#author("2022-07-10T14:49:01+09:00","","") #author("2022-07-10T14:49:16+09:00","","") [[Wikipathologica-KDP]] [[Angioimmunoblastic T cell lymphoma (AITL)]] [[Angioimmunoblastic T-cell lymphoma (AITL)]] *低分子量Gタンパク質 [#d0b03242] #br 細胞内シグナル伝達系の重要な分子であるGTP結合タンパク質のうち, ''単量体モノマーとして機能する20kDa~30kDaの分子を低分子量Gタンパク質という''。Gタンパク質にはこの他, レセプターとして働くヘテロ三量体型がある。 低分子量Gタンパク質は1分子のGTPまたはGDPを結合しており, 自身が結合しているGTPをGDPと無機リン酸(Pi)に加水分解する活性をもつ。この酵素活性に基づいてGTP結合タンパク質をGTPアーゼ(GTPase)と呼ぶこともある。 &color(red){''がん遺伝子産物のRas''};は最も早くより研究されてきた低分子量Gタンパク質であり, 後にRasに類似した低分子量タンパク質が同定されRasスーパーファミリーと呼ばれている。 ゲノムプロジェクトの進展により''ヒトでは100種以上の低分子量Gタンパク質が存在する''ことが明らかとなっており一群のスーパーファミリーを形成している。((Colicelli J. Human RAS superfamily proteins and related GTPases. Sci STKE. 2004(250):RE13.PMID:15367757)) >Rasスーパーファミリーは構造や機能に基づいてRas, Rho, Rab, Arf, Ranという5つのファミリーに細分される。 >Rasファミリー: MAPキナーゼカスケードなどを介して遺伝子発現, 細胞周期の進行を調節~ Rho/Racファミリー: 細胞骨格系の再構成に重要な役割を果たし細胞運動や極性を制御している。~ Rab, Arfファミリー: 小胞輸送を制御する~ Ranファミリー: 核細胞質間輸送を制御する 構造の特徴として, 共通した''「 G box 」''と呼ばれるコンセンサス配列が存在し, これらのアミノ酸残基はグアニンヌクレオチドとの結合や水解に重要な働きをしている。 また, 多くの低分子量Gタンパク質は, その&color(#ff4500){''N末端やC末端側のアミノ酸残基が脂質修飾を受けている''};。これらの''脂質修飾は脂質膜との相互作用を介して細胞内局在や活性制御因子および標的タンパク質との相互作用に影響をあたえ''低分子量Gタンパク質の機能発現に重要な役割をもつ。 -Ras, Rho/Rac, Rabファミリータンパク質の多くはC末端のシステイン残基がイソプレニル化修飾されており,一部の分子ではさらにその近傍のシステイン残基がパルミトイル化修飾されている。 -Arfファミリー分子においては一般にそのN末端のグリシン残基がミリストイル化されている。 ***低分子量Gタンパク質Rhoファミリー [#lee5b103] Rhoファミリーには20個の遺伝子が分類されRho, Rac, Cdc42に代表されるようにアクチンフィラメントの再構成に関与している分子が多い。20個のメンバーをもつRhoファミリはさらに8つのサブファミリーに細分されている。 Rhoファミリー中, ''Rho, Rac, Cdc42およびRhoD/Fサブファミリー''に属する分子は古典的低分子Gタンパク質であり他の多くのGタンパク質と同じ制御をうける。 #ref(SmallGTPase.jpg,around,right,) -上流因子の&color(green){''グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)''};によりGDP型からGTP型へ変換され活性型となる。 #br -Gタンパク質はGTPアーゼ活性をもつので, GTP末端リン酸基を加水分解してGDPとリン酸にする。結局, Gタンパク質はGEFの作用により一時的にGTP型(活性型)になっても自分自身のGTPアーゼ活性により自然にGDP型(不活化型)にもどる。 #br -低分子Gタンパク質自身のもつGTPアーゼ活性は一般的に低いが, &color(blue){''GTPase活性化タンパク質(GAP)''};と結合することにより酵素活性が亢進し不活性型にもどりやすくなる。さらに調節タンパク質の''グアニンヌクレオチド乖離阻害タンパク(GDI)''の存在は状況を複雑にしている。 #br -RhoファミリーGタンパクは通常C末端にCaaXモチーフを有し, このシステイン部分にプレニル基(ほとんどはゲラニルゲラニル基、ファシネル基の場合もある)が結合して細胞膜に局在している. GDIはGDP型のGタンパク質と安定に結合してC末端のゲラニルゲラニル基をカバーしてしまいGDP型のGタンパク質の細胞膜への移行を妨害して細胞質内にとどまらせる働きをする。 #br >以上, &color(red){典型的な低分子Gタンパク質は, GEF, GAPによる複雑な活性調節とGDIによる細胞局在制御をうけ, 活性型(GTP型)と不活性型(GDP型)との間を迅速に転換する(コンフォーメーション転換:Gサイクル)ことができる''「分子スイッチ」''として機能している。}; #br ''RhoファミリーGTPaseのGEFは30種類以上の分子''が知られているがこれは&color(blue){''Dblファミリーといわれるタンパク質群を形成している''};。 -Dblは最初に''d''iffuse ''B''-cell ''l''ymphoma由来の癌遺伝子として単離され, そのアミノ酸配列上、約200アミノ酸にわたり酵母の細胞周期にかかわる遺伝子Cdc24と相同な領域が見出された。 -その後DblはヒトのCdc42に対してGEF活性をもつこと, またそのGEF活性がCdc24と相同な領域に由来することが明らかにされた。この相同領域が&color(red){''DHドメイン''};と名づけられた。 -DblにはDHドメインのC末端側に隣接し''Pleckstrin-Homology領域(PHドメイン)''が存在する。PHドメインは多くの細胞シグナル伝達にかかわるタンパク質にみられる100アミノ酸あまりの領域で, タンパク質の細胞内局在やリン脂質との結合にかかわっている。PHドメインはDblのトランスフォーメーション能には必須であるがGEF機能には必要ない。 -Dblに続き多くの癌遺伝子産物や細胞増殖にかかわるタンパク質にDH-PHドメイン構造が発見されDblファミリーが形成された。 ***非定型Gタンパク質((鈴木春巳ほか T細胞分化における非定型Gタンパク質RhoHの機能 Jpn J Clin Immunol 2008;31(1):37-46)) [#q017057c] >非定型的Gタンパク質の最大の特徴は&color(red){GTP型/GDP型相互変換を行うことができない};ことである。~ &color(red){恒常的にGTP結合型(活性型)になっており, GDP型と相互変換することはなく, スイッチとして働くことはできない。}; >Rhoファミリーにおいては, ''Rnd, RhoU/V, RhoH, RhoBTBの4つのサブファミリー''に属する分子が非定型的Gタンパク質に分類される。 > -RhoH, Rnd, RhoBTBサブファミリーの分子はGTPアーゼ活性の発現に必要な残基に変異があり, GTPアーゼ活性をもたず, 常にGTP型となりGDP型に戻ることはない。 > -RhoU/V サブファミリーには, GTPアーゼ活性部位に変異は存在しないが,GEFによるGTP交換をきわめて受けやすい構造をとっており実質的には恒常的にGTP型になっている。 > -典型的なGタンパクとはことなり, &color(red){その機能は発現調節, りん酸化などの翻訳後修飾, および細胞内局在変化により調節されている};。''通常のGEF, GAP, GDIなどによる制御は受けない。'' > -非定型的RhoファミリーGタンパク質は''細胞種や分化段階により発現が細かく調節されている''ことがわかっている。