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#author("2024-04-29T15:13:28+09:00","","")
[[Kaposi sarcoma]]

* Human herpes virus 8(HHV8)/ Kaposi sarcoma virus (KSV) [#r5edc0f6]




//#ref(HHV8 virus genomeOK.jpg,around,left,80%);
文献 &note{:片野晴隆 ヒトヘルペスウイルス8(HHV-8)の感染病理学的研究 ウイルス 2003; 53(1): 95-102};

[[Kaposi肉腫>Kaposi sarcoma]]は特徴的な臨床像や疫学的特徴から腫瘍というよりウイルスのような病原体による感染症ではないかとされ, 1994年コロンビア大学病理のChangにより通常のウイルス分離法と異なり, Kaposi肉腫から2つの遺伝子断片として発見された. &note{:Chang Y, et al. Identification of herpesvirus-like DNA sequences in AIDS-associated Kaposi's sarcoma. Science. 1994 Dec 16;266(5192):1865-9.PMID: 7997879.};

Kaposi肉腫ではエイズ合併症例以外の地中海やアフリカの症例でも, ほぼ100%このウイルスが検出された. Kaposi肉腫以外にも原発性体腔液リンパ腫(primary effusion lymphoma; PEL)にはこのウイルスが高コピー数で感染していることがわかり, リンパ腫から感染細胞株が樹立され, 1996年に全長 140kbpにおよぶウイルス全遺伝子配列が決定された.

Kaposi肉腫から発見されEBVとわずかに相同性がみつかったため 当初Kaposi肉腫関連ヒトヘルペスウイルス(Kaposi's sarcoma associated herpes virus; KSHV)と名付けられた.

その後8番目に発見されたヒトヘルペスウイルスであることより &color(blue){''human herpes virus 8 (HHV-8)''};とよばれ, この両者の名称がともに使われている.

ウイルスは感染者唾液中に多く検出されることから, &color(#c9171e){''唾液を介する粘膜感染が主な感染経路と考えられている''};.

HHV-8は多種の細胞に感染することから, 細胞表面に豊富に存在するヘパリン硫酸様分子に結合し細胞内に侵入するとかんがえられたが, HHV-8 glycoproteinB(ORF8)にRGCモチーフがみつかったことより, この部位がインテグリンα3β1(CD49c/29)と結合することが明らかにされた&note{:Akula SM,et al. Integrin alpha3beta1 (CD 49c/29) is a cellular receptor for Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus (KSHV/HHV-8) entry into the target cells. Cell. 2002 Feb 8;108(3):407-19.PMID: 11853674.};~
RGDモチーフはHHV-8に特異的な配列であり, HHV-8独自の細胞侵入経路があると考えられている.

種々の細胞に侵入が可能であるが, ヒト体内ではHHV-8ウイルスは&color(#c9171e){''B細胞に潜伏感染する.''}; 初感染では突発性発疹様の症状をおこすが無症状のことも多い.

HHV-8ウイルスの局在まで明らかにされている疾患は, &color(purple){''Kaposi肉腫, PEL, 一部のmulticentric Castleman's diseaseのほか, HHV-8関連固形リンパ腫だけ''};である.

&color(#e2041b){''移植にともないドナーから感染する可能性が報告され, レシピエントにKaposi肉腫が発症, 移植後骨髄不全の原因になることが示唆されている''};. &note{:Luppi M, et al. Bone marrow failure associated with human herpesvirus 8 infection after transplantation. N Engl J Med. 2000 Nov 9;343(19):1378-85.PMID: 11070102.};&note{:Regamey N, Tamm M, Wernli M, Witschi A, Thiel G, Cathomas G, Erb P. Transmission of human herpesvirus 8 infection from renal-transplant donors to recipients. N Engl J Med. 1998 Nov 5;339(19):1358-63.PMID: 9801396.};

細胞内感染様式は他の''ヘルペスウイルスと同様に, 潜伏感染(latent infection)と細胞溶解性/増殖性感染(lytic infection)がある''.

