APC(adenoma polyposis coli) gene and colon cancer
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[[Wikipathologica-KDP]] [[Wnt protein]] *'''APC'''(adenoma polyposis coli)遺伝子とその異常 [#pa617626] #br &color(#7d26cd){'''''APC'''(adenomatous polyposis coli)遺伝子''};は''家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis; FAP)''の原因遺伝子で散発性大腸癌にも70~80%の高頻度に変異が検出される。FAPでは数百~数千の腺腫が大腸に発生し, 大腸癌に進展する常染色体優性遺伝疾患で一方のAPC遺伝子胚細胞変異が遺伝的に受け継がれている。もう一方のAPC遺伝子に異常がおこり腺腫が発生する。FAPなど遺伝性大腸癌の頻度は全大腸癌の1-5%程度と考えられている。 '''APC'''は''5q21-22に局在する''15exon(とりわけ15番目のexonが大きい)からなる遺伝子で2843aa, 300kdの巨大な蛋白質をコードしている。APCたんぱく質はほとんどすべての組織に発現し、とくに脳に発現が高い。細胞質、細胞接着面、核などに存在する。 #br ''APCタンパク質の構造と機能''((川崎善博, 秋山徹 癌抑制遺伝子産物APCの新しいはたらき 蛋白質 核酸 酵素 2001; 46(3): 228-232)) #ref(APCproteinStructure.jpg,,) #br >''1.(①)''N末端には約850aaにわたりヘプタッドリピートが存在しコイルドコイルを形成すると考えられている。APCタンパク質は正常細胞中では多重体として存在する。 >''2.(②) ''アミノ酸453~767には約45アミノ酸が7回繰り返されるアルマジロモチーフが存在する。βカテニン, smgGDS, SRP1, p120などにも存在するモチーフでタンパク質-タンパク質相互作用をになうと考えられている。 >''3.(③)'' アミノ酸1,014~1,210には15アミノ酸の3回のくり返し, さらに下流のアミノ酸2,031までにはFxVExTPxCFSRxSSLSSLSの20アミノ酸7回繰り返しが存在し, &color(red){''βカテニンのアルマジロモチーフと結合する。''};~ また, 20アミノ酸くり返し領域には&color(red){''Axinや類縁のconductin/Axilも結合する。''}; >''4.(④)'' アミノ酸くり返しのさらにC末端側には塩基性アミノ酸に富む領域があり, 微小管と結合する。 >''5.(⑤)'' C末端の284アミノ酸には細胞周期G2~M進行のチェックポイントに関与すると考えられているEB1が結合する。 >''6.(⑥)'' C末端にはS/TXVモチーフが存在しショウジョウバエの癌抑制遺伝子dlg産物のヒトホモログと結合する。これは細胞周期のG1~S移行を制御している可能性がある。 >アルマジロモチーフはヒトから線虫'''C.elegans'''までよく保存されているモチーフ。酵母をもちいたtwo-hybrid法により低分子量GTPタンパク質(Gタンパク質)のRhoファミリーに対する''ヌクレオチド交換因子(GEF)''をコードする遺伝子が単離され''&color(red){'''Asef'''(APC-stimulated guanine nucleotide exchange factor)と命名された。''}; >Asef遺伝子産物は619アミノ酸からなる分子量85kdのタンパク質でN末端にタンパク質-タンパク質相互作用をになうSH3(Src homology 3)ドメイン, 中央にはGタンパク質Rho familyに対するヌクレオチド交換反応を行うDH(Dbl homology)ドメイン、C末端には細胞膜への局在に関与していると考えられるPH(pleckstrin homology)ドメインが存在する。DHドメインをもつタンパク質は多数しられており, 癌遺伝子Dblの産物をはじめ発がん性を持つものが多い。~ AsefはAPCと生体内において結合して存在し, βカテニンも含めてAPC/Asef/βcatenin三者複合体を形成している。 >APCにはβカテニンの分解誘導以外にも重要な機能があり, &color(red){CDC42Rac特異的なヌクレオチド交換因子Asef};に結合, 活性化し細胞接着の低下, 細胞運動の増大を引き起こす。大腸がんで発現している変異APC断片は恒常的にAsefを活性化し接着低下、運動の異常亢進を引き起こしている。 >散発性大腸がんの7-8割に遺伝子変異があること、変異が非常に小さな腫瘍から生じていること、APC遺伝子の二つの対立遺伝子(allele)両方に変異やLOHが検出され腫瘍において正常APCタンパク質がつくられていないことなどから&color(red){'''APC'''は大腸がん発生のもっとも初期の段階に関与する癌抑制遺伝子と考えられている。}; ***APC遺伝子の変異 [#ie350180] -APC遺伝子変異のほとんどは&color(red){5'側半分におこるフレームシフト変異やナンセンス点突然変異で終止コドンができて短い遺伝子産物断片ができる};場合が多い。 -FAPでは変異の位置によりpolypの密度, デスモイドの有無など表現型が異なることが知られている。 -散発性大腸がんでは&color(#9a32cd){''コドン1,309~1,550に特に変異が集中しており、この領域をmutation cluster region(MCR)''};((Miyoshi Y et al., Somatic mutations of the APC gene in colorectal tumors: mutation cluster region in the APC gene. Hum Mol Genet. 1992 Jul;1(4):229-33. PMID:1338904))とよばれている. -APC遺伝子産物は''さまざまなタンパク質と複合体を形成し, 種々のシグナル伝達経路の制御にかかわっている。'' -特にがん化や形態形成に重要な役割をもつ''Wntシグナル伝達経路''において&color(blue){''Axin, GSK-3β, CKIなど''と複合体を形成};して結合し, βカテニンの分解を誘導する活性はAPCの癌抑制機能にきわめて重要と考えられる。 -大腸がんで発現している変異APCタンパク質は一般にAxin結合部位を欠損しているためβカテニン分解誘導ができない。このため, 大腸がん細胞内にβカテニンが大量に蓄積し&color(red){''βカテニン-TCF/LEF複合体''};による転写が亢進している。((Morin PJ, et al. Activation of beta-catenin-Tcf signaling in colon cancer by mutations in beta-catenin or APC. Science. 1997 Mar 21;275(5307):1787-90.PMID:9065402)) -APCに変異のない大腸がんでは, βカテニンに変異があり, 分解誘導複合体に抵抗性を獲得し安定化, Wntシグナル伝達経路を活性化している場合がある。((Goss KH, et al. Biology of the adenomatous polyposis coli tumor suppressor. J Clin Oncol. 2000 May;18(9):1967-79. PMID:10784639)) >また, APCは''アダプタータンパク質KAP3を介してKIF(kinesin superfamily)3A/3Bと結合''し微小管に沿って移動, 細胞先端の微小管末端部分に集積する。 >APCには核移行シグナルと核外移行シグナルが存在し細胞質と核をシャトル移行していると考えられる。 大腸がん以外のAPC遺伝子変異は低頻度であるが&color(red){胃癌、膵癌で報告};されている。''メラノーマ由来細胞株''にも低頻度ながら異常が認められている。 &color(blue){肺がん、食道がん、肝癌、脳腫瘍};ではAPC変異は認められていない。
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[[Wikipathologica-KDP]] [[Wnt protein]] *'''APC'''(adenoma polyposis coli)遺伝子とその異常 [#pa617626] #br &color(#7d26cd){'''''APC'''(adenomatous polyposis coli)遺伝子''};は''家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis; FAP)''の原因遺伝子で散発性大腸癌にも70~80%の高頻度に変異が検出される。FAPでは数百~数千の腺腫が大腸に発生し, 大腸癌に進展する常染色体優性遺伝疾患で一方のAPC遺伝子胚細胞変異が遺伝的に受け継がれている。もう一方のAPC遺伝子に異常がおこり腺腫が発生する。FAPなど遺伝性大腸癌の頻度は全大腸癌の1-5%程度と考えられている。 '''APC'''は''5q21-22に局在する''15exon(とりわけ15番目のexonが大きい)からなる遺伝子で2843aa, 300kdの巨大な蛋白質をコードしている。APCたんぱく質はほとんどすべての組織に発現し、とくに脳に発現が高い。細胞質、細胞接着面、核などに存在する。 #br ''APCタンパク質の構造と機能''((川崎善博, 秋山徹 癌抑制遺伝子産物APCの新しいはたらき 蛋白質 核酸 酵素 2001; 46(3): 228-232)) #ref(APCproteinStructure.jpg,,) #br >''1.(①)''N末端には約850aaにわたりヘプタッドリピートが存在しコイルドコイルを形成すると考えられている。APCタンパク質は正常細胞中では多重体として存在する。 >''2.(②) ''アミノ酸453~767には約45アミノ酸が7回繰り返されるアルマジロモチーフが存在する。βカテニン, smgGDS, SRP1, p120などにも存在するモチーフでタンパク質-タンパク質相互作用をになうと考えられている。 >''3.(③)'' アミノ酸1,014~1,210には15アミノ酸の3回のくり返し, さらに下流のアミノ酸2,031までにはFxVExTPxCFSRxSSLSSLSの20アミノ酸7回繰り返しが存在し, &color(red){''βカテニンのアルマジロモチーフと結合する。''};~ また, 20アミノ酸くり返し領域には&color(red){''Axinや類縁のconductin/Axilも結合する。''}; >''4.(④)'' アミノ酸くり返しのさらにC末端側には塩基性アミノ酸に富む領域があり, 微小管と結合する。 >''5.(⑤)'' C末端の284アミノ酸には細胞周期G2~M進行のチェックポイントに関与すると考えられているEB1が結合する。 >''6.(⑥)'' C末端にはS/TXVモチーフが存在しショウジョウバエの癌抑制遺伝子dlg産物のヒトホモログと結合する。これは細胞周期のG1~S移行を制御している可能性がある。 >アルマジロモチーフはヒトから線虫'''C.elegans'''までよく保存されているモチーフ。酵母をもちいたtwo-hybrid法により低分子量GTPタンパク質(Gタンパク質)のRhoファミリーに対する''ヌクレオチド交換因子(GEF)''をコードする遺伝子が単離され''&color(red){'''Asef'''(APC-stimulated guanine nucleotide exchange factor)と命名された。''}; >Asef遺伝子産物は619アミノ酸からなる分子量85kdのタンパク質でN末端にタンパク質-タンパク質相互作用をになうSH3(Src homology 3)ドメイン, 中央にはGタンパク質Rho familyに対するヌクレオチド交換反応を行うDH(Dbl homology)ドメイン、C末端には細胞膜への局在に関与していると考えられるPH(pleckstrin homology)ドメインが存在する。DHドメインをもつタンパク質は多数しられており, 癌遺伝子Dblの産物をはじめ発がん性を持つものが多い。~ AsefはAPCと生体内において結合して存在し, βカテニンも含めてAPC/Asef/βcatenin三者複合体を形成している。 >APCにはβカテニンの分解誘導以外にも重要な機能があり, &color(red){CDC42Rac特異的なヌクレオチド交換因子Asef};に結合, 活性化し細胞接着の低下, 細胞運動の増大を引き起こす。大腸がんで発現している変異APC断片は恒常的にAsefを活性化し接着低下、運動の異常亢進を引き起こしている。 >散発性大腸がんの7-8割に遺伝子変異があること、変異が非常に小さな腫瘍から生じていること、APC遺伝子の二つの対立遺伝子(allele)両方に変異やLOHが検出され腫瘍において正常APCタンパク質がつくられていないことなどから&color(red){'''APC'''は大腸がん発生のもっとも初期の段階に関与する癌抑制遺伝子と考えられている。}; ***APC遺伝子の変異 [#ie350180] -APC遺伝子変異のほとんどは&color(red){5'側半分におこるフレームシフト変異やナンセンス点突然変異で終止コドンができて短い遺伝子産物断片ができる};場合が多い。 -FAPでは変異の位置によりpolypの密度, デスモイドの有無など表現型が異なることが知られている。 -散発性大腸がんでは&color(#9a32cd){''コドン1,309~1,550に特に変異が集中しており、この領域をmutation cluster region(MCR)''};((Miyoshi Y et al., Somatic mutations of the APC gene in colorectal tumors: mutation cluster region in the APC gene. Hum Mol Genet. 1992 Jul;1(4):229-33. PMID:1338904))とよばれている. -APC遺伝子産物は''さまざまなタンパク質と複合体を形成し, 種々のシグナル伝達経路の制御にかかわっている。'' -特にがん化や形態形成に重要な役割をもつ''Wntシグナル伝達経路''において&color(blue){''Axin, GSK-3β, CKIなど''と複合体を形成};して結合し, βカテニンの分解を誘導する活性はAPCの癌抑制機能にきわめて重要と考えられる。 -大腸がんで発現している変異APCタンパク質は一般にAxin結合部位を欠損しているためβカテニン分解誘導ができない。このため, 大腸がん細胞内にβカテニンが大量に蓄積し&color(red){''βカテニン-TCF/LEF複合体''};による転写が亢進している。((Morin PJ, et al. Activation of beta-catenin-Tcf signaling in colon cancer by mutations in beta-catenin or APC. Science. 1997 Mar 21;275(5307):1787-90.PMID:9065402)) -APCに変異のない大腸がんでは, βカテニンに変異があり, 分解誘導複合体に抵抗性を獲得し安定化, Wntシグナル伝達経路を活性化している場合がある。((Goss KH, et al. Biology of the adenomatous polyposis coli tumor suppressor. J Clin Oncol. 2000 May;18(9):1967-79. PMID:10784639)) >また, APCは''アダプタータンパク質KAP3を介してKIF(kinesin superfamily)3A/3Bと結合''し微小管に沿って移動, 細胞先端の微小管末端部分に集積する。 >APCには核移行シグナルと核外移行シグナルが存在し細胞質と核をシャトル移行していると考えられる。 大腸がん以外のAPC遺伝子変異は低頻度であるが&color(red){胃癌、膵癌で報告};されている。''メラノーマ由来細胞株''にも低頻度ながら異常が認められている。 &color(blue){肺がん、食道がん、肝癌、脳腫瘍};ではAPC変異は認められていない。
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