyloupe02.jpg,,15%)|#ref(Lpf01.jpg,,15%)|#ref(Lpf02.jpg,,15%)|
//|CENTER:S状結腸粘膜病変|CENTER:大腸生検組織|CENTER:大腸生検組織|||
#br
#gallery(left,nowrap,noadd,noadd){{

Hpf03.jpg>腫瘍胞巣①
Hpf05.jpg>腫瘍胞巣②
Lpf02.jpg>腫瘍胞巣③
AB02.jpg>深い部分 Alcian blue
}}

''S状結腸粘膜生検組織所見:''~
粘膜筋板直下に小型胞巣を作って浸潤し炎症性の間質をともなう。
浸潤性増殖のわりに細胞は均一, そんなに異型性も強くない。apoptosisに陥った細胞が散在する。部位によっては胞巣状増殖細胞は細胞間橋がありそうな扁平上皮様に見える。深いところは線維性間質が増えてきて細胞は索状となりcarcinoidなども鑑別候補となるかもしれない。明らかな腺管形成, 粘液産生はみられない。35歳男性, わりとおとなしい扁平上皮癌様の組織か?と生検初見時に考えられた。&color(blue){desmoplasticな間質にもよく観察するとバラけた細胞異型が認められる。}; (腫瘍胞巣①, ③)

//|#ref(Hpf03.jpg,,15%)|#ref(Hpf05.jpg,,15%)|#ref(Hpf02.jpg,,15%)|#ref(AB02.jpg,,15%)|
//|CENTER:腫瘍胞巣①|CENTER:腫瘍胞巣②|CENTER:腫瘍胞巣③|CENTER:深い部分|

&color(#f8f8ff,#6a5aca){ 鑑別診断-初見時 };
-癌腫
--低分化腺癌
--(腺)扁平上皮癌
-悪性中皮腫
-カルチノイド
-胚細胞性腫瘍; 男性で腹腔内びまん性病変

***免疫染色所見 [#h6f5d6b2]

#gallery(left,nowrap,noadd){{

CK7b.jpg>CK7
c-kit02.jpg>c-KIT
vimentin02.jpg>vimentin
desmin03.jpg>desmin
}}
CK7陽性, vimentin陽性. 大腸腺癌は考えにくい結果。c-kit陽性と考えるが膜型かどうかやや不鮮明. desminが少数であるが陽性となる細胞あり。核周囲dot状といえる染まり。ひょっとすると''desmoplastic round cell tumor''ではないかと考えるようになる。
//|#ref(CK7b.jpg,,15%)|#ref(c-kit02.jpg,,15%)|#ref(vimentin02.jpg,,15%)|#ref(desmin03.jpg,,15%)|
//|CENTER:CK7|CENTER:c-kit|CENTER:vimentin|CENTER:desmin|
#br
#gallery(left,nowrap,noadd){{

WT-1C01.jpg>WT-1 C-terminus
WT-1N01.jpg>WT-1 N-terminus
CA125b.jpg>CA125
}}
[[WT-1>#c1da79d1]]はc-terminus抗体に核陽性を示すがn-terminusは陰性となりDSRCTの所見に矛盾しない。遺伝子診断はしていない。(他院標本のため)

DSRCTでは&color(red){血清CA125およびNSE};が上昇している症例が報告されている。&note{:Ordonez, N. G. and A. A. Sahin . CA 125 production in desmoplastic small round cell tumor: report of a case with elevated serum levels and prominent signet ring morphology. Hum Pathol 1998. 29:294–299.}; 本例の腫瘍細胞も免疫染色でCA125が細胞質に陽性を示した。(上図)


//|#ref(WT-1C01.jpg,,15%)|#ref(WT-1N01.jpg,,15%)|
//|CENTER:WT-1 C terminus|CENTER: WT-1 N terminus|


//#ref(CA125b.jpg,around,right,20%)



関連する論文 --->&ref(CA125andNSE.txt);

**Speaker's diagnosis [#va6d1e4c]

''Desmoplastic small round cell tumor with invasion to sigmoid colon, sigmoid colon, biopsy''


desmoplastic small round cell tumor (DSRCT)
-小児期から青年期の男性に好発する予後不良のまれな腫瘍
--平均発症年齢:24歳
--男女比: 3-4: 1

-部位:腹腔内 (腹膜, 骨盤内, 大網など)

-転移: 約半数に遠隔転移(肝, 骨, 肺など)

-血清マーカ: CA125とNSEの上昇

-組織形態:small neoplastic cell surrounded by a prominent desmoplastic stroma

-免疫染色: cytokeratins, EMA, vimentin, desmin ( negative for myogenin, myoD1)~
NSE, CA125, WT-1-carboxy terminus ( negative for WT-1-nitrogen terminus)

-染色体異常:t(11;22)(p13; q12)

-遺伝子異常と異常転写産物:EWS/WT1 gene fusion --> EWS/WT1 fusion transcript

-異常タンパク:intranuclear chimeric protein

***Discussion [#nba98691]

floar01: 診断において細胞の形態はいろいろあるので,desmoplasiaがより大切とききましたが、この症例ではどうでしょうか?

speaker: これは結腸生検組織なので, 深いところは結構desmoplasticでした。

co-worker: 自分もdesmoplasiaはよく気がつかなかった。&color(blue){間質は変だなと};はおもったんですが

floar01: 大腸癌もdesmoplatic fibrosisを胞巣周囲にともなうので, 診断は難しいと思うんですけど, 腺癌ではないとしたのは、どの所見からですか?

speaker: 腺が見つからなかったのと臨床所見が, 後から知ったんですけれどなかなかあわないと..., 腺様構造があれば腺癌でながしたかも・・

floar02: 腹水の細胞診は?