***Human herpes virus 8 episome&note{:Becerril S, Corchado-Cobos R, Garcia-Sancha N, et al. Viruses and Skin Cancer. Int J Mol Sci. 2021 May 20;22(10):5399.PMID: 34065594}; [#m26426be]

#ref(HHV8 virus genomeOK.jpg,around,right,80%)
HHV-8ウイルスは80個ほどのタンパクをコードしているが, ほとんどはLytic infection時のみ発現するタンパクで潜伏感染時に発現するタンパクは数種にとどまる.

Lytic proteinは発現時期により, 前初期, 初期, 後期タンパク質に分類されている. 

***HHV-8遺伝子 [#af042eaf]

[[HHV-8遺伝子:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/datasets/genome/GCF_000838265.1/]]

遺伝子全長は約170kbp程度とされ, 140.5kbpのL領域と, その両端の繰り返し配列をもつターミナルリピート(TR)からなる.

L領域には少なくとも, 87のopen reading fram(ORF)が存在し多くのタンパク質をコードしていることが明らかになった.

-ORF: あるDNA二重鎖が一連のコドン(連続した3塩基の組)によってタンパク質をコードする場合,一方向に3つ,逆方向に3つ,合計6つの読み枠(reading frame)がありうる.そのうち,実際に遺伝子としてタンパク質をコードしている読み枠のことをOpen Reading Frame(ORF)とよぶ.

HHV-8は高変異領域K1遺伝子にもとづく解析より, 大きくI - IVまたはA - Eのグループおよび1~5のサブグループに分類されている.

日本においては, I/Aおよび, II/Cが一般的. 北海道出身者ではⅢ/Dが多いと報告されている.
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''Molecular piracy(分子海賊行為)''

HHV-8が他のウイルスと最もことなる点のひとつは, その遺伝子内にIL-6, bcl-2, IRF-1, MIP1など, 細胞周期やサイトカインと類似する細胞性遺伝子ホモログが多数発見されている.これだけヒトのタンパクのホモログを豊富にもつウイルスは他にみられない.

これらの遺伝子はウイルス感染細胞に発現し,宿主本来のタンパク機能を阻害したり, 異なる機能を誘導したりする. ウイルスが偽の分子を感染細胞に持ち込むことによって, 宿主細胞が発現する本来の分子機能を抑制し, 感染細胞周囲の微小環境をウイルスに都合のよいように調整, さらには細胞内免疫も抑制してしまう. 宿主細胞という「船」をウイルスが乗っ取ってしまう海賊行為にたとえられ, molecular piracyと呼ばれる.

HHV-8の3つあるMIPのホモログはケモカインとして作用し血管新生を誘導するほか, ウイルスのコードするIL-6(vIL-6)の役割はmolecular piracyの代表的なものといえる(ヒトIL-6とHHV-8 vIL-6は約25%の相同性をもつ). PEL細胞の増殖にオートクラインに働く.Kaposi肉腫ではVEGFの産生を強力に促進して間接的に腫瘍の増殖,血管新生に貢献する. &note{:Aoki Y, Jaffe ES, Chang Y, et al. Angiogenesis and hematopoiesis induced by Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus-encoded interleukin-6. Blood. 1999 Jun 15;93(12):4034-43. PMID: 10361100.};
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Kaposi肉腫が腫瘍ではなく、反応性増殖病変であると考えられる性質

+ 病変は必ずしも進行性ではなく, 寛解増悪を長年にわたり繰り返す
+ 自然消退する例も多く報告されている.
+ 免疫抑制剤投与中の患者に出現したKaposi肉腫は薬剤中止により軽快消失する例が多い.
+ AIDSに併発するKaposi肉腫はその大部分が男性同性愛者に限られ, 性行動パターンの変化により最近は合併症が低下している.
+ 多発病変は転移というよりむしろ多巣性(multifocal)に出現してくる.
+ 病理組織学的にもKaposi肉腫細胞は異型性があまり強くない.

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**HHV-8の抗原タンパク, 血清疫学 [#x247a7e2]

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