#author("2022-07-21T20:22:11+09:00","","") #author("2022-10-04T17:46:03+09:00","","") [[Wikipathologica-KDP]] [[Epigenetics エピジェネティックス]] [[Epigenetics]] *ヌクレオソームとクロマチン繊維 [#e98cc7cd] >''DNAの収納'':DNAのらせんはなぜ絡まらないのか?¬e{:DNAのらせんはなぜ絡まらないのか ニコラスウェイド 2001年1月 翔泳社}; >ヒト細胞では長さ1.8-2.0mにおよぶ細長いDNA分子を, 直径わずか10μmの核内に, もつれもなくらせんの状態のまま収納しなければならない。うまく折りたたんでDNAを収納しなければDNA分子はたちまち絡まってしまうだろう。さらにDNAはダイナミックなデータバンクであり、このデータを記録したテープは一時も静かにおさまることなく, 細胞の転写装置がその情報をコピーするたびにあちらこちらで休みなくほどかれたり巻き戻されたりしている。細胞分裂時にはテープがまるごと2つに分かれ, 複製され再度まとめられてそれぞれの娘細胞の中に収められる。~ >この厄介な問題の糸口は, DNAが巻かれている特殊な糸巻き--&color(red){''ヌクレオソーム(nucleosome)''};とよばれる構造体にある。糸巻きは6個または8個で1つのグループを構成し、それぞれDNAを2回転巻きつかせている。ヒトの細胞では''約2500万個''の糸巻きを使いDNAを管理している。 >DNAの巻きついた糸巻き構造は''ヌクレオソーム・コア粒子''とよばれ&color(blue){ヒストン(histone)タンパク質};よりできている。8個のヒストンタンパク&color(blue){(ヒストン''H2A, H2B, H3, H4''がそれぞれ2分子づつ)};と''147塩基対の二本鎖DNA''の複合体である。コア粒子同士は数塩基対から約80塩基対の長さのリンカーDNAで隔てられている。 >染色体DNAはヌクレオソームのつらなった構造をとるが、生体内でクロマチンがのびた状態になることはめったにない。ヌクレオソームは次々に重なって規則的な配列をつくりその中でDNAはさらに凝縮した構造, &color(red){30nmのクロマチン線維};を構成する。 >ヒストンは、長いDNA分子を折り畳んで核内に収納する役割をもつ。ヒストンは''DNAに結合するタンパク質の大部分を占め''、ヒストンとDNAの重量比はほぼ1:1である。 #br &ref(nucleosome03.jpg,,60%); &ref(HistonStructure.jpg,around,80%); ヒストンコアはヒストン分子''H2A, H2B, H3, H4''の8量体からできている(右図) >&ref(30nmdigzag02.jpg,around,80%);クロマチンの30nmジグザグモデル¬e{Saiboh:細胞の分子生物学 第5版 ニュートンプレス}; >&color(#e2041b){''リンカーヒストンH1''};はリシン残基に富む一群の塩基性タンパクであり, ヌクレオソームをつなぐリンカーDNA領域に結合する. リンカーヒストンはヌクレオソーム上のDNA出入り口の両方またはそのいずれかに結合しDNA凝集やクロマチン高次構造形成に深く関与している. >コアヒストンを構成する4種のヒストンタンパク質は種をこえて強く保存されているが, リンカーヒストンには同じ種の中でもいくつかのサブタイプが存在する. #br #br >ヌクレオソームが次々に重なって規則的な配列をつくりまとまって凝縮し''クロマチン繊維''をつくる。 >クロマチン構造には''転写因子等との反応性に富む活性型''と''コンパクトに凝縮した抑制型''があり、これらの形を継承するか相互に転換するかが制御機構の基本形となっている。 #ref(chromatinNuc.jpg,around,80%) >分裂間期の細胞核内DNAを蛍光染色するとほぼ一様に分散した, ユークロマチン(前者)間に凝縮して強く染色されるヘテロクロマチン(後者)が観察される。 ヘテロクロマチンは染色体のセントロメア, テロメア領域に加えてY染色体やニワトリ雌のW染色体のように一方の性に特異的な性染色体上の広い領域に認められる。