#author("2025-01-18T11:41:48+09:00","","") #author("2025-01-18T11:42:46+09:00","","") [[Wikipathologica-KDP]] *皮膚の血管 Vasculature of the skin [#cd45a7cc] ''皮膚組織の血管系構築と走行''¬e{:斉田俊明 皮膚病理組織診断学入門 改訂第3版 pp6-7}; #ref(skin vessels.jpg,around,left,90%); #br &color(#e2041b){''皮下組織小動脈 small artery (φ0.1~1.0mmほど) ''};から&color(#e2041b){''細動脈 arteriole(φ 0.03mmほど)''}; が分岐 → 真皮網状層深部において表皮に並行な&color(darkgreen){''網目状深層血管叢 deep plexus''};を形成する. Deep plexusからは細動脈が&color(#e2041b){''交通動脈''};として真皮内を表皮に向かい上昇, 真皮乳頭層下部に到達, 再び表皮に並行な&color(green){''浅層(乳頭下)血管叢 superficial plexus''};を形成する. Superficial plexusからは&color(#e60033){''毛細血管capillary(φ8μm)''};が, それぞれの真皮乳頭内へ&color(#e60033){''毛細血管係蹄''};としてループ状に分布している. 毛細血管係蹄後は&color(blue){''毛細血管後細静脈''};となり&color(blue){''浅層血管叢にもどり細静脈となる''};. 細静脈は動脈系分布と逆行するように&color(blue){''交通静脈''};として真皮内を下行, &color(blue){''深層血管叢を形成した後皮下の小静脈へ移行''};する. 皮下脂肪織内では血管は主として''葉間結合織内を走行している''. #clear ***血管組織像 [#bd6992dc] ''毛細血管'':~ 壁は内皮細胞 endothelial cellsと外側の周皮細胞 pericyte, さらに外側の基底板で構成されている. ''皮下小動脈から深層血管叢の太めの細動脈,真皮上層の細い動脈:''~ 壁は内膜( 内皮細胞とその周囲の一層の膜状内弾性板で構成される), 中膜(内腔を同心円状に取り囲むように走行する膠原線維, 弾性線維, 平滑筋細胞、および周囲の層状外弾性板により構成される), 外膜をもつ.~ 真皮上層の細い動脈壁には内弾性板, 外弾性板は存在しない. (EVG, E-HE染色などで明瞭) ''太い細静脈壁'':平滑筋細胞と弾性線維が存在するが, その走行は乱雑で, 層状の内弾性板を欠如している.(この所見は動脈と静脈の判別に役立つ) &color(#e60033){''毛細血管に続く細静脈(postcapillary venules)''};: ~ &color(#c9171e){炎症時において滲出液の漏出, 炎症細胞の血管外浸潤を生じる主要部位となる.}; -血管炎分類のChapel Hill分類(1994年)において, ''「小血管small vessels」''とは皮下の小動静脈と, それより末梢の細動静脈を含めたものとされている. (small vesselsの定義) ***動静脈吻合 [#i998adf7] 動静脈吻合は, 動脈から毛細血管を経ずに静脈へ直接血液を流すシステムである. 指趾の皮膚には特によく発達し, &color(#c9171e){''数層のGlomus細胞(類円形状の平滑筋細胞)''};が内皮細胞周囲を取り囲むように存在する. ***リンパ管 [#ta49a165] 皮膚にはリンパ管も発達している. 真皮内リンパ毛細管は内皮細胞のみで構成され, 周皮細胞や基底版を欠如している. リンパ管は次第に集合し太くなって多くは皮静脈に沿うように走行し所属リンパ節に至る *血管周囲性細胞浸潤 [#c9fb3622] Reference¬e{:今山修平 血管周囲性細胞浸潤 皮膚病理イラストレイテッド ①炎症性疾患 pp164-171}; 細胞浸潤は白血球が血管外へでることで開始されるため, 病初期には必ず血管周囲に白血球が密に存在する. 血管外へ遊出した白血球はその後, 標的へ遊走, 拡散する.(c.f. 接触性皮膚炎であれば表皮などが標的). こうして次第に標的周囲にも浸潤細胞が密に存在するようになる. これらの経過は, 浸潤開始部の血管と終点の標的周囲には密, 途中は疎なグラデ-ジョンをつくる浸潤細胞分布が形成される. 