#author("2022-11-30T21:12:40+09:00","","") #author("2022-12-01T20:14:33+09:00","","") [[Wikipathologica-KDP]] ***Warburg effect [#bab4ecd8] 1924年Otto Warburgによりがんの&color(#c9171e){''ワールブルグ効果「がんは酵素の有無にかかわらず解糖系を亢進させてATPを産生する」''};-が提唱された. 1924年Otto Warburgによりがんの&color(#c9171e){''ワールブルグ効果「がんは酵素の有無にかかわらず解糖系を亢進させてATPを産生する」''};-が提唱された.~ -がん細胞は酸素が十分な状態でも, エネルギー源としてミトコンドリアによる酸化的リン酸化反応(TCAサイクル)によりATPを得るのではなく, 酸素を必要としない解糖系代謝経路により主にATPを得ている. ワールブルグ効果の発見により, ''代謝異常ががんの一つの特徴''ということが知られ, %%%現在ではATPだけではなく, がんが進展するために必要な核酸, タンパク質, 脂質など生体分子の前駆体を産生するために解糖系を活性化する%%%と考えられている.¬e{:Vander Heiden MG, et al. Understanding the Warburg effect: the metabolic requirements of cell proliferation.Science. 2009 May 22;324(5930):1029-33.PMID: 19460998};¬e{4:Satoh K et al. Global metabolic reprogramming of colorectal cancer occurs at adenoma stage and is induced by MYC.Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Sep 12;114(37):E7697-E7706.PMID:28847964}; その他, がん細胞では, ペントースリン酸経路, ヌクレオチド生合成, TCA回路, アミノ酸生合成, グルタチオン生合成, グルタミノリシス, 脂肪酸生合成, β酸化などさまざまな代謝経路が変動している.¬e{:Hay N, et al. Reprogramming glucose metabolism in cancer: can it be exploited for cancer therapy?Nat Rev Cancer. 2016 Oct;16(10):635-49.PMID: 27634447}; ''がんによる代謝リプログラミングの要因'' 1. ''がん細胞微小環境''¬e{5:Cairns RA, et al. Regulation of cancer cell metabolism. Nat Rev Cancer. 2011 Feb;11(2):85-95.PMID: 21258394};. がん組織では血管ネットワークが無秩序に過剰形成され, 血管構造自体も脆弱で機能的ではないためがん細胞での栄養, 酵素, pHレベルが正常細胞と異なっている¬e{5:Cairns RA, et al. Regulation of cancer cell metabolism. Nat Rev Cancer. 2011 Feb;11(2):85-95.PMID: 21258394};.栄養源であるグルコース, アミノ酸, 脂質などは代謝の重要基質であり, 濃度が変化するとそれに応じて代謝が変動する. 2. ''p53, MYC, PI3K, AKT, mTORC, HIF-1などに関連する遺伝子異常''によりシグナル伝達経路や代謝酵素の転写, 活性が変化して代謝異常を誘導する. 3. がん代謝は酸化ストレス, ホルモン, 炎症, 腸内細菌叢などのさまざまな要因によっても変動することが知られている.¬e{4:Satoh K et al. Global metabolic reprogramming of colorectal cancer occurs at adenoma stage and is induced by MYC.Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Sep 12;114(37):E7697-E7706.PMID:28847964}; #br **がん代謝を制御する分子群 [#b2c3d98d] ***MYC [#u8cdc4d3] MYC(c-MYC)は数千の遺伝子を制御するグローバル転写因子であり, 代謝, 細胞増殖, 血管新生, 細胞周期, アポトーシス, スプライシング, リボゾーム合成などさまざまな機能を担っている. MYCはMAX(MYC-associated protein X)とヘテロ二量体を形成して転写活性を獲得している. 正常細胞など, MYCの発現が正常な場合は, HIF-1αがMAXに結合することによってMYCのターゲット遺伝子の転写を阻害する.~ がん細胞では, 遺伝子増幅やWntシグナルの異常によりMYCが過剰発現するためMYC-MAXヘテロ二量体が安定し, HIF-1αに阻害されることなく, MYCのターゲット遺伝子の転写を誘導する. MYCは少なくとも, 215の代謝反応を制御し, 解糖系, メチオニン回路, One-carbon代謝, プリン合成, ピリミジン合成, 脂肪酸合成経路などを活性化し, 反対に糖新生やβ酸化を抑制している. 大腸がんでは, APC, βカテニンの変異, 遺伝子増幅, 成長因子やシグナル伝達経路の活性化, ホルモン, 炎症などによりMYC発現が誘導され, 代謝をリプログラミングしていると考えられている. #ref(c-MYCand-MAX.jpg,around,left,90%) #br がん細胞は酸素が十分な状態でも, エネルギー源としてミトコンドリアによる酸化的リン酸化反応(TCAサイクル)によりATPを得るのではなく, 酸素を必要としない解糖系代謝経路により主にATPを得ている. (ワールブルグ効果) 解糖系によりATPを得る方法は, TCAサイクルよりはるかに効率が悪く, がん細胞は大量のグルコースを消費する必要がある.がん細胞がもっぱら解糖系によりATPを得ることの明確なメリットのひとつは, 解糖系によりグルコースから乳酸へと代謝される過程の最初の中間代謝産物であるグルコース6-リン酸がヌクレオチドの合成を司るペントースリン酸経路の出発材料になることである.~ 活発な細胞増殖/DNA複製のためのヌクレオチド合成が必要ながん細胞にとり, グルコース-6リン酸を比較的容易に利用できる環境は好都合といえる. c-Mycは, ワールブルグ効果をがん細胞に付与するうえで重要な働きをしており, グルコースの取り込みを司る'''''Glut1'''''遺伝子の発現や, グルコースからグルコース-6リン酸への転換を触媒するhexokinase2をコードする遺伝子の発現を高めることでこの効果を発揮している. TCAサイクルはATPを得るためだけのものではなく, その中間産物は脂肪酸合成など, いくつかの分子の合成のための出発材料として使われているので, がん細胞はTCAサイクルを完全にとめるわけにはいかない. ~ この問題点を克服するためにc-Mycを用いてグルタミンの取り込みを促進し, グルタミン酸を介してTCAサイクルのなかの中間代謝産物であるα-ケトグルタル酸(α-KG)をつくり, そこからのTCAサイクル経路を動かしている.¬e{:Wise DR, et al. Myc regulates a transcriptional program that stimulates mitochondrial glutaminolysis and leads to glutamine addiction. Proc Natl Acad Sci U S A 2008 Dec 2;105(48):18782-7.PMID:19033189}; c-MYCはさまざまな機能をもつが, その生物学的機能のほとんどは, 転写因子としての機能を反映している. ~ c-MYC(N-MYCもL-MYCも同様)が転写因子として働くためには, パートナー因子であるMAXとの相互作用が必須である. c-MYCはMAX非存在下ではDNAに結合することもできない.(上図)