また染色体上の随所に近縁生物種間でも個々の種に固有のパターンで認められる場合が多い。~ ヘテロクロマチンを構成するDNAは一般に高度反復配列からなり, S期後期に複製される。~ 高等生物ではこれらの反復配列中のCG配列のシトシンが高頻度でメチル化を受けている場合が多い。 #clear #br **クロマチン構造変化によるエピジェネティック制御 [#jd456d68] #br #ref(heterochromatin02.jpg,around,80%) -遺伝子領域におけるクロマチン構造の変化は転写量に直接影響し, 遺伝子間領域(intron)やくり返し配列の大部分はヘテロクロマチン(heterochromatin)と呼ばれる不活性型クロマチンに封入されている。 #br -それぞれのクロマチン構造はDNAメチル化やヒストン翻訳後修飾といったクロマチンマークにより特徴つけられている。&color(red){活性型はメチル化されたヒストンH3リジン4(H3K4)やアセチル化ヒストンに富む};。''ヒストンのアセチル化はリジン残基のもつ陽性NH3+電荷を中和し, 強く陽性に荷電しているヒストンと陰性に荷電しているDNAとの相互作用を減弱する.よりそれ自身がクロマチン構造の開放に直接的な効果をもつ.'' #clear -DNA/ヒストンメチル化はクロマチン上のランドマークとして存在し, 多くの場合それらを認識する別因子による構造変換の足場として機能する。 >すなわちクロマチン制御機構は, >1.&color(red){メチル基転移酵素, アセチル基転移酵素などのwriter}; >2.&color(#0000ff){脱メチル化酵素, 脱アセチル化酵素などのeraser};など1,2による実際のクロマチンマーク着脱と >3.&color(#9400D3){「reader」(読み取り屋)によるマークの認識, 構造変換};という階層に分けられる。 #clear *ヒストンコアの共有結合による修飾・ヒストンコードの形成 [#xaf86e41] >ヌクレオソームの4種類のヒストンにはアミノ酸側鎖が存在し、さまざまな共有結合修飾をうける。リジンのアセチル化, モノ, ジ, トリメチル化, セリンのリン酸化などがその例である。~ 側鎖の修飾はヌクレオソームから突出したあまり明確な構造を持たない8本のN末端のヒストン尾部(histon tail)でおこることが多い。ヌクレオソームの球状コアでも特異的な側鎖修飾がおこなわれることもある。 -共有結合修飾はすべて可逆的である。 -ヌクレオソームの特定のアミノ酸側鎖修飾は&color(red){特定の酵素が行う。};''ほとんどの酵素は1つか, 限られた部位にしか作用しない''。修飾基をのぞくのは別の酵素である。 -各酵素はそれぞれ細胞の一生のある決まった時期にクロマチンの特定の部位に集まってくる -酵素を集合させるためには染色体上の特異的なDNA塩基配列に結合する遺伝子調節タンパク質(gene regulatory protein)が働く。 -遺伝子調節タンパク質は生物の一生のいろいろな時期に産生される。 -ヌクレオソームの共有結合は、開始させた遺伝子調節タンパク質が消失しても保たれ続ける場合がある。 -ヌクレオソームの修飾は細胞の成長の歴史として記録され、染色体上の位置, 細胞の状況によって、きわめて多様な共有結合修飾がさまざまなヌクレオソーム群に見つかることになる。 >&color(red){ヒストンの修飾は厳正に調節されている。もっとも重要なことは''ヒストン修飾を受けたクロマチン領域に特定のタンパク質が相互作用することになり, その結果遺伝子発現時期, 方法をはじめ, さまざまな生物機能が決定されること''である。}; >&color(red){''クロマチンの領域の構造そのもの''により、中におさめられている遺伝子の発現が決定され, 真核生物細胞の構造,機能が決まる。};-->エピジェネティックの重要な因子 #br #ref(K_methylation04.jpg,around,80%) #br #br リシン(K)のメチル化には度合いの異なる3種類が存在する。それぞれ''異なる結合タンパクに認識される''ため細胞にとって違う意義をもつことになる。アセチル化はリシンの正電荷をなくすことに注意。''