血管周囲に密な細胞浸潤があるのは, &color(#c9171e){''病的な透過性亢進が進行中であることを意味する''};. 多くの場合血球は血漿成分とともに管外へ滲出するため, &color(blue){''種々の程度の浮腫を伴う''};。 炎症などの病的透過性亢進時に血球を血管外へ出入りさせるのは, 微小循環系のうち, 毛細血管後細静脈(post capillary venules;PCV)である. &color(#c9171e){''炎症などの病的透過性亢進時に血球を血管外へ出入りさせるのは, 微小循環系のうち, 毛細血管後細静脈(post capillary venules;PCV)である.''}; -真の毛細血管true capillaryは φ10μm(ほぼ赤血球くらいまで)までのサイズで, 酸素供給などの生理的透過性permeabilityを担うが, 血球の出入りなど病的透過性亢進には関与しない. -真皮深く汗腺や毛嚢周囲にも毛細血管が存在するが, 付属器は胎生期に体表表皮シートが陥入したものであり付属器を取り囲むのは表皮とともに陥入した真の毛細血管である. ***紅斑 erythema [#v1c8b16f] 皮膚ではPCVは乳頭下層から真皮上層に位置しており, 紅斑を示す臨床像ではその部位の血管周囲性細胞浸潤は必発である. 紅斑は表皮から1-2mmまでの深さの単位面積あたりの赤血球増加のことであるが, 実際は乳頭下層/真皮上層の毛細血管後細静脈への血流増大(平常時の10倍まで許容量あり) どの臓器においても, 組織切除の過程で血管内赤血球は流失してしまい, 血管外の組織に浸潤している血液成分のみが残る. そのため病理組織作成において%%%紅斑はin vivoの赤い色の原因である&color(#c9171e){''赤血球はすでに存在せず,''}; &color(blue){''血管周囲性浸潤のみを呈する''};%%% 表皮直下毛細血管が下降し, 乳頭下層から真皮上層にいたると, そこで毛細血管後細静脈の粗い網目へ流入する. 皮膚毛細血管後細静脈(φ10-40μm)は通常薄い内皮細胞で境されている. (脾臓やリンパ節の毛細血管後細静脈がhigh endothelial cellsで特徴づけられるのとは異なることに注意. 脾臓やリンパ節では恒常的に血球の出入りがおこなわれているためと考えられる) ***血管周囲細胞浸潤/紅斑の実体の推移 [#xade025a] 皮膚においても脾臓やリンパ節同様に, 毛細血管後細静脈が病変時血球出入りの主領域である. 紅斑症はもとより, ウイルス性発疹症や薬疹などほとんどすべての紅斑病変は, この血管拡張と血管周囲細胞浸潤に由来している.~ 紅斑などの病的状態になると薄く広がっていた内皮が背の高い内皮細胞に変貌し, さまざまな接着因子(E-selectinなど)を発現して, 特定の白血球を選択的に血管外へ遊走させている. 組織では毛細血管は表皮直下乳頭内にあり, 下降して乳頭下層から真皮上層がPVCの位置になる. -皮膚病変の代表である紅斑(たとえ小水疱性丘疹であれ,ほとんどすべての炎症性皮膚病変には紅斑を伴う)の病理所見である血管周囲性細胞浸潤が乳頭下層や真皮上層におこるのはこのためである. 血管周囲から遊走した血球は血管と標的との組織空間に分布するが, 経過とともに特定部位に濃密に分布し、ある種の平衡状態をきたす. -基底細胞が標的(扁平苔癬が代表)の場合は表皮基底面にそって同じ幅の帯状細胞浸潤を示す. -蜂窩織炎では結合織内にほぼ均等に好中球が分布する. etc. -これら平衡状態の細胞分布を 「帯状 band-like」,「毛包周囲性 perifollicular」, 「斑状 patchy」, 「びまん性 diffuse」、「脂肪織小葉間 interfollicular」などと表現し診断に役立てている. 病変が継続するかぎり血球供給は続くため, 血管周囲には細胞浸潤が密に存在する. 組織に細胞浸潤があるにもかかわらず, 血管周囲には疎にしか分布していない場合は血管からの供給が終了したことを意味しており, ある病態が終焉したことを示唆する. -多核球は移動がはやいため, 血管周囲にとどまることはないことに注意. -病態終焉とともに血球はリンパ管へ移動して終了するか, 単球(組織球)により処理される. -表皮へ進入した血球は角化機転により角層細胞とともに排出される. 病態が開始して終了するまでの間, PVCは血球/炎症細胞をおくりだす門戸であり通過点でしかないため, 病態全経過を通じて血管そのものは障害をうけることなく, 病態終焉まで病的透過性を持続する.~ 紅斑が病態の程度に応じて拡大縮小することはあっても, 他の部位に移動することなく同一部位にとどまる理由である.