#author("2022-08-08T20:03:40+09:00","","") #author("2023-11-15T14:49:12+09:00","","") [[Wikipathologica-KDP]] [[リボゾーム病]] *p53 [#yd6745d5] p53はDNA腫瘍ウイルスSV40のがん遺伝子largeT抗原と相互作用する''核タンパク質''として発見された。 -p53は&color(red){「ゲノムの守護神」};と呼ばれ, がん発生に関する発がん遺伝子発現異常亢進, 損傷DNA, テロメア短縮, 活性酸素などのチェックをおこなうだけでなく、腫瘍の血管新生, 浸潤転移を抑制する遺伝子を誘導し, 発がんをすべからく検閲する役割を果たしている。 -ヒト腫瘍の約50%でp53自身の変異が, 約90%でp53シグナル経路の異常が検出される。高発がん家系 ''Li-Farumeni症候群''は 変異p53の優性遺伝による。p53ファミリー遺伝子 ''p73, p63''は発生分化において重要な機能をになうと同時にがん抑制にも重要な役をはたしている。 -ゲノムに損傷を受けた細胞の&color(blue){''細胞周期をG1期に止めて修復させる''};働きがある。修復できない細胞はアポトーシスやセネセンス(老化)を誘導して除去する。以上のような機能によりがん化する可能性のある細胞を除き, &color(blue){''がん抑制遺伝子として機能''};している。 -p53遺伝子産物には転写活性化、転写抑制などさまざまな活性をもつことが報告されているが, がん抑制遺伝子としての機能には転写活性化能が重要である。またp53が直接''Bax''を活性化しアポトーシスをおこすことが知られている。 p53 geneは''17p13.1''に20kbの範囲にわたり存在する11個のexonで構成され2.2-2.5kbのmRNAを作る。 p53遺伝子産物(TP53)は転写因子でN末端側は酸性アミノ酸のプロリンに富む転写制御ドメイン, 中央は特異的塩基配列結合ドメイン, C末端には四量体形成ドメインからなる。 &color(#e2041b){''腫瘍にみられるDNA結合ドメインに変異のあるp53はDNA結合活性がなく, 転写因子としての活性を喪失している''};。 #ref(p53protein.jpg,,75%) **p53シグナル伝達回路((井川俊太郎 p53ファミリーのシグナル伝達による癌抑制のメカニズム 実験医学 23(11); 211-223: 2005)) [#id150c56] SIZE(16){p53制御の中心的役割をはたす要のタンパク質 &color(red){''MDM2''};} #br &color(red){MDM2(mouse double minute2)はp53制御のためだけに存在する要のようなタンパク質};である。~ MDM2欠損および低発現マウスの表現形(胎生致死や血球分化異常, 低体重など)はp53欠損でレスキューされる。 ''MDM2によるp53活性制御'' 1) p53の転写活性化領域に結合し, p53の転写活性化を阻害する。 2) p53の&color(blue){[[''E3ユビキチンリガーゼ''>ユビキチンシグナル#he3bb3af]]};として機能しp53のプロテアソーム分解を促進する。 2) p53の&color(blue){[[''E3ユビキチンリガーゼ''>ubiquitin signaling#he3bb3af]]};として機能しp53のプロテアソーム分解を促進する。 3) 自身の核外輸送シグナル配列に依存し, p53と結合し核外輸送を促進する。 -''MDM2のNH2末端25-109アミノ酸領域が形成する溝''は鍵と鍵穴の関係でp53の転写活性化領域内αへリックスと結合し, COOH末端のE3ユビキチンリガーゼに共通するRINGモチーフに依存し, p53の複数のLys残基モノユビキチン化を触媒する。 -p53Lys残基モノユビキチン化は核内で, プロテアソーム分解は核内と細胞質内の両方でおこる。 この分解には最低4分子のポリユビキチン化が必要であり, モノユビキチン化p53を基質としてp300/MDM2複合体がポリユビキチン化を触媒する。つまりp300/CBPがE4酵素の一つであることが判明している((Meek DW, Knippschild U. Posttranslational modification of MDM2.Mol Cancer Res. 2003 Dec;1(14):1017-26. PMID:14707285)) -''p53とMDM2のネガティブフィードバック調節系''~ 活性化されたp53は'''MDM2'''遺伝子の第一イントロン内に存在するP2プロモータに結合し, MDM2を誘導する。&color(blue){''このようにp53が過剰であればMDM2誘導によりp53活性化阻害, p53量の減少がおこる。逆にp53活性化がおさまればMDM2は通常レベルにもどる''};~ 通常の状態ではMDM2は自身の活性による自己ユビキチン化により低レベルに保たれている。 -MDM2類似遺伝子'''MDM4'''('''MDMX'''とも呼ばれる)欠損マウスの胎生致死性もp53欠損によりレスキューされ, 致死性表現形は軽度であるがMDM2と類似している。 MDM4の機能やMDM2に対する必要性については結論はでていない。MDM4自体はMDM2によるユビキチン化分解シグナルをうけMDM2に制御されている。 -MDM2の''SUMO化''がMDM2自身のユビキチン化を抑制し, MDM2のE3リガーゼ活性をp53のユビキチン化, 分解へ移行させるとの報告がある.((Iwakuma T, Lozano G. MDM2, an introduction. Mol Cancer Res. 2003 Dec;1(14):993-1000.))((Moll UM, Petrenko O. The MDM2-p53 interaction. Mol Cancer Res. 2003 Dec;1(14):1001-8.)) ''MDM2制御シグナル経路'' 多数のシグナルがMDM2活性を制御することでp53活性を制御していることが知られている。 >''ARF(alternative reading frame, p19ARF)'' -ARFはMDM2と複合体を形成しMDM2のE3リガーゼ活性を阻害し, 核外保持することでMDM2を阻害、&color(red){p53活性化を促進する。