アセチル化したリシンはメチル化を受けず, その逆もいえることが重要である(=&color(#e2041b){リシンのアセチル化とメチル化は競合反応である};)。¬e{Saiboh:細胞の分子生物学第5版 p222, ニュートンプレス}; メチル化を記号で Kme, Kme2, Kme3と表現する。 #clear #br **''ヒストン尾部の側鎖修飾'' [#rdd77eba] #br >''H3 ヒストンコアタンパクの修飾でよく調べられているもの''を図左に示す。大文字はアミノ酸記号。 M:メチル化, A: アセチル化, P: リン酸化 U: ユビキチン化~ リシン(K)やアルギニン(R)ではメチル化の仕方も幾通りかある。H3のK(リシン)9などではメチル化とアセチル化のどちらかの修飾を受けることがあるが両方同時には受けないことに注意(競合反応のため)¬e{:Santos-Rosa H et al., Eur J Cancer 41:2381-2402: 2005};~ H3だけではなく, H2A,H2B,H4でもヒストン尾部では共有結合修飾がおこっている。 >&ref(corehiston01.jpg,,85%); &ref(Histontail01.jpg,,85%); #br -主要な4つのヒストンコアのアミノ酸配列は何億年にもわたり高度に保存されてきたが真核細胞生物ではこれらとは別の変種ヒストン(variant histone)が少数ながらヌクレオソームに組み込まれる。 >''ヒストンコード仮説'' >''遺伝子の制御領域近くにあるヌクレオソームのヒストン修飾の組み合わせが、その遺伝子の転写効率に影響する''.¬e{:Jenuwein T, Allis CD. Translating the histone code. Science. 2001 Aug 10;293(5532):1074-80.}; >個々のヌクレオソームにはこれらの修飾により多様な組み合わせの目印(ヒストンマーク)をつけることが可能になっている。それは細胞にとってヌクレオソーム内に詰め込まれたDNAに対し外部から接近できる時期, 方法を決定している。 -ある目印はクロマチンの一部が新しく複製されたことを示し -べつの目印はDNAが損傷し修復が必要なことを表す。 -遺伝子がいつ, どのようにして発現するかを示す目印も存在している。 -タンパク質の小さなモジュールがヒストンH3のトリメチル化リシン4(H3K4me3)など特定の目印を識別して結合する場合もある >これらモジュールが他のモジュールと協同してコード読み取り複合体(code-reader complex)の一部として働く。こうしてクロマチンの特定の目印の組み合わせに引き寄せられたタンパク質複合体が適切な時に適切な機能をはたす。 -ヒストンに共有結合で付加されるヌクレオソーム上のこうした目印は動的であり染色体の位置に応じて除去と付加が繰り返される -ヒストン尾部はヌクレオソームコアから突出しているためクロマチンが凝縮しても利用可能で細胞に変化が起こるときに容易に変更できる目印になっていると考えられる。 -さまざまなヒストンコードの組み合わせがもたらす意味の解明はまだごく一部がわかっているのみである。 --H3K9me---ヘテロクロマチン形成, 遺伝子サイレンシング --H3K4me, H3K9A---遺伝子発現 --H3S10P, H3K14A--遺伝子発現 --H3K27me3--HOX遺伝子サイレンシング, X染色体不活化など ***ヒストン修飾 varieties and functions of histone modification [#v9af414d] ''ヒストン化学修飾とその機構'' ¬e{:牛島俊和 眞貝洋一編 イラストで徹底理解するエピジェネティックスキーワード事典 分子機構から疾患・解析技術まで 2013; pp40-72, 羊土社 東京}; -ヒストンには''メチル化, アセチル化, リン酸化''などさまざまな化学修飾が存在することが約50年前からしられている. これらの化学修飾の生命機構における重要性やその分子機構の実態はこの10年間に明らかにされてきた。 #br -ヒストンはヌクレオソームの構築単位で周囲にDNAを巻き付けクロマチン構造の根幹として機能している. ゲノムはヌクレオソーム構造をとることで転写が強く抑制されるだけではなく, ''ヒストン化学修飾によりヌクレオソームの構造や機能に強い影響を受ける. 