speaker: 陰性でながしてます。診断が就いた後MOCを染めるとそんなにいかつくない細胞がぱらぱら染まっていたので, たぶん中皮かなんかだと、ながしていたんですけどがん細胞が浮いていました。でもその目でみても細胞診で拾うのは無理でした。免疫染色していたらわかったかもしれないですが・・

floar03: 発生部位は直腸の漿膜寄り?

speaker: 生検はS状結腸ですが, 発生部位は正確にはわかりません。

floar03: 腹膜はどうなってますか?

speaker: 腹膜は壁側臓側とも, 画像上は不整です。病変はあったとおもいます。

floar03: 腹膜に多いですね

floar01: 以前の診断名には intra-abdominalがついてましたよね。現在はついていません。

speakr: 大部分は腹腔内ですね。報告では胸腔や泌尿生殖器などに発生するようです。全く例外的ですが

floar04: 遺伝子診断をするときは方法はどうするんですか?

floar01: 生組織があればRT-PCRが可能です。ない場合は, in-situ hybridizationができると思います。parffin切片でのCISHも可能に成っているんじゃないでしょうか. 
(paraffin組織切片でのRT-PCRも成功することがあります。)

floar04: probeは売ってますか?

floar01: SRLなどに頼めるのではないかと思いますが。たぶん。

speaker: 誤った診断で皆さんのところに紹介されることなく, 正しい診断ができてよかった例だと思います。

**Wilms' tumor gene product,Wilms' tumor protein (WT-1, WT1) [#c1da79d1]
#br

-WT1遺伝子(Gene:11p13,47.76kb,9Exon)は,小児の腎芽腫(Wilms' tumor)で変異がみられることで知られる癌抑制遺伝子のひとつである。

-WT1蛋白はWT1遺伝子がコードする蛋白(449aa)で''Znフィンガー''を4つ有し、成長因子受容体など種々の遺伝子を制御する転写因子

-泌尿生殖器の形成に関係し、精巣,卵巣,子宮,腎,中皮組織などの限定された組織で発現する。

-先天性腎不全と泌尿生殖器の形成異常を特徴とする''Denys-Drash症候群(DDS)''などの責任遺伝子とされるほか中皮腫などの疾患でも変異がみれる。

-一部のアミノ酸(250-266, 408-410)の欠失によるisoformが存在する。

-抗体にはWT1遺伝子のc末端(c-terminus)およびN末端(N-terminus)がコードする蛋白に別に反応する2種類があり&color(red){''DSRCT腫瘍細胞の核にはWT1蛋白C末端に対する抗体が陽性となる''};(clone C-19, Santa Cruzが市販されている)


-WT-1は胎児発生において中皮形成に働いている((Armstrong JF,et al. The expression of the Wilms’ tumour gene, WT1, in the developing mammalian embryo. Mech Dev 1993;40:85-97.))。Wilms tumorとmesotheliomaに発現することが多数報告されている((Little M, Wells C. A clinical overview of WT1 gene mutations.Hum Mutat 1997;9:209-25.))。

-DSRCTは中皮腫のblastic formではないかと考える説があるが, DSRCTのほとんどが, 中皮,中皮腫に陽性となるcalretininが陰性である.(陽性としてもごくごく一部である)((Doglioni C, et al. Calretinin: a novel immunocytochemical markerfor mesothelioma. Am J Surg Pathol 1996;20:1037-46.))

-WT1がDRSCTに陽性となるのは, 以前より言われているように, DSRCTのEWS-WT1キメラ遺伝子産物の発現に関連しているようである。((Gerald WL, et al. Clinical, pathologic, and molecular spectrum of tumors associated with t(11;22)(P13;q12); desmoplastic small round-cell tumor and its variants. J Clin Oncol 1998;16:3028-36.))((Barnoud R, et al. Desmoplastic small round cell tumor: RTPCRanalysis and immunohistochemical detection of theWilm’s tumor gene WT1. Pathol Res Pract 1998;194:693-700.))((Barr FG, et al. Molecular assays for chromosomal translocationsin the diagnosis of pediatric soft tissue sarcomas. JAMA1995;273:553-7.))((Charles AK, et al. Immunohistochemical detectionof the Wilm’s tumour gene WT1 in desmoplasticsmall round cell tumour. Histopathology 1997;30:312-4.))

#ref(WT-1zinc-fingers.jpg,around,80%)
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***亜鉛フィンガータンパク質 Zinc finger proteins [#d7f3d34c]

-亜鉛フィンガータンパク質は、多くの転写因子のDNA結合ドメインに存在するDNA結合モチーフの一つ。

-ヒトやマウスのゲノム解析の結果から、全ゲノム配列中で遺伝情報がコードされているタンパク質の2-3%が亜鉛フィンガーモチーフを持っており、このモチーフは極めて普遍的であることが明らかになった

-亜鉛フィンガータンパク質の一つのモチーフは''約30アミノ酸残基から構成''されており、亜鉛イオンに配位しているアミノ酸残基(配位子)の違いにより、&color(red){Cys2His2, Cys3His, Cys4 及びCys6 型};などに分類される。

-Cys2His2 型亜鉛フィンガータンパク質はなかでも,代表的な構造モチーフであり、二つのCys と二つのHis 残基が亜鉛イオンに対して四面体に配位し、その結果、N末端側の逆平行βシート、C末端側のαヘリックス(認識ヘリックス)の二次構造が誘起され、それらがコンパクトに折りたたまれて球状モチーフ(ββα構造)を形成し、DNA結合能が付与される.

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