}; -'''ARF'''変異もヒト腫瘍で報告され, 癌抑制遺伝子であることが示されている。 -活性化RAS, MYC, E2F, Wnt-βカテニンなどの異常な癌原性シグナルはARF転写を誘導し, p53の活性化により、これら癌原性シグナルのブレーキとして機能する。 >''AKT'' -細胞周期進行にはサイクリン依存性キナーゼによるRBのリン酸化による不活化が必要である。 -PI3キナーゼ-癌遺伝子AKT経路を介した成長因子受容体からのシグナルはCDKN1Aやp27kiplなどのCKIの核内移行を阻止しRBがリン酸化され細胞周期が進行する。 以上の&color(red){正常増殖シグナル時にAKTはMDM2のSer166とSer186をリン酸化し核内輸送を促進してp53を阻害して細胞周期を進行させている。};~ AKTの恒常的活性化はMDM2の核内輸送を強化, MDM2-p53-p300の結合を促進してp53を分解, 低レベルに維持する。 >''癌抑制遺伝子産物PTEN(phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome ten)'' -PTENはPI3キナーゼの活性化因子PIP3を脱リン酸化して阻害する。PI3キナーゼはAKTの上流活性化キナーゼなのでPTENはAKTを阻害することになり, MDM2のp53抑制を解除する。 PTENはp53の転写標的でもあることからautoregulatory feed back loopが形成されている。一方強度のDNA損傷を感知したp53は強力に活性化し&color(blue){カスパーゼによるAKT分解を強く促進し};細胞にアポトーシスを誘導する。 >''チロシンキナーゼ癌遺伝子c-Abl産物'' -核内と細胞質を往復する変わった特徴をゆうするキナーゼ。 -細胞質に限局するときは, RAS/ERK経路, PI3キナーゼ-AKT経路, STAT5経路を介して増殖性, 癌原性, 生存性シグナルを伝達する。 -核内ではアポトーシス誘導性シグナル経路で機能している。このとき複数のMDM2チロシン残基をリン酸化する。特にTyr394のリン酸化はMDM2によるp53抑制を解除する。このためC-Abl欠損細胞ではDNA損傷刺激によるp53の蓄積効率が低下する。 ''DNA損傷などによるp53の活性化'' >''ATM(ataxia telangiectasia mutated)'' -ATMは直接ではないがc-Abl依存性MDM2リン酸化, p53活性化を誘導する。 -ATMキナーゼははDNA損傷刺激によってMDM2のSer375をリン酸化しp53の分解と核外輸送を阻害して&color(red){p53を活性化する}; -その他にもcyclinA-CDK1/2, CK2, c-Abl, ATM自身のリン酸化が報告されている。 >''UV照射、低酸素(hypoxia)'' -この2つはMDM2mRNA, タンパク質自体の減少をおこす。 -hypoxiaで誘導される''転写因子HIF1α''もMDM2と結合しp53の核外輸送を阻害することで&color(red){p53機能を促進させる}; >''タンパク質合成系過剰によるリボソームタンパク質 L11''もMDM2を核小体に保持しp53分解を阻害する >p53転写標的遺伝子産物の&color(blue){''サイクリンG''はPP2Aホスファターゼの制御因子で};MDM2を脱リン酸化し活性化してp53を阻害, p53ネガティブフィードバック系を構成している。 MDM2は要のようなタンパク質で大変複雑な制御をうけている。''p53自体の修飾よりMDM2の修飾のほうがp53制御に重要と考えたほうが自然ではないかしらん''((1と同じ文献)) MDM2は&color(blue){正常細胞に対し強力な細胞増殖抑制活性を有し};、''その2.5倍の発現で細胞をG1期に停止する活性をもっている''。''&color(red){癌細胞は, この抑制活性に非感受性になっているため, MDM2の過剰発現が可能になっている};''((Deb SP. Cell cycle regulatory functions of the human oncoprotein MDM2. Mol Cancer Res. 2003 Dec;1(14):1009-16.)). この現象はp53, MDM2の機能的相互作用が非常に強力なため解析困難であり今後の研究課題となっている。 *p53タンパクとdiffuse large B-cell lymphomaの予後:大事なのはcoding regionだけじゃない [#p0258559] >''p53遺伝子3'URT(untranslated region)のSNPs''はDLBCLのR-CHOP治療予後に関連する。((Li y., et al. Single nucleotide variation in the TP53 3'untranslated region in diffuse large B-cell lymphoma treated with rituximab-CHOP: a report from the International DLBCL Rituximub-CHOP Consortium Progrum Blood 30May 2013; 121(22): 4529-4540)) >p53のmRNAは4つの部位より構成される -1.5'URT(untranslated region): 転写のプロモートをおこなう他, mRNAの安定化に働く。 -2.coding sequence(CDS):アミノ酸をコードする部位。 -3.3'URT(untranslated region): 制御シークエンスを含み, miRNAが結合する部分。 -4.poly-A tail: 核への輸送、転写, mRNAの安定化に必要。 >がんと関連するTP53変異は3種類に分類される。 -1. 後天性, 腫瘍関連 CDS変異 -2. 生殖細胞での変異. Li-Fraumeni症候群で認められる。 -3. 生殖細胞での多型(germline polymorphism): rs78378222のSNPは基底細胞癌と関連がいわれているがほとんどのSNPは関連がないようである。 *p53とリボゾーム病 [#c4df1f25]