#author("2025-05-13T17:58:01+09:00","","") #author("2025-05-13T18:03:33+09:00","","") [[Wikipathologica-KDP]] [[Complement system]] *発作性夜間ヘモグロビン尿症 paroxysmal nocturnal hemoglobinuria-PNH [#pbf90f15] &color(#c9171e){''PIGA(phosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class A)遺伝子が欠損した単独あるいは複数の造血幹細胞クローン拡大''};による''後天性造血幹細胞疾患''.¬e{:Takeda J, et al. Deficiency of the GPI anchor caused by a somatic mutation of the PIG-A gene in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria. Cell 73:703-711, 1993}; >[['''''PIGA'''遺伝子''>NCBI gene page:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/5277]] >Xp22.2 7exons >この遺伝子は [[''GPIアンカー''>Aplastic anemia#piyo]]''合成経路の最初の中間体である,N-acetylglucosaminyl phosphatidylinositol (GlcNAc-PI)の合成に必要なタンパクをコードする''. GPI anchorは多くの血球表面にアンカータンパク質を供給する糖脂質. -&color(#c9171e){''PNHでは造血幹細胞レベルで'''PIGA'''遺伝子が変異しGIP anchor生合成の最初のステップがから障害がおこり, すべてのGIPアンカータンパク(GPI-AP)が発現低下あるいは欠損している.''}; -PNHの血球では, decay accelerate factor(DAF), CD59だけではなく, ''好中球アルカリフォスファターゼ, 赤血球アセチルコリンエステラーゼ''など20数種類のGPI-APの欠損が報告されている. #br - -->[[GPIアンカーの説明ページ>Aplastic anemia#piyo]]を見る ***PNHの溶血と症状 [#ze31b31e] #br #ref(PNH-symptoms.jpg,around,right,80%) PNHにおいて''夜間の溶血による「発作性」早朝ヘモグロビン尿をきたすのは1/4~1/3''であり, &color(red){''基本病態は慢性血管内溶血''};である. 血管内溶血に加えて, &color(crimson){''血栓症, 骨髄不全''};が三大主徴とされる. ''慢性腎不全やまれであるが白血病化''がある. GPIアンカータンパク, ''CD55, CD59を欠損''する血球は補体による細胞破壊のターゲットになり, 赤血球は補体感受性赤血球とよばれる。感受性の違いにより, PNH-Ⅱ, Ⅲとされ, ⅢではGPIアンカー膜タンパクが完全に欠損している。 -Ham試験(酸性化血清試験):血清をpH6.5-7.0に酸性化することで補体系が活性化されることを利用した補体感受性赤血球の検出法. -ショ糖水(砂糖水)試験:イオン強度低下の条件下で補体系を活性化し補体感受性赤血球の検出をおこなう. -血管内溶血の指標にはLDHの値をみる. PNH赤血球クローンが3-5%以上であれば溶血がおこり, LDHは基準値上限の1.5倍以上の異常値を示す.(PNH白血球は23%以上でLDHが上昇する. 白血球が赤血球より多いのは輸血を受ける患者さんが多い, 赤血球寿命が長い, 赤血球が補体による破壊を白血球よりも受けやすいからと考えられる.)¬e{:Pu JJ, et al. Natural history of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria clones in patients presenting as aplastic anemia. Eur J Haematol. 2011 Jul;87(1):37-45.}; 。他に血清遊離Hb, ヘモグロビン尿, 血清ハプトグロビン低値はLDHの上昇とともに, 血管内溶血を示唆する。 -溶血所見を確認後, 高感度FCM法: FCMによりCD55-, CD59-, 赤血球/白血球を検出, またはFLAREにより検出する-により1%以上のPNHタイプ赤血球を検出する。 #clear ''PNH先行随伴病変'' -&color(red){''PNHでは, anaplastic anemia(AA)あるいは, MDSを先行病変として随伴することがある''};. AAを伴う頻度は日本では37.8%とアメリカの29.0%よりも高頻度である. MDSの随伴頻度は5%前後で差がない. ¬e{:西村純一,金倉 譲:発作性夜間ヘモグロビン尿症. 難治性貧血の診療ガイド「難治性貧血の診療ガイド」編集委員会編, P93-130,南江, 東京, 2011}; -PNH型血球が高感度FCMで陽性のAAは、免疫抑制療法に感受性が高く予後が良いことが知られている.¬e{:Hillmen P, et al.Effect of eculizumab on hemolysis and transfusion requirements in patients with paroxysmal nocturnal hemoglobinuria.N Engl J Med. 2004 Feb 5;350(6):552-9.}; #br #ref(PNH-Dx.jpg,around,left,80%) ''FLAER'' PNHのflowcytometry検査で, 細胞表面上のGPIアンカー型タンパク質のアンカー部に特異的に結合する遺伝子組み換えアエロリジンという蛍光細菌タンパクフレア(fluorescent-labeled inactive toxin aerolysin; FLAER)を使ってPNH血球を検出する新しい方法が用いられている。FLAERは赤血球を凝集させるために, 赤血球解析には使用できないことが欠点。 ''CD55/ CD59'' ''正常細胞ではCD55, CD59がともに陽性''. &color(blue){''PNH症例血球ではCD55-, CD59-クローンが出現する''};。程度は症例によりさまざまで1~99%. 0.01%程度のPNH血球を検出できる高精度FCMが用いられる. 顆粒球に対しては上記FLAERを用いた検査が推奨されている. CD55, CD59いずれも, 血液細胞のGPI-anchor(glycosyl-phosphatidylinositol anchor)の部分で膜に結合しているGPI 膜結合蛋白で, &color(blue){''補体活性化を抑制する補体調節タンパク質''};. CD59が補体による溶血阻止により重要と考えられている. -CD59, CD55と補体系のページに移動-->[[CD55, CD59>Complement system#piyo]] #clear ***PNHの治療-抗補体薬の登場 [#s1e89b01] #ref(complement-system03.jpg,around,right,90%) エクリズマブeculizumabは, &color(#c9171e){''PNHに有効な抗C5抗体薬''};として開発された.2007年に開始されたAEGIS試験により安全性・効果が確認され2011年に薬価収載. エクリズマブは''補体C5のepitopeと結合''し炎症性タンパクである&color(red){C5a(アナフィラトキシン)放出を阻害};するとともに, &color(red){C5転換酵素の作用を阻害し, これに続くC5b-C9膜侵襲複合体(MAC)の生成をさせない};. 病原体オプソニン化や免疫複合体除去には影響をあたえないため, 重要な補体機能は保持される. エクリズマブ投与でPNH赤血球は増加する(壊れない).LDHは減少し血管内溶血は抑制される。しかしCD55が欠損しているため''C3bとその分解産物であるC3d, C3dgがPNH赤血球上に蓄積し'', &color(red){血管外溶血が顕在化してくる};.~ 患者さんのLDHは著明に減少するのに貧血改善が思わしくない, 黄疸が持続するのはこの血管外溶血によるものと考えられる.直接Coombsテストは陽性とならないが, FCMを用いるとC3成分の蓄積が検出される.¬e{:Risitano AM,et al.Complement fraction 3 binding on erythrocytes as additional mechanism of disease in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria patients treated by eculizumab.Blood. 2009 Apr 23;113(17):4094-100.}; >補体のページを見る--->[[補体>Complement system]] クリックで関連ページに移動 #br #br **PNHの診断 [#t0f84b8f] 症状として血管内溶血(血清LDH上昇, 間接ビリルビン値上昇, 網状赤血球数増加など)が明らかな場合は, 鑑別診断のためFCM検査(CD55, CD59の発現低下あるいは消失)をおこなえば容易である. 溶血性貧血の症状が明らかでない場合はフローサイトメトリー検査をおこなわないと診断を見誤ることがある.