化学修飾はエピゲノム制御の中心的分子機構として働いている.'' ヒストン化学修飾がゲノム制御とその機能に影響する機構は 次の2つと考えられている. +直接的なクロマチン構造への影響; 分子間相互作用に影響を与え, クロマチンの立体配置, さらにはより高次なクロマチン構造に影響をおよぼす.(シス型機構) #br +ヒストン化学修飾がクロマチンやヒストンと相互作用する分子の結合を阻害する, あるいは逆に, あるエフェクター分子の結合部位として化学修飾が作用している(トランス型機構) -エフェクター分子の阻害, 誘導のマークとして化学修飾が機能する場合は, 同じ部位の同じ化学修飾であっても, 影響を受けるエフェクター分子の違いにより, 転写を正にも負にも制御することが可能になる. #br -これまで同定されてきたさまざまな化学修飾は, 単独または, その組み合わせによりゲノムの制御と機能に異なる役割を発揮することが見つけ出されてきた. またヒストン化学修飾は他の部位の修飾やその機能に相互に影響を与えることが示されている. #br -ヒストン化学修飾は, ''修飾を付加する酵素とはずす酵素''により調節されうることが明らかになった. 修飾により起こるエピゲノムは静的なものではなく, 外界からの刺激により動的に常に変化するものである. //>''ヒストンメチル化酵素'' //-ヒトでは''60種類ほどの酵素''があると推定されている //-特有のSETドメインをもつ~ //&color(blue){''SETドメイン''};:ヒストンリシンメチル化酵素に共通にみられるドメインでショウジョウバエのヒストンメチル化酵素である, Su(var)3-9, Enhancer of Zeste(EZ), Trithorax group(Trx)の頭文字をとって名付けられた。 //>''MLL'' [myeloid/lymphoid or mixed-lineage leukemia (trithorax homolog, Drosophila)] //-ショウジョウバエの腹と胸の決定にはトライソラックス(Trx)酵素複合体によるH3K4のトリメチル化(腹になる)とポリコーム酵素複合体によるH3K27のトリメチル化(胸になる)が競合して機能している。 //-トライソラックス複合体の中のメチル化酵素は&color(red){MLLとよばれ,ヒトではMLLには1-5の5種類がしられている。};その変異はmixed lineage leukaemia(骨髄/リンパ混合系統型の白血病)を引きおこす。 //-ポリコーム複合体中のメチル化酵素にはEZH2とよばれ、前立腺, 乳癌などの悪性化にかかわっているようである。 //>''DNAメチル化'' //ヒストンのメチル化はDNAメチル化とも関連しており, ヒストン3の9番目リシンがトリメチル化(H3K9me3)されるとMeCP2やHP1という蛋白があつまりDNAメチル化が進行し, ヌクレオソームが閉じたヘテロクロマチンになる。&color(blue){ヘテロクロマチン領域};では遺伝子は不活性化されている。 ''ヒストン修飾の種類と主な機能'' ヒストン修飾では, これまでにリン酸化, アセチル化, メチル化, ユビキチン化, SUMO化, ADPリボシル化, プロピオニル化, ブチル化, ~ ホルミル化, シトルリン化, プロリンイソメル化, クロトニル化, チロシン水酸化, O-GlcNAc化, サクシニル化, マロニル化修飾などが存在していることが報告されている.¬e{:Tan M, et al. Identification of 67 histone marks and histone lysine crotonylation as a new type of histone modification. Cell. 2011 Sep 16;146(6):1016-28.}; これらの翻訳後修飾の機能はまだ十分に理解されていないが, &color(red){アセチル化(Ac), メチル化(Me), リン酸化(P), ユビキチン化(Ub)};などについては近年分子機能や,その重要性が解明されつつあり, 腫瘍化の分子ターゲットとして,治療薬への応用も期待されている. ヒストン修飾の詳細ページへ--->[[Histon modifications ヒストン修飾]]